女達 3
「ルカシア第五大隊長とジャジャフ第七大隊長、あと、ミューカス第二大隊長が、今回の警護計画に不満を漏らしていたようです」
「私を入れて半分か」
ノースとベルルは、王宮の裏庭へと続く道を歩いていた。空は朱に染まっている。もう一刻(約三十分)もすれば宵闇が訪れるだろう。
「ところで、変に探って何か感づかれなかったでしょうね」
「参謀同士の愚痴のこぼし合いは日常茶飯事ですから」
「私のことも愚痴っているわけね」
「そんな。滅相もない」
「そう?」
ふたりは裏庭へ出ると、口を閉ざして歩を緩めた。勝手口、そして裏門を通り過ぎる。目指す地下牢の入り口がすぐそこまで迫っていた。ちょうど、地下牢の警備を交替したばかりらしい分隊が、ノース達に敬礼をして通り過ぎた。
「いい頃合いですね」
「ええ」
ふたりは迷わず地下牢の入り口へと歩み寄った。衛兵がふたり立っていた。
「第八大隊参謀のベルル・イモコフです。分隊長はいらっしゃいますか?」
「はい。中におります」
「火急の用件です。お取り次ぎ願いたい」
衛兵のひとりがかしこまって返事をし、中に入った。そして、すぐに扉が開かれる。ノースとベルルは扉をくぐった。
「第一一二分隊長のカーナフです」
若い分隊長が敬礼をしていた。二十歳そこそこといったところか。まだ、任命されて日が浅いと思われた。
「カーナフ分隊長。緊急の用件です。王子殿下のご帰国に併せて警護を強化します。万全を期すために、ブリューチス大隊長が、投獄されている女官を取り調べることになりました。お手伝いいただけますか?」
「はい……。しかし、自分は何も連絡を受けておりませんが……」
「先ほど決まったことです。おっつけ連絡も入ると思います」
そして、ノースが後を引き継ぐ。
「カーナフ分隊長。物事は迅速に行わなくてはなりません。ここでの一刻が、先々の数時に匹敵することもあります」
若いカーナフにとっては、大隊長たるノースは雲の上の人だ。そんなノースに見つめられて、カーナフは耳まで真っ赤になった。
「しょ、承知いたしました」
「ありがとう」ノースは取って置きの笑顔でカーナフに微笑んだ。
「で、では、自分がご案内を……」
「それには及びません。すぐに済みますから」
ノースはそう言うと、カーナフの手から鍵束を受け取った。さりげなく、相手の手に触れることを忘れない。ベルルはすでに燭台を手にしていた。
敬礼したままのカーナフ達を残し、ふたりは地下牢へと続く階段へ足を踏み入れた。
「大人の女の魅力ですね」
「余計なことは言わない」
「はい」
そしてふたりは、階段を抜け、地下牢への扉を開いた。




