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青空に歌えば  作者: 瞬々
18/34

18番

「やぁ、海人。久しぶりだね。また大きくなったんじゃないか?」


 直人は海人の肩をぱんぱんと叩いて陽気に挨拶した。


「大きくなっただけじゃなくて、女の子まで連れ込むなんてすごい成長よね、叔母さん感心しちゃうわ。あ、結婚式のスーツとドレスもちゃんと作ってあげるわよ」


 陽子も本気なんだか冗談なんだか、分からないような言葉を投げかけてくる。この高いテンションと相まっていつの間にか、会話のペースを握られてしまうのだ。


「色々な過程をすっ飛ばして結婚式まで持っていかないでくださいよ」


 と、とりあえず肯定とも否定とも取れない言葉で返しておく。露骨に否定するとまたどこから反撃(主に空から)が来るかわかったものではない――


「そうそう、海人君はバンドメンバーであって、それ以上でもそれ以下でもないんだから」


 ――と思っていたら、空に露骨に否定された。どんな言葉を期待していたんだと言われそうだが、海人としては、照れ隠しでもなくさらりと否定されて胸にぐさりとナイフを突き立てられたような気分だった。


 陽子はそんな海人達の様子を楽しげに(怪しげにともいう)見ている。変な期待は当人達以上に、周りの方が抱く事が多い。


「それよりも、海人君。あなた着替えていらっしゃいな。びしょ濡れじゃない。蒼野さんからお話は大体聞いたけど、細かい部分は後で聞かせてね」


 叔母の言う通り、雨の中走ったり、慰めたり、脅したり、なんやかんやしたので靴も服もぐっしょり濡れていた。言われるまで実感が湧かなかったのだが、寒い。


「そうするといい。まぁ、着替えと言ったら僕の服だが、サイズが合わないだろう。陽子さん、何かいいの持っていなかったかな?」


 と、直人は自分の妻の方へと意味ありげに顔を向ける。陽子は仕事以外に、自分の趣味で、男性用女性用問わず服を作る事がある。空が今着ているのは、どちらか分からないが、所々に斬新なアイディアが盛り込まれているところを見るに、趣味の方だろうと海人は予想した。


「海人君のお誕生日用に作った紳士服があるわ。明日渡すつもりだったのだけど、今日着てみる?」


 ――え、誕生日……。


「海人君、誕生日だったの?」


「え? あー、そうか」


 空に驚かれ、海人は自分でも少々驚きつつ、自分の誕生日の事を思い出す。昨日、今日と、ばたばた――多分、これまでの人生のなかで一番――とした為にすっかり頭から抜け落ちていた。明日だ。


「明日ですよ。すっかり忘れてた」


「おおぅ、明日生まれるのね。おめでとう」


 間違ってないけど、その言い方は誤解を生みそうだ。沖浦家親子は揃って笑った。弥生なんかは腹を抱えて笑っている。


「自分の誕生日忘れるって本当にあることなんだー」


 まぁ、そうなんだよなと海人は自分でも可笑しくなる。叔母がその肩を叩き祝福する。


「ほら、行きましょう。あなたのお母さんからサイズとか聞いて作ったから、合っているだろうと思うけど、合わなかったら調整するわ」


「前にやたらとサイズ聞いたり、背を測ったりしてきたのはそういう事だったのか……」


 海人の背は平均よりも少し高い位なのだが、最近はあまり伸びなくなってきたので、測られるのは実は嫌だった。それでも、母はしつこく、どんなに反発されようとも測ろうとした。このプレゼントの為だったのかと思うと、一抹の後悔が胸中に生まれる。素直に測って貰えばよかったなと。


「あぁ、お母さんで思い出したけどね、海人君?」


「はい?」


 叔父に呼び止められて海人は首を傾げた。お母さんで思い出す事って?


「君の家に連絡を入れといたよ。今日は家に泊まるかもって。でね、そしたら面白い事になったよ」


「どんな事です? てか、それ以外にも絶対何か話したでしょ」


「うん、歌手と恋仲になりそうだとか、そうでないとか」


 それは駄目でしょ。海人は心の中で叫ぶ。根も葉もな……くはないが、恋仲ではない。が、この誤解を解くのは時間が掛かる或いは、無理かもしれない。


「……あの、あんまり誤解を生むような事は」


「あっははは、冗談冗談。まぁ、蒼野さんから伺った事情を話してみただけだよ。君達がどんな関係か」


「なら、良かった」


……のか? その事情を聞いて、向こうが脳内で勝手に恋愛事に変換していやしないかと海人は不安になる。


「それで、母か弟がこっちに向かっているとかそんなところですか?」


「うーん、惜しいね。来るのは佳織さんでも彰浩君でもないんだ」


 その2人以外に残っているとしたら、もう1人しか浮かばない。それだけは勘弁と念じるが――


「幸人義兄さん――君のお父さんだよ」


 ――現実とは非常である。

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