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マーリー 3

 夜になると、〈一番亭〉は酒と食事を求める人々でごった返した。

「あんた達、あんまり邪魔するんじゃないよ!」マーサの声が店に響き渡る。

 はーい、と声をあわせて返事をしたのは、マーサのふたりの娘、八歳のアンナと六歳のハンナだ。ふたりは店の常連客の人気者で、いつもマーサの手伝いをしつつ、卓の間を走り回っている。そんなふたりが、今日はルーリーとマーリーが座った卓に居座っていた。

「やっぱりふたりとも女の子だな。年頃の男の子が気になるか?」

 常連客のひとりが、麦酒むぎしゅの杯を傾けながら赤ら顔で言う。

「あら親方、それは焼き餅?」

 アンナのこましゃくれた口調は、店中の笑いを誘った。アンナが不満そうに頬を膨らませる。

 一方妹のハンナは、ルーリーの脇に張り付いて、彼女の手元を熱心に見つめていた。

「はい、出来上がりよ」

 そう言ったルーリーの手の中には、紙で折った鳥の姿があった。わあ! とハンナが歓声をあげ、両手で大事にそれを受け取る。

うまいもんだなあ」

 さっき親方と呼ばれた五十絡みの厳つい男が、ルーリーに声をかけた。

「ベスーニャ帝国の北方の町に伝わる、子供達の冬の遊びです。雪に閉じ込められた冬場は、ああして紙で色々なものをつくるんですよ」

「あんた達、そこの出かい?」

「いいえ。ベスーニャの方に教わったんです」

 ルーリーが屈託なく笑った。笑うと少女のようだ。その笑顔につられるようにして、親方は親子の卓に腰を下ろした。そして、「マーサ、このふたりに俺の奢りで飲み物を!」と叫んだ。

「俺は、ここら一帯の人足をまとめているラドってもんだ。親方と呼ばれてる」

 日に焼けた顔で、ラド親方は、にかっと笑った。ルーリーは愛想良く名乗り、マーリーは幾分憮然とした表情で会釈した。

「ほら親方、坊やに警戒されてるよ。綺麗なお母さんを持つと大変だね」

 マーサが、ふたり分の飲み物を持って卓にやってくる。そして、ハンナの手の中の折り紙を見ると、「あらまあ良かったね」と言った。

 マーリーの態度を窘めるルーリーを、ラド親方は遮った。

「坊主。マーリーと言ったか。心配はいらねえ、俺には恋女房がいるからな」

「何が恋女房だよ、尻に敷かれてるくせに」

 マーサが笑いながら言い、親子もつられて笑った。

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