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青空に歌えば  作者: 瞬々
30/34

30番

「ギャアアア――!!」


 スカイ・なんとかズは絶叫し、慌てて地下室へと駆けこんだ。支えを失ったドアがバタン!! ととんでもない音を立てて閉じる。海人と尾田の2人は、そのふざけた人影に視線を向けたまま、溜息をついた。どんなに怖い声でも、それはよく聞き慣れていた。


「空ちゃん……」


「あの、空さんですよね?」


「いいえ、幽霊です」


 影が再び揺らめく。埒が明かないので、2人はすっと戸口の方に迫っていき、いきなり飛び出した。人影が飛びのき、勢い余って尻餅をついた。


「うひゃ! か、海人君! それに尾田君も! びっくりするじゃないの!!」自分の事を棚の上どころか、天井裏にまで上げた発言をしているのは、やはり空だ。


「だ、大丈夫ですかー!?」懐中電灯を持った恵美が転げた恵美を引っ張り起こそうとしている。影の犯人は彼女。


「何をしてるんですか、こんな所で……大体、どうやって位置を判別したんですか」


 尾田が訊ねると、空はちょいちょいと海人を指差した。


「君、君ぃ、私の携帯を返してくれないかね?」


「え、あー! GPS機能ですか……」海人が合点したように空の携帯を取り出す。そこには、あなたの位置情報が引き出されていますという表示が出ていた。

「そういうこと。フフフ、私が驚異の洞察力を発揮して、見つけ出したとでも思った?」


「空さんなら、勘で当てそうなもんですけどね」


「私や、そこまで万能じゃないのよ」


 謙遜の言葉な筈なのに、まるでそんな気がしない。海人は吹き出しかけたが、隣で凄まじい気迫を放っている尾田を見て、止める。


「あー……、つまりだ。これは俺が悪いのかな?」と海人は2人を見比べ、おずおずと言うと、尾田は頭を抱えた。


「なぁ、俺の努力って……おぃ!! 空ッちゃん!!」


 空は2人の横を素通りして、建物の中へと入って行った。その後から恐る恐ると、恵美も。空は建物を見上げて、小さく歓声を上げた。


「わぉ、秘密基地みたいね。ここ」


「あ、危ないよ、空さん」


 恵美の忠告も気にせず、空は中へとずんずん入っていき、そして、地下室への扉を見つけて、開け放った。


「悪い子はいねえーかー」


 ふざけすぎて、怖さは微塵も無いのだが、暗闇の中にいた三人組にとっては余程の恐怖だったらしい。


「いません! いませんよ!!」「あ、でもここにすんげえ、悪いやつがいます! この前なんか、俺のおやつ盗んだし! こんにゃろ、よくもあの時は!!」「はぁ? あれは元々――」云々。三人組を恐怖のどん底(?)に落として、ご満悦の空は、腰に手を当てて自慢げに言う。


「私、ドラマに出るとしたらホラーがいいな」


「脅す方ですか……」


 斬新といえば斬新か。人を怖がらせる幽霊がヒロインの物語。一方、尾田は顔を真っ赤にして、ドアの下へと怒鳴った。


「お前ら!! いい加減ふざけてねえで、出ろ!!」


 一瞬にして、下の喧騒が鎮まった――


「す、すみませ……あ、あ! そこにいるのは蒼野空!!」


「馬鹿野郎、さんを付けろ!! それか、様だ!!」


「空さん様!!」


――のも、束の間。空の大大ファンである彼らの騒動はさっき以上に混沌としてしまった。

 空はアハハと無邪気に笑いながら振り向き、頭を抱えている尾田に聞いた。


「ねー、なに? ファンの会でも開いていたの?」


「あながち、間違いではないですけど……」と海人は苦笑したが、尾田に凄まじい形相で睨まれて黙った。


「ペンもサイン用紙も持ってないけど、私がここにいていいものかな?」


「なー、空ちゃん……あんまり言いたくないんだけどさ」


 空が小首を傾げ、尾田はその純真な瞳から視線を逸らした。空が今度は海人を見たが、海人はだんまりを通した。


「ここで、私を招いてどっきりパーティを開くつもりだったとか?」


「いや、むしろどっきりさせられたの、こっちなんだけど……ってそういうことじゃなくて! 話を無理やり逸らさないでくれるかなあ? 空ちゃんは昔からふざけてばかりで――」


