10番
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そして、迷った。道が真っ直ぐあるからって、恵美達も真っ直ぐ行くとは限らない。そりゃそうだよなと海人は溜息を漏らす。雨の中飛び出したせいで、妙な快感があるが、濡れる。幸い、小雨なのでぐしょ濡れとは行かない。
「うあー、ちくしょうめー! ぐだぐだ考えたり言い合ったり、無駄話聞いてないでさっさと飛び出せばよかった!」
空が空に向かって叫ぶ。ギャグではない。まるで、標的を逃した殺し屋みたいに悪態をついている。そして、無駄話とはお爺さんの話だろうか。一部自己陶酔してるような部分はあったと思うが、あれ聞いて恵美を追うという決意をしたのだし、それはないだろうよと、海人は思う。
「海人は住所知らないの?」
「うーん、そもそも中学校時代はそんなに接点無かったしな……あ、いや、そうか! 住所は知らないけど」
と、海人は携帯を取り出した。中学校の時の行事の係連絡の関係で、メールアドレスを交換した筈。これで連絡を取れば、住所も分かるかもしれない。……で、なんと送ろう。
メールアドレスを入力したところで、海人の手が固まる。横から覗きこんでいた空が、携帯をひったくった。何をする。
「あぁ、もうじれったい! 件名『お前の家に乗り込む!』本文『お前の家に乗り込む! 住所教えろ!』」
「なんの脅迫文ですか、それ」
送信ボタンを押されて、送信先から警察にでも通報されたら、言い訳のしようもないので、取り上げる。そして、空が打ちこんだメールの内容を100倍位薄めたやんわりとした内容を送信する。
「返ってくればいいんですけどね……携帯取り上げるくらいはしてそうですし」
「そしたら、メールで両親とバトルするしかないでしょうね」
「ブラックリスト登録で拒否されたら、そこで終わりですよね、それ」
とはいえ、バトルする以前に、両親が海人の携帯を着信拒否に登録する可能性も否めない。そうなったら、なったで、友達を経由してでも、恵美の住所を知るまでだが。
――というか、朝起きた時はこんな事になるなんて思いもしなかったよなぁ
もっと言えば、昨日青空を見上げていた時には、こんな事をするなんて思いもよらなかった。これが海人の思い描いていた「何か面白いこと」なのだろうか。何か面白い事というのは、こんなにも大変だったとは。
そんな事を考えていると、返信が来た。これが、両親からの怒りの吠えメールとも限らないので、恐る恐る開ける。
返事は恵美からだった。その事にまずは安堵。そして内容を確認する。そこには短く住所が書いてあった。急いで打ったからなのか、誤字が目立つ。それでもどこに住んでいるかは、分かった。
「でもどうやって、入ればいいのかしら。正面から行きたい所だけど、入れてくれやしないわよね」
「その点は大丈夫です。侵入路が書いてあります。裏口の鍵を開けておくとか。そこから……二羽? あぁ、庭に続いているそうです」
また、大胆だなと海人はその内容に驚かされる。空といい、恵美といい、その見た目からは想像もつかない程に行動的な所がある。空は、その文面を見て不敵に笑う。
「へえ、スパイごっこみたいで面白いじゃない」
ごっこと称している時点で、子どもの遊びでしかない事は自覚しているのだろう。海人にもそれは分かる。
これからしようとしているのは、栗原家にとっては非常に迷惑で壮大なお節介だ。あのお爺さんが言っていたように、これからする事が正しいのか、間違っているかは誰にも予想がつかない。かえって事態を悪化させる事もありうる。だけど、それは多分、重要ではないのだ。
「そうですね」
だから、笑う事にした。これから何が起きようと知った事かという投槍な物ではなく。これから、何が起きようとも受け止めるという覚悟の笑み。
空が隣で吃驚したように瞬きしている。
それから、彼女も笑った。
「じゃあ、行きましょうか」




