表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/91

ララサララ 5

「陛下、何をご覧になっていらっしゃいますの?」

 中庭で本を広げていたララサララに声をかけたのはズーニー・サリュルだった。彼女は鉱山候ヴラン・サリュルの孫娘だ。ララサララの話し相手に、と鉱山候が王宮に連れてきていた。彼女は特に王宮内での役目もなく、日々遊んで過ごしている。歳はララサララより二つ上。目が痛くなるような、鮮やかな黄色の原色で染められたドレスを着ていた。

「君主論だ」

「まあ、さすがですわね」

 実を言えば、本を開いていただけでちっとも読み進めていないのだが、あえてそれを言うつもりはない。ララサララは本を閉じて卓上に置くと、呼び鈴を振った。

「はい」

 控えていたお付き女官のリルが現れた。リルは、ララサララとズーニーがいる四阿の手前まで来ると、片膝をついて頭を下げた。

「茶を頼む。いつものふたりもおっつけくるのだろう?」後半はズーニーに向けられた言葉だった。

「あら、噂をすれば。メリカとヒースが来たようですわ」

 ズーニーは中庭の入り口に向かって手を振った。リルは心得た様子でその場を辞した。

 メリカ・アプセンは港湾候ゴース・アプセン二世の姪。ヒース・マーテチスは平原候ジョシュ・マーテチスの六女だった。ふたりとも歳はズーニーと同じらしい。メリカはいつも豪奢な扇子を手にしている。ヒースは、首が折れるのではと心配になるほど、たくさんの首飾りを下げていた。

 ララサララはというと、髪を高く結い上げ、蒲公英色たんぽぽいろの軽そうなドレスを身につけていた。

「お待たせいたしました」

 リルが茶と菓子を持ってくると、三人娘達の小鳥がさえずるようなおしゃべりが始まった。話し相手と言うが、ララサララはこの三人の相手が苦手だった。話題といえば、服、宝飾品、髪型のこと。もしくは、舞踏会で踊った男の話や、誰と誰の仲が怪しいだのという噂話。別に政治の話をしたいわけではないが、書物や詩や歌の話がしたいと、ララサララはそう思っていた。

「評判の旅の歌い手が王都にいるそうですわね」そう言ったのはメリカだった。「なんでも、母と息子のふたり連れだそうですよ。母親の歌う〈麗しの王国〉は絶品だとか」

 珍しく、ララサララは身を乗り出した。

「そなた、聴いたのか?」

「いいえ、陛下。場末の酒場で歌っているとのことですから、そんな場所にはさすがに……」

「良いことを思いつきました。陛下。王宮にお召しになってはいかがでしょうか?」とズーニー。

「私も噂は聞きました。〈うそつき面〉や〈風の弦〉を使って、劇もやるようですよ」とヒース。

 ララサララは元来、歌を歌うのも聴くのも大好きだった。しかし、即位して以降、自分で歌うことはなくなった。歌えと言われても――おそらく歌えないだろう。ララサララは、自分の中のそういうところ――歌う心とでもいうもの――が、完全に挫けてしまっていることを感じていた。

 それでも、ララサララの歌好きを知っている王宮の面々は、ことある毎に宮廷楽団に歌を披露させる。しかし、ララサララはそれには飽いていた。

 旅の歌い手。きっと、ララサララの知らない歌を知っているだろう。絶品だという〈麗しの王国〉はどんなものだろうか。

「その親子連れの居場所はわかるのか?」

「お召しとあらば、すぐにでも見つかるでしょう」ズーニーが言う。

「わかった。明日にでも、この場に召してみよう」

 三人の娘達が黄色い声を上げた。

 ララサララは、本当に久しぶりに、自分もわくわくしていることに気が付いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>異 世界FTシリアス部門>「ララサララ物語 〜女王と歌と常闇と〜」に投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