「はいはーい、お説教はまた今度ね。で、なんなの?」


 ぐぐっと尾田は言い出したい事を押し止めた。なんというか、流石幼馴染というべきか。まるで姉弟みたいに見える。


「前にも何度か話したよね? 芹沢は危険だって。どんな事してくるか分からないから、あんまり外を出歩いたりしないでってさぁ……」


「うーん、プリクラはもう行かないようにしてるけど?」


「プリクラ?」海人は訝しげに眉を潜めた。すると地下室の方から声が上がった。


「プリクラの写真ってのはですね、一枚一枚店側で記録されてんですよ」と伊藤


「機械でエラーが出た時とかの為に、ですね。しかし、これが悪用されるという事があるわけです」と佐藤。


「店側で記録されていたものが、マスコミに渡るなんて事はしょっちゅう。芸能人の個人情報とかがリークする原因の1つともなるわけっす」と最後に加藤。


 海人は成程と頷いた。ということは、空は昔プリクラをしていて、何か失敗した事があるのか?

「ふん、酷い話よ。私は男の子と友達にもなれないのかしら」


「まぁ……あの時も大騒動だったよなぁ」と尾田はしみじみと言った。顔が少し赤い。一緒に撮って貰った相手はこいつかと、海人は目を細める。


「だけどさ、そういう事じゃないんだよ。今は。だって、もうあいつらは空さんから興味を失っているし、それよりも少しはマシな新聞社から取材してもらえるわけだしさ」


「ふん、つまり、芹沢の奴が直接、何かしてくるつもりってこと? どこまでもしつこいわね」と空は嫌悪感も顕にぺっと吐き捨てる。


「まぁ、杞憂である事を願ってるけどね。あいつが今、どこにいるかは俺ちゃんと把握してるし」と尾田はだぶだぶなジーパンのポケットからスマートフォンを取り出した。どうやらそこからでも、芹沢の動きを把握できるらしい。


 恵美はまだ、この展開についていけないようで、おずおずと海人に聞いた。


「ねー、どうなってんの?」


「芹沢ってのが空さんの元プロデューサー。で、その人が色々と空さんにちょっかいを出してくるんだ」


「あー。知ってる。大喧嘩したって聞いたけど、本当なの? 空さん」


「まーねー、でもあんなのちょろいもんよ」と空は胸を張った。恵美は純粋に「すごーい」と尊敬の眼差しで、手を叩いている。


 さて実際はどうなのだろうかと海人は思ったが、空が目聡くその表情を読み取り、しーっと人差し指を立てた。何も聞くなって事なのだろうか。気になる。

「あいつ、まだ会社にいるのか」探知が終わったのか、尾田がそんな事を言った。安堵の溜息をつき、スマートフォンをポケットに戻す。


「ひとまず安心だけど――……」



「人はそれをフラグという……」


 突然の声に尾田はびくっと肩を震わせた。その声の元へと視線を銃口の如く向ける。後ろに控えていた三人組も遅まきながら、身構えた。


「誰だ!?」


「ふっふふ。私は――」


「えっと、今度は弥生ちゃんが幽霊の振り?」


 空が頬を掻きながら尋ね、場の空気が凍った。だけど、危険な感じがまるでしない。


「ウガ―!! 空君!! ネタバレは駄目だよ!!」


 ひょっこり現れたは、沖浦弥生。海人の従姉である。


「また、変なのが増えた……」と尾田は頭を抱えた。それには同意しよう。


「弥生、なんでここが分かったんだよ」


「そりゃね。なんか、スパイ染みた事をしている輩がいたら、興味も持つってもんよ。ほら、そこの三人組」と弥生は三人組を指差した。指差された三人はびくうっと肩を震わせた。


