マーリー 9
〈一番亭〉の客室は小さく、ルーリーとマーリーが案内された部屋は、小さな藁の寝台が二つで一杯だった。それでも、荷物の少ないふたりには充分だったし、昨晩までの船旅と比べたら天国といえた。
マーリーは寝台の上に座り、窓から差し込む月明かりで〈うそつき面〉を磨いていた。船の上でも何度となく使用したため、潮風に汚れてしまっている。今手入れをしておかないと、龍青玉のはめ込まれた木製の面は、早々に痛んでしまうだろう。
隣の寝台から、ルーリーの規則正しい寝息が聞こえてくる。それを聞きながら黙々と作業をこなしているうちに、マーリーはいつしかララサララ女王のことを考えていた。
ララサララ・バラオ。自分と同じ十五歳で一国の王位に就いた女の子。
十五歳といえば、世間ではようやく一人前として認められる歳だ。働き手としても雇ってもらうことができる。しかしそれは、子供から大人という括りへ移され、それまで許されていたこと、見逃してもらえていたこと、庇われていたこと、そういう特権を失うことを意味している。
マーリーは考える。自分は少しは大人になれているのだろうかと。物心ついた頃からルーリーとふたりで旅をしてきた。父親の顔は知らない。今、突然ルーリーがいなくなったら、自分は旅を続けることができるのだろうかと。
自分と王女では立場があまりにも違う。王族として、王女として育てられたララサララには、いつ何時王位に就いても良いだけの心構えがあったに違いないのだが――
マーリーは手を休めて、窓の外の月を見上げた。
王位についた十五歳の姫様が見事な威厳をみせた――という話だったのなら、マーリーは単に感嘆して終わっただろう。その逸話をどんな歌にしたらよいか、楽しく考えたに違いない。しかし、常闇を望むと言ったララサララの話は、マーリーの心を激しく揺さぶった。常闇が何を指しているのか、それは未だに謎だという――
ララサララという十五歳の少女に、常闇を望むと言わしめたものは何だったのか。
〈早春の息吹〉と称され慕われた王女に、一体何があったのか。
マーリーは彼女に会ってみたいと思った。