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青空に歌えば  作者: 瞬々
9/34

9番

「で、あなたは何なの? あなたもバンドメンバー?」


「一応」


 はっきりと答えた曖昧な単語。その矛盾する組み合わせがおかしかったのか、恵美母は失笑した。


「ほう、一応ね。あなた自分は入るかどうか決めかねてるのに、娘が入る事には何の躊躇いもないのね。ま、他人だから仕方ありませんけど。将来、恵美がどうなろうともあなたには関係ないものね」


 反論一つ出てこない。むしろ涙が出そうで困る。海人が黙っていると、それを降参と受け取ったらしく、恵美母は空を押しのけて、恵美へと迫りその腕を引っ張った。


「さぁ、帰るのよ」


「う、ん……」


 恵美は一瞬抵抗しようと試みるも母親の眼差しに射とめられて、黙り込む。そのまま、恵美母と恵美は店を出て行った。恵美の瞳が空と海人に向けられる。


「助けてよ」


 僅かに開いた口からそんな声が聞こえた気がする。だが、海人も空もその場を動かなかった。


「では、皆さん。お騒がせしました」


 恵美父がそんなことを言って2人の後を追って店を出る。後に残されたのは沈黙と二人のバンドメンバー、……後お爺さん店員。


「追わなくていいのかね?」


 お爺さん店員が空に尋ねた。先程のやり取りを見ても、どちらに味方するでもなく黙ってみていたお爺さんがである。まぁ、それが普通なのだが。傍から見ていて、どっちが正しく見えたんだろうかと、海人は気になった。やっぱり、自分達が無責任で馬鹿なのだろうか。


「こういう場合、やっぱり追った方がいいんだと思うけどね。やっぱり恵美ちゃんが自力で、どうにかした方がいいんじゃないかなって。だって、私達が無理矢理引っ張り出しても、同じ事の繰り返しになりそうだし」


「てっきり、諦めたものかと」思わず口が滑る。途端、目の端で睨まれた。ただし、怒っているというよりも、呆れているといった感じか。


「あのね、入りたいって言っている子を諦めるわけないでしょう。来る者拒まず、来そうな者、取り込むがウチのモットーなのよ」


 いつ出来たのそれ、絶対に今だよね。ともかく、空自身は、あの両親――特に母親の方――に負けたつもりはないらしい。


「それよりも、あなたの方が問題よ。何あれ。あんな受け答えじゃ、オーディションだったら確実に落ちてたわよ」


 圧迫面接には弱くてね……と海人は未だ落ち着かない胸に手をやった。やっぱり怖い。何が怖いって別に迫力がではない。あの、全てを否定するような眼差し。何もわかってないのだから、口を挟みなさんなという感じ。中学時代の自分の両親のような、しかし、それよりも数段は恐ろしい。


「仕方ない仕方ない。儂も怖かったもん、ハッハハハ」


 快活に笑うお爺さん店員。それにやれやれ仕方ないわねと、首を振る空。それがなんだかおかしくて、海人も釣られて笑う。そうすると気持ちが落ち着いた。


「儂ぁ、一部しか見ておらんからね。それに口出しするような立場じゃーないから、なんとも言えないけどの。確かに空さんの言う通り、ご両親とのことは、最終的にはあの子が立ち向かい、解決する問題じゃよ。それが家族というもんだし。お、なんかいい事言ったね、儂」


最後の一言が無ければね。それを蛇足と言うんだなと海人が思っていると、お爺さんは付け加えるように一言。


「だけど、その解決することを手伝う位なら君達にも出来るんじゃないのかね? お、更にいい事言った」


「その最後の一言が蛇足よ。でも……、言ってる事は正しい、のかも」


 空は呟くように言って、ドアの向こうを見る。窓越しに見えるのは一本の大きな道。恵美親子は真っ直ぐ道を行った。走れば、まだ間に合うかもしれない。


「まぁ、正しいか間違っているかなんて、行動した後で無ければわからぬともさ。もっと言うと正しく見えた事が大分後になって間違っていたりね。その逆もしかり。どっちにしろ、それはそんなに重要じゃない。うん、なんだ爺さん、今日は良い事ばかり言うじゃないか」


 それを自己陶酔って言うんです。ただ、言っている事は海人にも分かる。何が正しいかなんて、人に分かるわけないじゃないか。だったら、重要なのはなんだ?


「恵美さんは、空さんのバンドに入りたいのだと思います。まずは、本人がそれを言わないと始まらない」


 そう、恵美は両親に出くわした時も、店の中でも逃げることしかしなかった。まぁ、逃げたい気持ちは大いにわかるけど。だけど、このままでは3年前の自分と同じように、彼女は自分のやりたい事を諦めなくてはいけなくなる。自分がやると決めた事を。それはとても虚しいことだ。何より意味不明なやる気の無さに襲われてしまうだろう。


――そんな気持ちを味わせちゃいけない。そうだろう?


 空はうんうんと頷いた。


「つまり立ち向かわせるってことね。海人が直面している問題と同じで」


「うっ」


――恵美、恵美母に続いて、空にも指摘された。やっぱり、ちゃんと決めないと行けないのかな。でも、無理矢理に引き入れようとしているのは空なわけで……これも言い訳か。


 だけど、空はその事については深くは追及しなかった。今は恵美を追う事だ。


「ほら、行くわよ。仲間が助けを待っている!」


 勇ましいマーチに乗るように、空は外へと駆けだし、海人はその後を追った。

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