マーリー 4
夕食時が一段落すると、ルーリーはマーサと共に厨房に入っていった。マーサに異国の料理を教えて欲しいと請われたのだった。
夜が更けてきたこともあり、アンナとハンナは寝室に引き上げていった。
マーリーが座る卓には、いつの間にかラド親方の知り合いが集まっていた。
「坊主、ちゃんと飲んでるか?」
三十絡みの禿頭巨躯の男が言う。彼の前には、空になった麦酒の杯が並んでいる。
「お酒ってそんなに美味しいの?」とマーリーは発泡果汁を飲みながら訊いた。
「人生は酒と女のためにある」
鼻の高い痩せた男が赤ら顔で嘯いた。そして、「麦酒もう一杯」と厨房に向かって叫んだ。
「あんた達、明日も仕事だろう。いい加減にしときな」顔も出さずにマーサが答える。
「マーサの言うとおりだな」とラド親方が言い、鼻高男は首をすくめた。
「坊主達は明日はどうするんだ? しばらくこの町にいられるのか?」禿頭男が訊く。
マーリーは首を振った。
「王都に向かう予定なんだ」
「王都ファル・バラオか」鼻高男が呟いた。
アプ・ファル・サル王国の王都ファル・バラオは、ここ港町アプ・タリルから歩いて七日ほどの距離に位置している。アプ・ファル・サル王宮を戴く大きな町だ。
「何か用があるのかい?」禿頭男は、何かと聞きたがる質らしかった。
マーリーが答えを考えている間に、ラド親方が禿頭男を窘めた。
「答えなくていいよ坊主。すまんな。港は通りすぎる場所だ。詮索しないのがここの決まり事だ。こいつ、今日は酔っているみたいだな」
「別に隠すようなことは何もないよ。立ち寄った国では、必ず首都に寄ることにしているんだ。その国のことが一番よくわかるから」
「聞いたことがあるぞ」と叫んだのは鼻高男だ。「旅の歌い手は、他国の出来事を歌にするんだってな?」
「うん。どこに行っても、みんな他の国のことを知りたがるんだ。今日港でやったのはテテン王宮の恋物語だったけど、色々な歌があるよ。話だけを売る場合もあるんだ」
「なんか面白い話があるのか?」禿頭男が身を乗り出した。
「タダじゃねえって、今言ってたじゃないか」
ラド親方がそう言うのを聞いて、マーリーは「交換にしよう」と言った。「この国のことを教えてよ」
「よし、その話乗った。お互いの情報交換と行こうじゃないか」
禿頭男が嬉しそうに声を上げた。ラド親方と鼻高男も興味を示し、マーリーと彼らの交渉は成立した。




