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マーリー 6

 アプ・ファル・サル王国は、大陸の東端中ほどに位置する、〈東の海〉に面した小さな国だ。

 アパニール山脈から連なるアパ・カタラ連峰の雪解け水は、タリル川に集まり、〈東の海〉へと注いでいる。その流れは扇状地せんじょうちを形作り、そこで人々は農業を営み、やがて国となった。王都ファル・バラオを筆頭とする大小約六十の村や町を有する小さな国、それがアプ・ファル・サル王国だ。

 平原の村々、山の麓の鉱山、そして港町。独自に発展してきたそれらの地域を一つにまとめ、王国の建国を初代国王ババカタラ・バラオがせんしたのが、今から遡ること百二十年ほど前のことだった。アプ・ファル・サルとは、〈山と海の間の地〉を意味し、元々この地域を呼ぶのに使われていた言葉だ。

 地図を広げてみると、王国の北には、北の雄ベスーニャ帝国が、アパ・カタラ連峰の反対側の裾まで迫り、南には、近年その勢力を拡大しつつあるアニシャ連邦が、アパニール山脈の東端から広がる広大な〈黒の森〉の南の端まで国土を広げていた。

 アパ・カタラ連峰と〈黒の森〉が天然の要害ようがいを成し、地勢的ちせいてきに攻め難いとはいえ、この地がどちらかの国に組み入れられたとしても、何ら不思議はなかった。しかし、アプ・ファル・サル王国は建国以来一度も他国に侵攻を許すことなく、その歴史を刻んできた。

 その最大の理由は王国の産業に求めることができる。

 ――魔法である。

 魔法は、かつては精霊と契約した魔法使いしか行い得ない、非常に限定された技術であった。しかし、二百年ほど前の〈龍青玉りゅうせいぎょく〉と呼ばれる石の発見以来、様相が変わった。

 太古の魔竜の化石ともいわれる〈龍青玉〉は、石そのものが魔力を蓄えている。それまでは、魔力とは、術者が〈精霊との契約〉と〈詠唱えいしょう〉によって導き出すもので、その場で発揮される以外に、蓄えることはできないものだった。しかし、〈龍青玉〉は始めから魔力を蓄えており、手順を踏めばいつでもそれを利用することができた。それこそ、魔法使いでなくても使えたのである。

 方向性と形を持たない、純粋な力と解される〈魔力〉。それを操り、ことをなすのが〈魔法〉だ。

 それまでの魔法は、奔出する力が大き過ぎて操るのに困難を極めた。そのため、大規模な土木工事や戦闘、あげく王侯貴族の遠距離の移動等に主に使われてきたに過ぎなかった。そんな中で、龍青玉を加工し、魔力を自在に扱う方法を確立したのは、アプ・ファル・サル地方の魔法技術者達だったのである。

 アプ・ファル・サルの鉱山では、龍青玉が産する。それ自体は珍しいことではない。しかし、それに高度な魔法細工を施し魔法具へと加工する技術は、他国の追随を許さない。それが、この小さな王国の価値を飛躍的に高めていた。近年まで地理的にほとんど顧みられることのなかった小さな扇状地は、今や世界の魔法産業の中心だった。仮にその魔法技術を手に入れることができれば、軍事バランスから経済バランスまで、国際情勢を大きく動かすだけの価値をアプ・ファル・サル王国は秘めていた。

 しかし、ベスーニャ帝国にしても、アニシャ連邦にしても、不思議とこの国に手出しをしてこなかった。理由は二つ考えられていた。アプ・ファル・サル王国を挟んで両大国がにらみ合った結果、お互い竦んでしまい均衡が取れている、というのが一つ。王国全体に巨大な魔法が仕掛けられているという伝説がまことしやかにささやかれ、しかもそれが信じられている、というのがもう一つだった。

 それはどんな伝説か――

 龍青玉の発見以来、魔法技術は規模を小さく小さくする方向に発達してきた。しかし、アプ・ファル・サル王国では、その威力を大きくする技術も開発されていて、それは、アプ・ファル・サルの王族バラオ王家の秘伝とされている。アプ・ファル・サル王宮には他に類を見ない巨大な龍青玉があり、それが、王国を他国の侵攻から守っている。下手に攻め込むとその魔法が発動し、何者も生きて帰ることができない――

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