道行き 3
マーリーの歌声を聞きながら、ララサララは、自分が何故こんなにも一生懸命に歩いているのかを考えていた。
正直、昨日の朝草原で目を覚まして、ララサララはほっとした。目が覚めたときに暗闇じゃなかったのは三ヶ月ぶりだった。深呼吸をすると、本当に久しぶりに生き返った気がした。
そして、晩餐会のことを思い出すと――なぜだか、急激に怒りが湧いた。
それが何に対する怒りなのか、それをずっとララサララは考えていた。
大司教に対する怒りだろうか?
女官長に対する怒りだろうか?
三諸侯に対する怒りだろうか?
それとも、兄上に対する怒りだろうか?
怒りの矛先がどこに向かっているのかわからず、矛の形さえわからない。しかし、この状況に怒りを覚えるのは、王として当然のような気がした。
だから、ララサララはとりあえず、まだ怒っていた。
いつの間にかマーリーの歌が終わっていた。
「もう一度だ」
「はい」
この暑さの中で歌い続けたら、喉がからからになってしまうだろう。それは、ララサララにもわかっていた。でも、請わずにはいられなかった。
マーリーの歌は王宮を思い起こさせた。こうしている現状と、歌が想起させる印象との食い違いは、怒りを持続させるのに一役買ってくれる――
白い鳥が、水際で水を飲んでいた。
「……?」
ララサララは鳥を目で追い、そして、鳥に気付いた自分に驚いた。
水を飲んで人心地ついたせいだろうか? 昨日まで、いや、さっきまで、鳥などまったく気にならなかったというのに。
ララサララは、いつの間にか立ち止まっていた。
「どうしたんですか?」
「鳥だ……」
「本当だ。なんて鳥だろう」
「知らぬ」
「魚を捕るのかな。分けてくれないかな」
「無理であろう。それより、もう一度歌ってくれ」
「はい」
――いつの間にか、怒りが薄らいでいた。
ララサララは、歌いながら歩くマーリーを見た。暑そうだった。見ている方も暑くなってきた。――そして、暑さをあまり感じていなかったことに、今更ながらに気が付いた。
暑い、足が重い、お腹が減った、汗で気持ちが悪い。それだけのことに思い至って、ララサララはふっと微笑む。
「……歌はすごいな」
「え? 何ですか?」
「何でもない。日が暮れぬうちに林を抜ける。急ごう」
ララサララは大きく息を吐くと、足を速めた。