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父と娘 3

 そこは、生け垣に囲まれた小さな館だった。正門と裏門には衛兵が立っている。ララサララとマーリーは、少し離れた木の陰から館の様子を伺っていた。

「あの衛兵は州軍の兵士だ。おそらく、私の顔は知らぬだろう」

「そう。じゃあ、僕があのふたりの気を引きつけるから、その隙に中に入ってよ」

「しかし、鍵がかかっておろう」

 門には立派な錠前がかかり、ちょっとやそっとでは壊れそうにない。飛び越えるの当然無理だ。

 辺りはすでに宵闇に包まれ始めていた。

「たぶん、ちょっと待てばチャンスが来るよ。いつでも出られるように準備をしておいて」

「マーリーはどうするのだ?」

「馬のところで待ってる」

 そうこうしているうちに完全に日が暮れた。すると、見計らったように館の扉が開き、中から正門へと灯りが近づいて来た。

「じゃあ、上手くやってね」マーリーはララサララに耳打ちすると、門に向かって駆けだした。

「おい!」

 マーリーは門に近付くと、あらかじめ拾っておいた小石を衛兵めがけて投げつけた。石は見事に衛兵のひとりの顔面を捕らえた。

「誰だ!」

「やーい! へぼ兵隊! ここまでおいで!」

 子供のような挑発をするマーリー。怒った衛兵ふたりがマーリー目指して突進した。

「このガキ! ひっぱたいてやる!」

「鬼さんこーちら! やーい!」

 ギニーと同じではないか、と半分呆れながら、ララサララはそっと門へ近づいた。しかし、やはり鍵がかかっている。ララサララは門脇の生け垣にもたれて様子を伺った。すると――

「おや、兵隊さんはどうしましたか?」と声がした。

 どうやら、館の執事が〈灯石〉を入れたとうを持ってきたようだった。声の主は燈を地面に置くと、鍵を出して門を開けた。錠前を外すとき、執事の手元が微かに青白く光ったことで、使われているのが〈穴なしの鍵〉だと知れた。執事は門の外に出ると、辺りの様子を伺った。

 ララサララは執事の視線が逸れた一瞬をついて、門の中へと滑り込んだ。窓から漏れる明かりを避けつつ、館の入り口へと向かう。背後からは、マーリーを見失った衛兵と、執事との会話が聞こえてくる。気付かれた様子はない。

 ララサララは、執事が開けたままにしてあった扉から館の中へと踏み込んだ。

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