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立場

「全然可愛くない!!」


私はそう叫ぶと芝生の上にごろりと転がった


「まぁまぁ、初めのうちは仕方ないよ」


ロールズは苦笑いしながらもここがうまく出来てるからとかこういう所はもっとこうした方がとか色々とアドバイスをくれる

まぁロールズもうまく出来るわけではないのだが、本当に優しいやつだと思う


作業を開始してまだ2時間程度しか経っていないが私はあまりに上手くできない蝋でのブローチ作りにイライラしていた


10歳までに築き上げてきたアイリスの短気は私の中にしっかりと根付いていた

生前の私はこんなにも短気ではなかった


「はぁ、、もうやめられて職人に任せたら」


「やる!まだまだやれるわ!」


ポツリと呟かれた言葉に私は慌てて起き上がると作業を続行する

その姿が面白いのかロールズはクスクスと笑っている

中庭でカラフルな蝋を用意してぺたぺたと壊れたパーツを貼り合わせていく


「もっと簡単だと思ってたー」


蝋は貼り付ける時は乾きやすく貼り付けたあとはいつまでも乾かずパーツが流れるのだ

まぁ感じ方の違いなのかもしれないが

ロールズに提案したのは午前中

何後もめげては励まされめげては励まされして

ずっとこれをやっている。たった一つのブローチ作りでこんなに大変なのだ。

これからはもっと物を大切にしようと思う。とりあえず癇癪破壊はやめよう

まぁ私がやったようで私がやったわけではないのだが


気がついたら日も落ちそうになっていた


そこで気がついたのだ、

全てのパーツが貼り合わせ終わったはいいもののメインになりそうな大きな宝石がこの飾りには欠けていた


「メインの宝石がないわ」

「そうですね、、なんだか寂しいですね」


うーん

二人で頭を悩ませ、そしてうん


「作ろう!」


笑顔でそう言うとロールズの顔がひきつるのが分かった

前に見たことがあるのだ

なんか、蝋を薄くしてバラを作る動画


「私が頑張って作るから、楽しみにしてて!」


私の作戦は手作り感満載のブローチをキーシャにあげて仲直り作戦だ

まさかキーシャもあの乱暴者のアイリスが嫌がらせで弟に渡したブローチを直してくるなんて思っておるまい

気を許してさえ貰えれば私の王子様捕獲作戦にも役立つかもしれない

と強気に言ったが本心としては噛ませ犬としては強すぎるので私のことを目の敵にしないで欲しいのだ

もっと単調で分かりやすく理不尽な子じゃないと踏み台として適さない

例えば記憶が戻る前のアイリスのように暴れ馬で理不尽単調暴力を行うような女が適任だ。

ん?キーシャはそれが目的だったのではないだろうか

クッソやられた、王子様はあげないんだからね


キーシャには明日の12時前に会いに行く約束を取り付けた

というか伯爵家から行くといわれたら男爵家は断れないのだが

明日までにメインの飾りを作ろう

もしこれがうまくいけば私は初めてとなる女の子のお友達ができるやもしれないのだ

そう、

前世も含め初めての友達が


------------------------------------------------


浮足立っていた私の頭は一気に冷えることととなる


キレイなピンクのハイヒールの底でぐちゃりとつぶれるバラを目に私の頬は自然と濡れていた



-11時間前-


私の作業は深夜にまで及んだ

アイリスは生前の私よりなかなかに不器用だ

震える手で作ったバラは不格好だったが何度も直すうちになかなかきれいに作れるようになっていた


出来た

そっとブローチにつける

なかなかかわいいと思う。もちろん元のブローチのほうがずっと洗練されてきれいだったと思う

ただ、これはこれでかわいいと思う

手作りの暖かさというかなんというか

表面にさっとニスを塗るとツヤツヤとした照りを放ち一層かわいく私の目には移った

私にかかればこんなもよ!!

