王としての決意 3
「リルが……」
ノースからリルの最期を聞いたララサララは、しばし絶句した。そして、手渡されたリボンをじっと見つめた。
一行は、広場からノースの家へと移動していた。全員が中に入るのは無理だったため、ララサララとマーリー、ノースと港湾候の四人が卓を囲んでいる。ノースの部下達や例の三人は、馬の番をしつつ外で待機していた。
そしてノースが、まずリルのことを報告したのだった。
「ララ……」
マーリーが声をかけようとして、それをノースが止めた。ノースはゆっくり首を振ると、人差し指を立てて唇に当てた。
半刻(約十五分)ほどリボンを見つめていたララサララは、おもむろにそれを左手首に巻いた。
「ブリューチス大隊長」
「はい」
「リルを看取ってくれたこと、感謝する」ララサララの目に、涙は光っていなかった。「今はリルを悼んでいる時間はあまりない。そうだな? 港湾候」
「仰せの通りです」
「わかった。では、まず全員の情報を統合しよう」
ララサララの様子を見て、他の三人は感嘆した。無理をしている痛々しさが感じられない。そこにいる少女は、十五歳の多感さと同時に、確かな威厳を身にまとっている。その目に宿る強い光は、リルの死を無駄にはしない、という決意だろうか。
ノースは、刻一刻と変わる少女に目を見張った。
まず、ララサララとマーリーが、続いてノースが、それぞれ前日のことを報告した。そして港湾候は、昨晩ノースに語ったのと同じことを話した。
ララサララは、王宮にいる偽者について、それほど驚いた様子を見せなかった。
マーリーは、ルーリーが生きていることに、とりあえず安心したようだった。そして、ノースからルーリーの言葉を伝え聞くと、複雑な表情をした。ルーリーが魔術師だった事実を、どう受けとめればよいのか、まだ整理し切れていないようだった。
一方ノースはといえば、自分の父親の研究帳を見て目を丸くした。灯台もと暗しとはこのことだ、と嘆息せざるを得なかったのは言うまでもない。
そして、今までの数々の憶測を、港湾候の話が裏付けた。
「パウバナ大司教は、ある市井の研究家の指摘から守護魔法の真実に気が付いた、と話していました。おそらく、それは大隊長のお父上のことだろうと思われますな」
港湾候の言葉に、ノースは顔をしかめた。
「それと気付いて精霊大聖堂や王宮の書庫などを調べてみれば、何故今まで気付かなかったのか、という事柄が色々出てきたそうです。概ね、その研究帳の推測は間違っていない。そして、大司教は王子殿下にそのことを伝えた。一年半ほど前のことです」
「兄上がデル・マタル王国へ留学する直前か」
「王子殿下は、パパマスカ王陛下から、宝物庫のことを聞いて知っていたようです。大司教は、殿下と共にそこへも入ったとのこと。そして、資料を集め、守護魔法の謎と仕組みを解明した……。素材さえ揃えば再度その魔法を再現することが可能だ、と大司教は言い切りました」
「素材って……」ノースが嫌な顔をした。
「女王と魔術師か?」ララサララが訊いた。
――そう、それこそが、パパマスカ王退位から始まる、一連の出来事の根幹だと思われる点だ。
「その通りです」




