それぞれの転機 5
真っ暗な道を、ララサララは走っていた。外はもうすっかり日が暮れていたが、ベールが持たせてくれた〈灯石〉が足下を照らしている。
「お供の者を付けます」と最後まで食い下がったベールに、「ちゃんと共はいるから」と説得するのが大変だった。
「共は〈とも〉でも、友だな」
ララサララはひとりそう呟くと、マーリーの元へと急いだ。きっと待ちくたびれているに違いない。
しかし、馬を繋いでいた木立の所にマーリーの姿はなかった。馬もいなかった。
「マーリー! どこだ?」ララサララは呼んでみたが、返事はなかった。
まさか、ひとりでどこかに行ってしまったのだろうか?
そんなことはないと思いつつも、ララサララは急に心細くなった。さっきまでは何でもなかった夜の闇が、突然、何かの意思を持ってララサララを見つめているような錯覚に陥る。ララサララは頭を振ると、〈灯石〉を高く掲げて、声を張り上げた。
「マーリー! ふざけていないで出てこい!」声は夜空にむなしく消えていく。「おい! 女の子をひとりで行かせるわけにはいかぬのだろ? 王都までは一緒なのだろ?」
ララサララは、自分が涙声になっていることに気が付いた。
本当にいないのか? ――本当に?
ララサララは木立の根本に座り込むと、膝を抱えた。野宿にはここ数日で随分と慣れたはずだった。しかし、今まではいつも側にマーリーがいた。ふたりならば、灯りがないことも気にならなかった。今は灯りがあっても、こんなにも心細い――
「?」
〈灯石〉の灯りに何かが光った。拾い上げてみると、それは、マーリーが首に賭けていたルーリーの首飾りだった。魔法細工と思われる繊細な模様の入った、飾り石のない首飾り。マーリーがこれを捨てるはずはない。ということは――何かあったのだ。
ララサララは勢いよく立ち上がった。
(助けなければ!)
〈馬屋〉の追っ手に捕まったか、それとも、夜盗にでも襲われたか――とにかく、探さなくては。
追っ手に捕まったとすれば、当然ファル・ベルネの町へ戻るだろう。
ララサララは首飾りを自分の首にかけると、ファル・ベルネの町へと続く道を走り出した。
馬に追いつけるはずがない――そんなことは、これっぽっちも思い浮かばなかった。