深夜を告げる時計の針に私はあわててベットに潜り込む明日ロールズにこの素晴らしい出来のバラを見せるのだ


翌朝、一番にロールズに見せると驚いた顔をしていた

そしてそわそわとした後そっと不格好な花を差し出された

私では飾りなど作れずがっかりしてくると思っていたとの事


「出来たんならこれはいらないね」


そう言ってしまおうとする手をフッと止めロールズはこちらに向き直る


「俺が持ってても使わないし、アイリス様が・・・いやでも不格好だし」


あげるかあげないかと悩む手に欲しいと言えば良い事は分かっているが言い出せない

私は前世で彼氏と呼べるものはいたことがない

35歳生娘

魔法使いや妖精と言われる存在になってしまった

それどころか友達すらいない私にはこの簡単すぎるロールズルートの選択肢が見えない


「アイリス様はたくさんアクセサリーを持っているしこんな不格好なもの・・・」

「あばばっばばばば」

「でも捨てるのも勿体無いし」チラッ

「選択肢が出ないとわからなばばばばばば」


理想

ロールズが作ったものに意味があるの

私、それ・・・欲しいなぁ モジモジ

アイリス様・・・いや、アイリス!

 ~LOVE FANTASY~


現実

明らかにくれようとしている・・・?

いやでも思い過ごしかもしれない

そもそも私の為じゃなくキーシャに作ったものだし

あれ、もしかしてキーシャに渡しておいて欲しいとか?


「えっとキーシャに渡しておく?」

「え?もう出来上がってるしいらないよね?」

「うん・・・?」


結局受け取らないまま私は馬車で30分程度の所にあるキーシャの屋敷に向かっていた。


ついてまず警戒心むき出しのキーシャに建前でお茶に誘われ

お答えしようとしたらあからさまに嫌な顔をされたのでまた今度にと逃げた

お嬢様怖いお


そして本題

「キーシャ様を転ばせてしまった時、私のせいでブローチが壊れたとお伺いしましたので」


そう言って近づくとキーシャにブローチを手渡した


「足りないパーツもいくつかありましたのでバラを作って・・・・

これ全部私が作ったのよ!私のせいだから私が直そうと思って

元のとは比べ物にならないけど・・・結構かわいいのが出来たと思うの」


にこりと笑うとキーシャが顔をひくつかせた


「なにそれ、私がわざと転んだの、ご存知でしょう?

猫をかぶって何を企んでいるのか知りませんが・・これは私があなたを陥れるために使っただけですわ」


そういって床に投げられたブローチ

思わず固まっているとまくし立てるようにキーシャは続ける


「フィリップ様を狙ってらっしゃるのでしたっけ?

あなたみたいな野蛮な小娘・・・きっと誰ももらって下さらないわ」


ぐちゃりとつぶれるブローチに気が付けば涙が流れていた

まぁ、何と無くこうなる気はしていた


ひきつる顔が私を非難したクラスメイトに似ていた

一人ぼっちの悲しい学生生活という闇が私を泣かせたのかもしれない


私の涙を見てキーシャは少し驚いた顔をした


「あ・・あなたがどういうつもりなのか存じ上げませんが、私たちはライバル同士なんですのよ!

地位や権力は、伸し上がって勝ち取るものですわ」


そういうとさっさとキーシャは去っていった


そう、同等の爵位を与えられている家にも順位というものが存在している。

本来男爵家であるキーシャは伯爵家とは結ばれないがここ数年そういった例も上がってきている。

つまりキーシャは伯爵家でも最も位の高い家、フィリップの嫁を本気で狙っているのだ

貴族同士の確執は深く、より地位の高い家に嫁ぐことが私たちには求められている。

つまりライバルだ

女同士のなれ合いなど必要ないのだ

そういった点では突き放すだけキーシャは優しいのかもしれない


私の憧れるプリンセスは

もっとキラキラしていた

胸を張って健気に自分の信じる道を歩いていた

権力ではない、信念に従って


私は、絵本に出てくるプリンセスに憧れたのだ

私が憧れたのは権力争いに躍起になる、こんなプリンセスではない


「私は、私の信じるプリンセスになる」


床に散らばったブローチを背に私はその場を後にした


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