女達 2
「何なのこれは!」
ノースは机に書類を叩き付けた。場所は騎士団第八大隊長室。部屋にいるのは、ノースと参謀のベルルだけだ。
つい先ほど、騎士団大隊長八人全員が騎士団長室に集められた。その場には、副騎士団長ふたりと、三諸侯までが顔を揃えていた。用件は、カカパラス王子帰国に際しての警護計画であった。
「今回、王都までの道程は四日。ご宿泊は各州城。三諸侯各閣下にご協力いただき、州軍の全面協力を仰ぐこととなった」
白い口ひげを蓄えた騎士団長メニュエ・バンダスが、必要以上に重々しく言った。
「騎士団は州軍と協力して各州城の警護を行う。第一、第三大隊はアプセン州城。第四、第五大隊はマーテチス州城。第六、第七大隊はサリュル州城だ。第二大隊はアプ・ファル・サル王宮の警護。第八大隊は王都での通常業務を行ってもらう。なお、王子殿下のお車には〈玉輪〉を使う」
〈玉輪〉は魔力を動力とした車で、本来は王専用のものだ。豪華な装飾が施された非常に贅沢な乗り物で、王の行幸以外には、国賓か、祭りくらいにしか使われない。
「何か質問は?」というバンダス騎士団長の言葉に、ノースが手を挙げた。
「何だ。ブリューチス大隊長」
「この四日間、王都を一大隊のみとするのはいかがなものでしょうか。通常通り三大隊が無理としても、せめて二大隊……」
「ブリューチス大隊長」と発言を遮ったのは、シュコーチス副騎士団長だった。「ひとりでは心細いかね? これだから女は」
「性別の問題ではありません」
「これは決定事項なのだよ。長くて五日だ。第八大隊は大変だろうが頑張ってくれ」とバンダス騎士団長が言う。
集まった面々の中で、最も年少、しかも在任期間の短いノースは、「わかりました」としか言うことができなかった。だから、部屋に戻ってきて荒れているのだった。
「しかしこれは、たいした警護計画ですね」と、ノースが机に叩き付けた書類に目を通したベルルが言った。「警護というより……」
「これはもう帰国祝賀行進よ」
曲がりなりにも女王がいる王都を手薄にして、王子の帰国祝賀行進をやるというのか。〈玉輪〉を引っ張り出し、しかも、ご丁寧にサリュル州まで通って。王都ファル・バラオは、マーテチス州とサリュル州の間にある。アプ・タリルの港からなら、〈玉輪〉で直進すれば、二日とかからずに到着するはずなのだ。もちろん、サリュル州をわざわざ通る必要などない。三つの州城すべてに宿泊し、三諸侯全員の顔を立てるという目的以外には――
「とにかく、至急中隊長と小隊長を集めて頂戴。一大隊での王都内警護の計画を立てるわ」
「はい」
「それから、例の件も急いだ方が良さそうね」
ベルルは頷くと、慌ただしく大隊長室を飛び出していった。