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マーリー 2

「空いてる席にかけて、ゆっくりしてよ」

 恰幅の良い女主人が言った。場所は〈一番亭〉という宿屋兼食堂だ。

「ありがとうございます」

 金髪の母親が礼を言い、息子を促して席に着いた。昼時には早いのか、店内に客の姿は疎らだった。

 一刻ほど前(約三十分)、岸壁で歌い終えた親子は、集まった人々に宿の場所をたずねた。少年の手元の帽子は、観衆が入れた祝儀が溢れていた。それを目ざとく見つけた何人かが案内を申し出たが、脇から出てきたこの女主人が、ふたりを強引にここまで引っ張ってきたのだった。

「あんた達、あんな連中に案内させたら、いくらぼったくられるかわかんないよ。その点、うちは値段は良心的だし、料理も美味い。真心一番の〈一番亭〉ってね」

 女主人は、がはは、と豪快に笑うと、大きな手を前に差し出した。「あたしはマーサだ」

 金髪の母親は椅子から軽やかに立ち上がり、マーサの手を握り返した。

「私はルーリーです。こっちが、息子のマーリー」

 少年も立ち上がって、マーサに向かって一礼した。

「お世話になります」

「堅苦しい挨拶はやめとくれ。ここは、荒くれ者ばっかりの港町だからね」

 マーサは、「何か食べるかい」と言って、厨房に足を向けた。

「じゃあ、お店の看板料理を」とマーリー。

 店の入り口に掲げられた〈一番亭〉の看板に下に、捕り立ての魚を使った料理の名前が大きく書いてあったのを、マーリーは目聡く見つけていた。マーサは振り返ると破顔した。

「まったく、食えない坊やだね。その歳でもう女を煽てる術を心得ている。そう言われちゃ、腕によりをかけないわけにはいかないじゃないか」

 マーリーがはにかんだように鼻の頭をかき、マーサは鼻歌で〈麗しの王国〉を歌いながら厨房の奥に引っ込んだ。ルーリーはその様子を、嬉しそうな顔で眺めていた。


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