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出逢い 6

 小さな芽はいくつもあったのだろう。しかし、決定打になったのは、昨年の穀物の非常事態特別統制価格の制定と、連邦内での分配統制だった。

 天候に恵まれて豊作だったデル・マタル王国、ガガーラ皇国、シャル・バダ国のアニシャ東方三国と、日照りに加えて昆虫の大発生にやられた西の七ヶ国。連邦の中で穀物を分け合うのは当然としても、アニシャ連邦会議の席上で、七ヶ国が提案した非常事態特別統制価格はあまりに低いものだった。

 元々国土が広く、大穀倉地帯として豊かな実りに恵まれている三国だが、西方の国々の圧倒的な武力の前に、連邦に組み入れられた経緯がある。その力関係は今でも続き、統制価格についても、力で押し切られた形になってしまっていた。

 三国が連邦に加盟してから四十年あまり。七ヶ国に攻め入られた記憶を持つ国民が少なくなり、若い世代の間で、連邦からの脱退の気運がここ数年くすぶっていた。それを今回の件が決定的にしたわけである。

 統制価格のあおりをもろに受けた農民と地方官僚はもちろんのこと、王侯貴族達の間でも、アニシャ連邦脱退・新連邦設立の気運はいや増していった。しかし、脱退への方策となると具体性を欠いた。特に、軍事力の差をどうするのかという点について、なかなか妙案が出なかった。

 そんな中、アプ・ファル・サル王国も新連邦に参加させれば良い、との声が上がった。アプ・ファル・サル王国の魔法技術が手に入れば、軍事力の差が補え、アニシャ連邦西の七ヶ国と対等に渡り合うことができるのではないかと。最初に誰が言い出したのか、今となってはわからない。しかし、考えれば考えるほど、それは名案に思われた。

 はたして、アニシャ東方三国の国王連名で、アプ・ファル・サル王に密使が送られた。

 しかし、時のアプ・ファル・サル王パパマスカ・バラオは、その申し出を拒んだ。

 元々勢いだけで、感情的に先走っていたアニシャ東方三国の企ては暗礁に乗り上げた。アプ・ファル・サル王国の魔法技術抜きにして、七ヶ国に脱退を突きつけることは到底無理だと誰もが思った。

 しかし、またしても誰かが言った。デル・マタル王国に留学中のカカパラス王子が使えないかと。

 彼が留学中に、アプ・ファル・サル王国の第八代パパマスカ王が退き、誰かが勝手に王を名乗ったりすれば、王位継承権第一位の王子には、王位を奪還する権利が発生するのではないか。そして、アニシャ東方三国がカカパラス王子を支持すれば、彼の後見として、堂々と軍を率いてアプ・ファル・サル王国に入国することができるのではないか。カカパラス王子が王位を奪還し、新連邦に賛同すればそれで良し。王子の後見という大義名分さえ立てば、入国後に攻め落としてしまってもかまわない。アニシャ連邦西の七ヶ国は、アプ・ファル・サル王国の平定に反対したりはしないだろう。七ヶ国への脱退交渉は、アプ・ファル・サル王国を手中にした後始めればよいと。

 新たな密使が、今度はアプ・ファル・サルの三諸侯の元へ飛んだ。バラオ王家が独立を堅持しようとしても、諸侯が同じ態度を取るとは限らない。三国は、考えられる限りの餌をかざして彼らの取り込みにかかった。ことが成った暁には、三国での公爵の地位まで約束したとの噂もあった。国が小さく、諸侯が三家しかなく、爵位も存在しないアプ・ファル・サル王国の彼らにとって、それは魅力的だったに違いない。

 三諸侯はアニシャ東方三国の謀に荷担することを約束した。

 その後、共闘した三諸侯はパパマスカ王を退位に追い込み、無理矢理ララサララを第九代の王位に就けた――

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