「この前の……」


「あ、あんときはすんませんでした」


「反省しておりますですはい」


 また、何かしたのか、この三人組は委縮して頭まで下げた。海人と争った時以上の謙虚ぶり。本当に何があった。


「よろしい――あぁ、あのね? 前にこの三人組がさ、誰かを尾行しているみたいな歩き方していてね? 怪しいなーっと思ってつけてったら、『寄ってくんじゃねーこの野郎』とか言い出すからさ。ちょーっと制裁を加えておいたわけよ」


 その言葉に空は、まじまじと三人組を見つめた。汗が滝のように流れているスカイなんとかズ。


「え、尾行? あれ、そういえばあなた達どっかで見たよーな……あ」


「えっと、空さん」と海人が止める間もなく、ずんずんと空は三人組に詰め寄った。


「あんときの!! ここで会ったが百年目―!!」


「あの、空さん!」


「空っちゃん!!」


伊藤の胸倉に掴み掛かる空を、海人と尾田の2人掛かりで引き離した。見た目に反して凄まじい力の持ち主である。


「おいコラ! 放しなさい!! 何よ! それまで敵だった奴が味方になってくれるなんて、アニメの中だけの話なんだからね!!」


「言いたい事はわかるようなわからないようななんですが、とりあえず落ち着いて俺達の話聞いてください!!」


「え、えっと、この場合、どちらに加勢すればいいのかしら、私」と恵美まで。いいから、そこで大人しくしててくださいと、海人は今にも爆発しそうな空をおさえつつ、思う。


「なによ、こいつら実は敵じゃなかったとか、そんな話?」


「話が早くて……、助かります」


 ひとまず落ち着いた空の前で、海人は息も絶え絶えに答える。後の説明は尾田がしてくれた。この三人はそもそも空のファンである事、空を芹沢の姑息な手から守るべく、活動していたことなどを話した。


 空は黙って最後まで、聞くと納得した。


「つまり、彼らはSP的存在?」


 どうしてそうなった。海人と尾田はがくっと肩を落としたが、三人組は国民栄誉賞でも与えられたかのように感動で打ち震えている。

「俺達が」


「空さんの」


「えすぴー……」


 やれやれと、もうそれでいいやと、尾田は首を振っている。人間諦めが肝心な時だってある。


「まったく、海人君も海人君で、なんで言わなかったの」


「え、あーまぁ、もう会う事も無かっただろうと思いまして」


「そりゃねーっすよ!!」三人組ご立腹。そう、彼らは中々しつこいので巡りあう事もあっただろう。それは海人にも想像がついた。空に伝えなかったのは、単に説明するのが面倒だと思ったからに過ぎない。


「しかし、本当ひやひやしたよ。こいつらが出入りしてるような建物に、空さんとそこの女の子さんが入ってくんだもの」


「そ、それは、俺達が悪者みたいに聞こえるっす!」


「いや、だから、悪者だと思ってたからさ。それにあれよ? ファンだって行き過ぎると、迷惑よ?」


 ううっと三人組は弥生の毒舌に、縮こまる。彼女は正論を述べているに過ぎないのだが。


――なんだ、これじゃただのお集まり会じゃないか


 海人は辺りを見回し、空さんを守る会(――それでも、もしもの時は


 空を守るのは自分の役目だろう。恐らくは。自意識過剰とかではなく、単なる予感として海人はそう思った。


 ――騎士ナイトって柄じゃないんだけどな


 とはいえ、柄でない事であれば、この二週間のうちに何度もさせられた。あの三人組がもしも、本当に芹沢の回し者だとすれば、殴る蹴るの喧嘩に発展することも覚悟はしていたし。


