表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/35

第7話   僕と異世界の村

 道ばたに座り込んで、バッシュに(ひも)を通していく。

 よし、出来た。えっと……空箱はどうしようかな。


『私が預かろう。そこかしこに、異界の物をバラ()いてはならない』


 いや、別にポイ捨てする気は無かったぞ?

 僕は死神に言われた通り、バスケットシューズの空箱を渡した。どこから取り出したのか、黒い大きな袋に箱をしまう死神。

 それにしても〝遺物〟……過去に失った物を手に入れる力。すごく便利だ。


『感謝するがいい。いま、お前が得られる祝福(ギフト)の中では最上の能力だ』


 死神は腰に手をあてて、ふんぞり返っている。

 なんか女の子だとわかってから、やること成すことがイチイチ可愛い。


『……これ以上は何もやらんぞ?』


 また、顔を赤らめる死神。そんなに嬉しいのか。僕は本当の事を思ってるだけなのにな。


『じゅ、準備が出来たなら、とっとと行かんか!』


 わかったよ。僕は新しい靴で歩き始めた。おお! やっぱ最高の履き心地だな~!


「旅の方、旅の方?」


 少し歩いた所で、武装した人に呼び止められた。兵士さんかな?

 話し掛けられた言葉は、もちろん日本語じゃない。けど僕は祝福(ギフト)のおかげで、この世界の言葉を理解できる。とても不思議な感覚だ。


「あなた、この辺りではあまり見ない身なりをされていますね。どこか異国からおいでですか?」


 はい、それはもう、すごく遠くから。

 僕の服装は、ネイビーカラーのジャンパーとセーターに、ジーンズ。ちなみに上下と下着まで全部合わせても、バスケットシューズの値段より安い。まさかこんなに遠出(とおで)すると思ってなかったし。あ、そっか。それ以前に、日曜の朝、着替えた直後に動けなくなったんだった。むしろパジャマじゃなくて良かったな。


「そうですか。それはそれは、遠路はるばるようこそ。私はこの村の守備隊員です。ご存知かもしれませんが、この村は先日、魔物に襲われた影響で〝防壁〟がうまく作動しておりません」


 防壁ですか?


「はい。お恥ずかしながら、術者不足でして。魔物が入り込みやすくなっておりますので、十分にご注意下さい」


『ふむ。どうやら、この世界の人間は、魔物が入って来ないように、日頃から、何かしらの方法で壁を作って、その中で生活しているのだな』


 なるほどね……

 ご親切に有難うございます。


「いえいえ。もし魔物や怪獣などを見掛けたら、大きな声で衛兵を呼んで下さい。特にこの辺りは〝目切り虫〟が多く出ますから」


 ……怖い名前の〝虫〟が出ると言われたぞ?

 あのー、それってどんなヤツ?


「おや、ご存知ありませんか。この村においでになる道中でも出会わないとは。とても幸運なお方だ」


 その虫は、動物の〝目〟をくり抜いて巣に持ち帰り、それに卵を産み付けるそうだ。特に人間の〝目〟を好んで狙うらしい。

 見た目は、スズメバチをふた回りほど大きくしたような感じ。そう、ちょうど目の前に居るこんな……


延年(のぶとし)! 危ない!』


 死神が肩を押してくれたおかげで〝目切り虫〟は、僕の顔を(かす)めて通り過ぎた。頬がパックリ割れて、血が吹き出す。


「旅の方! 大丈夫ですか?!」


 な……なんとか……


「おい! 虫が出たぞ、こっちだ!!」


 剣と盾をかまえて、虫の方を警戒する兵士。

 危ない所だった。ありがとう死神、助かったよ。


「気を付けて下さい! あいつら目を奪うために、頭を割ります」


 怖い怖い怖い! 殺す気満々じゃないか!


『油断しすぎだ、竹脇延年(たけわきのぶとし)。私はお前に死なれては困るのだぞ』


 そうだ。元の世界へ戻ってから、お前が僕を殺すんだった。こんな所で死ぬわけにはいかない。


殊勝(しゅしょう)だな。いい心掛けだ。しかし、あの数では、私でもお前を守り切れるかどうか』


 そう。目の前に現れたのは、アニメや漫画で蜂の巣を突付いた時に出てくるような、虫の大群だった。


「そんな……」


 兵士は絶望の表情を浮かべている。これって、かなりマズくないか?

 虫は少し距離を開けて、こちらを威嚇している。いつ襲ってきてもおかしくない状態だ。


「駄目だ……村が全滅するぞ……」


 そうだよな。ひとり2個ずつあるけど、どう考えても目の数が足りないだろう。


『冗談を言っている場合ではないぞ』


 大体、虫キライなんだよな。こんな死に方はマジで嫌だ。

 ……あ。そうだ! あれ、戻ってこないかな。


「これは駄目だ……逃げるぞ、旅の人! どこかの建物に逃げ込まねば!」


 ちょっと待って、確かあれは、中2の時で……


『何をしている、延年!』


 戻ってこい! 殺虫グッズ!

 ドサドサと目の前に現れたのは、殺虫剤のスプレー5缶と、燻煙剤(くんえんざい)5個、蚊取り線香の缶入りが2缶。昔キャンプに行った時に、虫嫌いの僕が担任の先生に(あき)れられながら持って行ったものだ。当日、突然の大雨で増水し、テントごと流されてしまった。生徒は全員無事だったけど、キャンプは中止になり、同級生の雨男を恨んだものだ。


「旅の人、何だそれは? どこから取り出した!?」


 僕が日頃愛用している最終兵器です。

 ……効かなかったらゴメンナサイ!

 両手に殺虫剤を持ち、(はす)に構える。家で〝黒いヤツ〟が出た時のスタイルだ。

 さあ、食らうがいい! ファイヤー!


「おお! 煙が?!」


 虫の群れに、殺虫剤を振りまく。蜘蛛(くも)の子を散らしたようにパニック状態に(おちい)る虫たち。

 すごい数の〝目切り虫〟が、ボトボトと落ちまくる。凄いな! こんなに効くとは思わなかった。


『耐性が全く無いのだろう』


 不意を付いて、僕を目掛けて飛んで来た虫を、(かま)で両断しつつ、死神は笑う。なるほど。日本の殺虫剤は進化を続けてるもんな。黒いヤツの耐性と共に。


「す……凄いですね、旅の人!」


 しばらくすると〝目切り虫〟は一匹残らず地面に落ちて、動かなくなった。大勝利だ。

 ただ呆然と、僕の秘技〝殺虫剤の舞い〟を見ていた兵士は、剣を鞘に収めてこう言った。


「長老の所に、一緒に行って頂けませんか……どうかお願いします! その最終兵器で、村を救って頂けないでしょうか」


『どうする? 竹脇延年(たけわきのぶとし)


 ついて行こうか。

 ……村っていうか、僕はこの世界を救うんだからな。

各話、つじつま合わせや少しずつの修正をしておりますが、物語自体に大きな変更はありません。何卒、ご容赦下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