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ミーネ 2

 ララサララとマーリーを含む総勢十四人は、昼過ぎにファル・ベルネの町を出立した。騎士団がいるのだから、傷の男達三人は不要だったのだが、彼らが女王陛下を王都まで送りたいと強硬に申し出たのと、ララサララがそれを認めたことで、この大人数となったのだった。

 王都警護役の騎士団第八大隊長ノースが、こそこそと王都に戻る必要はなかったが、万全を期して、一行は夕方近くになってから王都へと入ることにした。

 王都ファル・バラオの都市部に入る直前、一行は三手にわかれることになった。ララサララとノース達、港湾候とその部下達、マーリーと傷の男達だ。

 ララサララ達は、ゆっくりと王宮へと向かうことにした。そうすれば、いかにも巡回警備中という風情に見えるだろう。ララサララはギニーと交換した服をそのまま着ているので、ノースの馬に乗っていれば、目立たず王宮までたどり着けるはずだった。

 港湾候達は、王都内にあるアプセン州の王都屋敷へ向かうとのことだった。マーリーと傷の男達は、王宮に近い宿屋へといったん入ることになった。マーリーとしては、すぐにでもルーリーを助けに王宮へと飛び込みたかったが、そういうわけにもいかない。頃合いを見計るため、王宮内のことはノース達に任せて自重することとなった。

 別れる直前、ララサララは馬から下りてマーリーに向いた。

「マーリー。母君のこと、今しばらく待ってくれ」

「うん。ララは自分のことが大変でしょ? 無理はしないで」

「ん。……しかし、元々我ら兄妹きょうだい、我ら一族の問題だからな」

 そして、ララサララは胸元から首飾りを引っ張り出すと、それをマーリーに差し出した。昨晩拾ったルーリーの首飾りだった。その下げ飾りには、小さな龍青玉がはめ込まれている。

「あれ?」

「大隊長の家にいるとき、待機していた騎士にアリーの家まで走ってもらった。マーリーの手から、母君に返すがいい」

「ありがとう」マーリーは大事に首飾りを受け取った。

 場所は街道脇。道の先には、王都の灯火が灯り始めているのが見える。

 ふたりの周りを大人達が取り巻いていた。

「マーリー」

「なに?」

「……いや、何でもない」

 ララサララは、周囲の大人達を気にして視線を泳がせた。彼女にしては珍しい態度だった。しかしマーリーは、ララサララの言いたいことがわかった気がした。――例の歌を歌ってくれと、そう言いたいに違いない。

 これから王宮へと乗り込む大事なときに歌を請うなど、不謹慎だとでも思ったのだろうか。それとも、ララサララしか知らないあの歌を、他の人に聞かせたくないと思っている――などというのは、自惚うぬぼれすぎだろうか。

 マーリーは、ララサララに向かって軽く頷くと、大きく息を吸った。


 ――新緑に映える銅の髪

   陽光きらめく藍の瞳

   春の香まいて野を駆ける

   若き清しきその息吹


   雨雲払う風の唇

   宵闇散らす明の声

   踏みし草原咲き誇る

   紅き瑞しき立ち姿


   厳しき誓いの王の冠

   民草愛でる慈悲の掌

   山原海と精霊の

   満つる麗しき邦の長


 マーリーの歌を聴いた大人達は、突然のことに驚いたのか、ぽかんと立ちつくしている。

 ララサララは、歌い終えたマーリーに右手を差し出した。

 マーリーは躊躇せずにその手を握った。

「またな」

「またね」

 思い出したように、ノースが小さく拍手をした。それに釣られるようにして、ふたりを囲む輪から大きな拍手がわき起こった。歓声まで上がる。

 マーリーははにかんで頭を下げた。

 丸顔男がマーリーの肩を揺らす。「おい、今のはなんて歌だ?」

「題名はまだ……。僕が作った陛下の歌です」

「余も手伝ったであろう」

「ああ、そうでした」

「よし、俺が題名を考えてやる。〈麗しのララサララ〉ってのはどうだ?」

「あ、いいですね」

「や、やめんか! 恥ずかしい」

 そう怒って見せたララサララだったが、満更でもなさそうだった。ララサララはマーリーの手を離すと、ノースへと向いた。「大隊長、出発だ」

「はい」

 ノースが答えながら、にやにやと含み笑いをかみしめていた。

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