「全く、のんびりしすぎだ」尾田はそんな事をぼやいている。今にも芹沢が、そこの壁を破壊して襲いかかってくるとでも言わんばかりに。


「落ち着けよ、芹沢は会社から動いてないんだろ?」とりあえず、頭を冷やさせようと海人はそう言った。怒るだけの熱量も残っていなかったか、尾田はただ頭を振る。


「いや、今考えたんだけどな。もしも会社に携帯を置きっぱなしにしてたりしたら? あいつが、俺達がしてることに気が付いたらってさ」


「気が付いてたとしても、ここが分かるとは思えないけど」さり気なく、海人は入口を見た。元々、他人よりも耳がいいので、不審者が来たとしても音で分かる自信がある。

尤も、この場での不審者は、ここで屯している少年少女達の方なのだが。


「どうだかな。あいつはパソコン関係の事は苦手だって親父は言っていたし、そんなやつがハッキングだの出来るとは思えないが」


「俺はむしろ、お前にハッキングの真似事が出来る事の方に驚いたぞ……だって、まだ中学生だろ?」


尾田が心外だと言わんばかりの顔をしたので、慌てて付け加える。すると尾田は自嘲気味に笑った。


「親父のおかげさ。小学生の頃から色々教えて貰ったからな。だけど、頼りっ放しは嫌いなんだ」


「助けを借りず、1人の力で何かを成し遂げたい。そんな所か?」海人が訊ねると、尾田はまじまじとその視線を返す。海人は肩を竦めてみせた。


「俺がそうだったからさ」勝手に命名)の領袖たる尾田に対して思う。言えば「それはフラグ」だと、空か弥生が突っ込んだ事だろう。なので、海人は口にしては言わない。しかし、尾田の言う危機が単なる杞憂、考え過ぎなのではないかと、思う他無かった。芹沢がどんな悪人なのか知らないが、わざわざ自分の身が危うくなることまでして、空に復讐しようなどと考えるだろうか。或いは、空の事が余程許せなくて? 逆恨みだとしても、オーバー過ぎるだろう。

――それでも、もしもの時は


 空を守るのは自分の役目だろう。恐らくは。自意識過剰とかではなく、単なる予感として海人はそう思った。


――騎士って柄じゃないんだけどな


 とはいえ、柄でない事であれば、この二週間のうちに何度もさせられた。あの三人組がもしも、本当に芹沢の回し者だとすれば、殴る蹴るの喧嘩に発展することも覚悟はしていたし。


「全く、のんびりしすぎだ」尾田はそんな事をぼやいている。今にも芹沢が、そこの壁を破壊して襲いかかってくるとでも言わんばかりに。


「落ち着けよ、芹沢は会社から動いてないんだろ?」とりあえず、頭を冷やさせようと海人はそう言った。怒るだけの熱量も残っていなかったか、尾田はただ頭を振る。


「いや、今考えたんだけどな。もしも会社に携帯を置きっぱなしにしてたりしたら? あいつが、俺達がしてることに気が付いたらってさ」


「気が付いてたとしても、ここが分かるとは思えないけど」さり気なく、海人は入口を見た。元々、他人よりも耳がいいので、不審者が来たとしても音で分かる自信がある。

尤も、この場での不審者は、ここで屯している少年少女達の方なのだが。


「どうだかな。あいつはパソコン関係の事は苦手だって親父は言っていたし、そんなやつがハッキングだの出来るとは思えないが」


「俺はむしろ、お前にハッキングの真似事が出来る事の方に驚いたぞ……だって、まだ中学生だろ?」


尾田が心外だと言わんばかりの顔をしたので、慌てて付け加える。すると尾田は自嘲気味に笑った。


「親父のおかげさ。小学生の頃から色々教えて貰ったからな。だけど、頼りっ放しは嫌いなんだ」


「助けを借りず、1人の力で何かを成し遂げたい。そんな所か?」海人が訊ねると、尾田はまじまじとその視線を返す。海人は肩を竦めてみせた。


「俺がそうだったからさ」


 偉そうに言っているがつい二週間前の事だ。こんな風に言うとまるで、ベテランのスポーツ選手がルーキーのストレスを和らげようとしているかのような感じがした。これだから空に気障だのなんだのと言われるのだ。


「ほら、そこ! 男子2人で何こそこそしてんの!」弥生に呼びかけられて、2人は会話をそこで切り上げた。尾田はなんとも複雑そうな顔で、海人の顔とは真逆の所に視線を向けている。今の一言は余計だっただろうかと、海人は不安になるが、今更「今の言葉は忘れてくれ」と言っても更に後味が悪くなるだけのような気がした。


