第9話 僕と討伐依頼
村長とバドさんを伴い、守備隊の詰所にやって来た。2人は、隊長と思しき人物と、先程から何やら会話をしている。
しかし、まさかいきなり、目切り虫の討伐に行く事になるとは思わなかったな。
『竹脇延年、お前は世界を救うんじゃなかったのか?』
いや、殺虫剤と燻煙材を貸してあげるとか、殺虫剤の舞いをレクチャーするとか、そういったお役に立ち方もあると思ったんだよ。
『どう考えても、そういう話の流れではなかっただろう。本当にお前は考えが足りぬな』
そこまで言わなくても……。
でもまあ、手持ちの殺虫剤は、まだたっぷり残ってるし、少々の〝目切り虫〟なら、討伐しちゃえるんじゃないかな、僕。
「お待たせしました、はじめましてノブトシさん。私が守備隊隊長の〝フロイネ・ジェッケン〟です。お話は聞かせて頂きました。会議室の方にどうぞ」
建物の2階に案内された。四角い大きなテーブルに、隊長さん、村長、バドさん、そして、10人ほどの兵士が座る。
「……というわけで、こちらのノブトシさんがお持ちの、異国の武器、サッチュウザイがあれば、村近くに巣食う目切り虫を、一掃出来ると確信しております」
周囲から、歓声に似たどよめきが起こる。
「防壁の復旧は、まだまだ目処が立っておりません。このまま放っておけば、いずれ、村に甚大な被害が及ぶでしょう。目標は、この村の北西にある、目切り虫の巣。推定ですが、内部の成虫の数、およそ、2000匹」
に……にせん?! そんなに居るの?!
今日、倒した目切り虫って、100匹ぐらいだよな……
『47匹だ。その内、私が狩ったのは5匹。感謝するがいい』
デカかったからもっと居るように見えたけど、数はそんなに少なかったんだ。
……待てよ? ということは、47匹中、殺虫剤を掻い潜って、僕に迫ったやつが、10分の1も居るって事だよな?
すみません、さすがにちょっと2000匹は無理なんじゃないかと……
と、言いかけた時に、外から大声と悲鳴が聞こえた。
「また出やがった! こんな村の中心部にまで!」
「おい! 1人やられたぞ、いったい何匹入り込んでるんだ!」
「いやあぁぁ!! あなた! あなたぁあああぁぁ!!!」
慌てて、兵士達が外に飛び出していく。
……僕も行こう! 死神、殺虫剤、出して?
「ノブトシさんは、ここにいて下さい! あなたは、この村の希望です」
死神から殺虫剤を受け取り、部屋を出ようとしたら、バドさんに止められた。
わかりました。気をつけて下さいね。
……こんな町中にも頻繁に虫が出るなら、この殺虫剤は護身用に持っておくかな。
「後ろだ! 速いぞ!」
外からは、兵士たちの声が聞こえる。
残された村長と僕が、会議室の窓から見下ろすと、倒れている村人と、その傍らで泣きじゃくる女性、そして、必死で戦う兵士達が見えた。
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虫は2匹。どちらも、兵士たちの手によって倒されたが、結果、村人1人死亡、兵士4人と村人2人が怪我を負った。
「……ノブトシ氏。これが、村の日常です。しかも、襲ってくるのは目切り虫だけではありません。私達は日々、魔物に怯え、生活しております。どうか、力を貸して下さい! この通りです!」
深々と頭を下げる村長。っていうか、こんなの見せられたら、断るわけにいかないじゃないか……。
『私としては、お前の命が心配だ。出来るなら、関わらないで欲しい所だが……』
やります! 僕に任せて下さい!
『まあ、そう言うだろうな。お前が馬鹿の付くお人好しなのは、この世界に来る前からよく知っている』
元の世界で何を見てたのかは知らないけど、馬鹿はヒドいんじゃないかな……?
「おお! やってくださいますか! 有難うございます!」
僕の手を握り、喜ぶ村長。そこへ、隊長たちも帰ってきた。
あの……大丈夫ですか?
「またひとり殺され、隊員も数名、負傷しました。状況は悪くなるばかりです……」
お気の毒です……
あの……僕。
「ジェッケン隊長、ノブトシ氏が、お力添え下さると!」
「なんと! 本当ですか、良かった! どうぞよろしくお願いします!」
はい。うまく退治できるかどうかわかりませんが……
「では早速、準備を。ノブトシさんには、ウチの隊で使っている兵装を差し上げます。その服では、魔物の餌になりに行くようなものですから」
そうですね。〝ぬののふく〟じゃ、即、死にますよね……
「今日はもう日が暮れます。作戦決行は明日の正午にしましょう」
そうですね。では、交易所とやらで、虫の死骸をお金に変えて、どこか泊まれる所を……
「暗くなれば、虫は出ませんが、夜行性の魔物が村内に入り込むかもしれません。宿を取るより、今日はこの詰所にお泊り下さい。その方が安全です」
え! いいんですか? 助かります!
「いえいえ。こちらこそ。それでは装備を合わせに参りましょう。さあ、こちらへ」
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バドさんに案内されて、武器庫へ移動した。
「ノブトシさんの体格ですと、これと、これと……」
鉄製のヘルメットに、革製の鎧、籠手に脛当て、ブーツまで貰った。
「金属の装備は重いので、革製の物を用意しました。ただ、対・目切り虫戦となると、ヘルメットは鉄でなければ役に立ちません。少々重いかもしれませんがご了承下さい」
なるほど。頭を割るとか言ってたよな。うわぁ……ヘルメットだけでも結構な重さだ。
手前に置いてある鎖帷子とか、持ち上げられないくらい重いぞ。こんなの着て、どうやって動くんだ?
「ははは。そこは日頃の鍛錬ですよ!」
と言って、ちからこぶを作って見せるバドさん。ものすごい筋肉だ。
どれどれ、さっそく装備してみよう。
で、脱いだ上着とバスケットシューズは、死神に預ける。これ、持っといて。
『なぜいちいち、丸くて青い機械人形を連想するのだ?』
日本人なら、無限に入ると聞けば、絶対思い出すんだよ。いろんな意味で危ないから聞くんじゃない。
……あと、僕の心を読み続けないで?
「ほう! なかなか、様になっていますよ!」
そうですか? ちょっとワクワクするな! やっぱ武装って男の子のロマンだよなー!
「それでは、客間にご案内しましょう。後ほど、食事も手配しますので」
至れり尽くせりだ。
……さて。虫の大群とどう戦うか、作戦を練らないと。