王としての決意 1
東の空から日が昇り始めた。夜のうちに降った雨が、夏の朝日を浴びて靄となる。
肌に絡みつく湿った大気の中を、九頭の馬がひた走っていた。先頭を行くノースの赤い髪が、炎のように揺れている。
一行はファル・ベルネの町を目指していた。
先頭で馬を駆るノースの脇を、港湾候とその部下二騎が併走している。また、背後からは、第八大隊の精鋭五騎がぴったりと追走していた。
港湾候とのやり取りで事態が差し迫っていることを知ったノースは、急ぎ王宮へと戻った。そして、一晩かけて八方手を尽くすと、その場をベルルに任せ、王宮を飛び出してきた。すでに明け方近かったにもかかわらず、待機していた港湾候は同行を申し出た。部下の五人も、不平一つ言わずに付き従ってくれている。
(さて、どう説明したものかしらね)
実は、ベルル以外にはララの話はしていない。後ろの部下五騎にもだ。口で幾ら説明したところで、そう簡単に信じられる話ではない。もちろん、説明などなくとも、ノースの命令に部下達は従うだろう。しかし、今回のような事態に際しては、部下達が事情を心得ているかどうかは士気に直接影響してくる。
(……ララに期待するしかないのかしら)
本物の女王なのだから、会えば皆わかるだろうか――ノースは、自分がララを女王だとなかなか認めなかったことを思い出した。女王というのは、王宮という舞台装置も含めての女王だ。片田舎のぼろ家にいては、信じろという方が無理だ。連れてきた五人だけではない。場合によっては、第八大隊三百五十人に、王宮にいる女王――偽者だが――に、反旗を翻させることにもなりかねないのだ。守護魔法によって、港湾候が言うところの〈腑抜け〉にされている彼らに、本物のララサララだという確固たる拠り所なしに、それを強いるのは難しいだろうか――
(それでも、やらなくては……)
街道沿いに少しずつ畑や家が現れ始めた。
ファル・ベルネの町まで、もう少しだった。




