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後悔

カイリ目線-


俺は生まれながらにして不幸だった


いや、世の中にはもっとずっと不幸な人がいる。

分かっているが俺は俺を不幸だと思う


母上は俺を見るたび悲しそうに顔をゆがめ父上を責めるように睨んだ。

しかしそれもそのうち父上ではなく子が産めなくなった自分のせいだと自責の念に押しつぶされて泣いた

姉上もそんな母を庇う様に俺の前に立っては悪者を退治するかのように暴れた

思うに父上も俺と血はつながっていないように思う

何と無くだが俺はこの家の人と自分は何かが違うと感じていた


貴族同士の訳の分からない見栄の張り合いも

上辺だけの二ヤついた顔も大嫌いだ

これならいっその事母を泣かすからという理由で暴れる姉の方が分かりやすくて良かった


その日は何のパーティーだっただろうか

退屈な貴族の集まりに嫌気がさして少し離れたところに避難していた時だった

一人の少女が声をかけてくれたのは

気の弱そうな彼女はキーシャと名乗りちょこんと隣に座る


定期的に開催されるパーティーになじめずいつも一人なのだと少し涙目で語っていた

もちろんキーシャの完璧なる作戦なのだがそんな事をカイリが見抜けるわけもなく

俺はすっかり心を奪われた


パーティーが少し楽しみになった

彼女と会えるならこのくだらない集まりもそんなに悪くないと

そう思えた


そうして迎える姉上の誕生日に俺は心を弾ませた

キーシャが来る

パーティー当日

俺がたまたま彼女を見つけたのは駆け足でトイレから出てきた時だった


「キーシャ!」


声をかけると彼女は驚いたように振り返り、すぐに花開いたような柔らかい笑顔を作った


「たまたまアイリス様にお会いしたら友情にとブローチをくださったの。

一番にカイリに見せたくて走っていたらあなたがいたからとても驚いたのよ」


嬉しそうに弾む声に俺もどきりと胸が高鳴った


「付け替えてくださる?」


そういって胸元を差し出され心臓がはち切れそうなほど高鳴った


ありがとうとほほ笑むとみんなにも自慢したいとでもいう様にウキウキとした足取りでキーシャが去っていった


ここで俺はふとアイリスを思い出す

友情にと

あげるわけがないと思った

あのブローチは初めて見たがどういうものかは知らない

何かやらかすとしか思えなかった


予感は的中した

激高するアイリスにジュースをかけてやった

そんな気がして用意しておいてよかったとも思ったが誕生日パーティーの主役にやりすぎたかな

少し反省した


アイリスが立ち去った後、キーシャはわっと泣き崩れた

友情の印だと思ったのにと

訳が分からないといった周囲に俺が説明をした

アイリスが嵌めたのだと

フィリップは難しい顔をしていた

少し前のやりすぎたという気持ちはもっとしっかり懲らしめるべきだったに変わった


キーシャを慰めて少し落ち着き出したころで、彼女が慌てて身の回りをキョロキョロとし始めた

何かと思うと先ほどアイリスに突き飛ばされたあたりに付け替える前の元々キーシャがつけていたブローチがバラバラになっていた

キーシャも気が付いたのかどうしようと俺にすがった


許せないと思った

アイリスのことは嫌いだが、嵌めるだの陥れるだのそういった類はしないと思っていた

馬鹿で正直な奴だと思っていたのに所詮はあいつも損得勘定ばかりする一端の貴族なんだとひどく幻滅した


顔も見たくないと思ったが見るのも辛いと言わんばかりに俺に渡されたブローチを見ていると気持ちが抑えられなくなった


翌朝、扉を蹴破るように開けると呑気な姉の姿

責める俺に訳が分からないとでも言いたいのかとぼけ顔のアイリス

性根が腐ってやがる

気がつけばブローチを投げつけていた


去りながらにキーシャのブローチを投げたことを後悔した

あれは、俺とキーシャを結ぶものだったのだ

アイリスが外出した時にでも回収しよう


そう思って扉の前で待っているとブローチを持ったアイリスが出てきた

片付けは侍女にやらせると思ったが意外だ


アイリスはブローチを直そうとしていた

意外な行動に驚いた、自分の言葉が姉に響いたのか?そんな訳は無いなと思いながらも見守る

すぐやめるかと思ったが根気強くやり続け夜中になってもアイリスの部屋には灯りがついていた

寝静まった頃こっそり確認すると中々の出来栄えだった

意外な才能があるものだ

ゴリラ女だとばかり思っていたがこんな一面もあったのか


きっと仲直りをして帰ってくるだろう

そう思ったが万が一いじめる可能性もあると考え馬車の荷台に潜り込んだ


何かあったら助けよう

キーシャはか弱い


馬車が止まりアイリスが降りたことを確認すると俺は荷台から飛び出した

すぐにアイリスとキーシャを見つけた

今まで見たことがないくらい怖い顔をしてキーシャが立っていた

怒っているのだろう 当然だ


聞き耳を立てるとキーシャのお茶の誘いに断りの常套句を述べていた

まったくもって失礼だ

殴りかかろうと思ったがやめた

アイリスがブローチを出したからだ


一生懸命作ったという旨を嬉しそうに話すアイリス

なんだか努力を知っているからか微笑ましい気持ちになる

キーシャが許さないわけがない

彼女は心の優しい女性だ


と思ったのに


「なにそれ、私がわざと転んだの、ご存知でしょう?

猫をかぶって何を企んでいるのか知りませんが・・これは私があなたを陥れるために使っただけですわ」


聞いたことのない声だった

ふわりと笑うはずの彼女の顔は醜くゆがみ蔑むようにアイリスを見ていた


そして信じられない事実

わざと転ぶ・・・?

陥れる為・・・?


それじゃあまるでキーシャがアイリスを陥れたように聞こえる

そこで頭をよぎったのは昨日俺が怒鳴ったときにしたアイリスの訳が分からないという顔だった


とぼけたような顔に俺は腹を立てたが今思えば困惑していたように思う

もしキーシャがアイリスを陥れたのだとしたら

アイリスがパーティーの日返せと怒ったブローチもキーシャが盗んだのだとしたら


俺はとんでもない事をしたのではないだろうか


頭からジュースを浴びたせいでアイリスはあのまま戻ってこなかった

二年間この日フィリップと踊る事だけを楽しみに練習してきたダンスは披露することなく終わり

まんまとキーシャがフィリップと踊っていた


そして何より俺はあの日

周囲にいかにアイリスが最低か風潮して回った

主役にも関わらず令嬢に喧嘩を売り注意されたことに憤慨しわがままを言って帰ったと両親にも伝えた


誕生日パーティーは毎年行われるが10歳は特別だ

成人とまではいかないが、貴族の中ではいずれ跡を継ぐであろう我が子をお披露目するという意味が強くなり、社交ダンスデビューもこのタイミングで行われる。

大々的に祝われ周囲は品定めのように主役を見る

場合によっては将来我が子と結ばれるべき品位が備わっているとして見初められることも多い

逆に失敗すれば将来的立場が危ぶまれる

このパーティーで全てがとまではいかないがその後も10歳の失敗が足を引っ張ることになる


だからこそキーシャはこのタイミングを狙ったのだ


アイリスの誕生日はめちゃくちゃだった

いや、俺が追い打ちをかけるようにめちゃくちゃにしたのだ


ぐちゃりと踏みつけられたブローチは俺がつぶしたアイリスの未来のように思えた


涙を流すアイリスに自分が騙されていたという現実が重くのしかかった


つぶれたブローチを拾う余裕が俺にもアイリスにもなかった



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