「で、尾田君。芹沢は、まだ私に何かしようと企んでいるわけ?」


「まだ、確信は持てないんだけどさ……」と尾田は言葉を濁した。おい、さっきの威勢はどうしたと海人は問いたい。


 空は曖昧な笑みを浮かべながら、腕を組んだ。


「ねぇ、尾田君。今までの事は感謝してるし、こんな所を根城にしてまで活動していたなんて、驚いてもいるんだけど、あんまり無茶な事はして欲しくないの。あいつの事は……まぁ、どうにかなるわよ。私だって馬鹿じゃないのよ? 気を付けるわよ」


 諭すように、なおかつ尾田の気持ちを傷つけないように。それでいながら、わざとらしく聞こえないのは、空が真摯に尾田の事を心配し、感謝しているからだろう。彼女は冗談は言うが、人を傷つけるような嘘は吐かない、というよりも吐けない性分だ。


「なぁ、空っちゃん。俺が君を助けるのは、俺の親父がそう言いつけてるから、とかそんな風に思ってるんでしょ?」


 空は無表情になり、黙りこんだ。それを肯定と受け取った尾田は更に言う。


「俺はそんなんじゃないからな。俺は俺の意志で――」


「分かってるわよ、それは」


 遮るように、空は片手を軽く上げた。しかし、尾田も食い下がる。


「だったら、どうして俺を避けるのさ。ここんところの空ちゃんはおかしい!」


 しかし、それにも空は動じなかった。あくまでも無表情を通している。


「そうね。確かに。変わったのかもしれないわ。考え方がね。だけど、嫌ってるわけじゃないわよ……、元ちゃん」


 下の名前で呼ばれ、尾田はたじろいだ。どうやら、昔の呼び名らしい。


「ただ、気張り過ぎよって事が言いたいの。もっとリラックスしなよ。私の知らない所で、元ちゃんが何か、よく分からない恐ろしい事してるの、私は耐えられない」


 尾田は完全に黙ってしまった。空も何も言わない。彼女の場合、何も言えなくなったのではなく、あえて黙っているという感じがしたが。


「だったら、こうしようじゃないか」


 ふと、思いついて海人が言った。皆の視線が海人に集中する。


「元ちゃ……」睨まれた、「尾田とそこの三人組……」失望の目、「えー、ナントかトリオ」そりゃねっすよ! との訴え、「が普段、どんな活動をしているのか、空さんに見て貰えばいいんじゃないかな? そうすれば、お互いに理解が図れるし」


 この提案に真っ先に乗ったのはやはり、空だった。先程までの無表情を、太陽の光ですら色褪せる程の笑顔で彩り海人に迫った。


「それ、面白そう!! ね? 恵美ちゃん! 弥生ちゃん!」


「え、えーっと」と恵美はふられて、困惑顔。しかし、口元には好奇心を帯びた笑みが浮かんでいた。弥生は当然の如く「やろうやろう」と空を勢いづける。


「お、それは……!!」


「空さんに俺らの力を見せるちゃんす!!」


「ですです!!」


 と藤三人(伊藤、佐藤、加藤)も。一応注釈を入れると藤原三家とは全く関係ない。


「駄目だ!!」


 そう叫んだのはただ1人……と、勿体ぶる必要も無い、尾田だった。埃まみれの木の机をバン!! と叩き、その場の者の心臓を跳ねあがらせる。



「そんなの危険過ぎる!」


「ふうん? 私はその逆だと思うけど?」と空はまるで動じずにズカズカと言った。


「あいつだって、自分の会社の近くに私がいたら手出し出来ないでしょう?」


「まぁ、そうかもしれなけどさ……」となおも躊躇う尾田に、空は子どもが大人に強請るような顔で、頼んだ。


「ね、一度だけ」


 周りに異存はなく、四面楚歌を聞く項羽の気持ちと言ったところか、尾田は遂に折れた。


「空ちゃんの『一度だけ』は」と尾田は苦々しい顔で、




「一度だけでは済まない、の一度だけだ」


 空はドッキリを仕掛けて成功した子どもみたいな笑顔で答える。


「よく分かってるじゃない」


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