第5話 僕と狂った世界
「ひとつは言葉。お前は全ての言語を瞬時に理解する事が出来る」
「ふたつは富。お前は様々な財宝を得るだろう」
「みっつは力。地を割り、空を裂く、無双の怪力を授けよう」
神様は3つの祝福を提示した。
しかし、迷うなぁ……!
『竹脇延年、何をしている。あれしか無いではないか』
マジすか。なんかどれも正解に思えるし、どれもハズレのような気がしてくる。
「ノブトシ、助言が欲しい?」
お願いします! わかりやすいやつでぜひ!
「コホン。ちょっと大ヒント過ぎるかな。祝福が消えちゃったらゴメンね。〝キミの世界の神様が、昔、怒ってバラバラにしちゃった物〟だよ」
聞いた事あるぞ……たしか、世界中の言語が違うのは、むかし、天にも届く塔を建てて神様に挑戦しようとした人間を戒めるためだったとか。
『大丈夫か、この世界の神よ。助言は与え過ぎると祝福を3つとも失うぞ?』
そうなの?! でも、助言されてしまった以上、仕方ないだろう。取りあえず答えは分かったから試してみようか。
「さあ、どれにするか言って?」
……〝言葉〟を貰います。
「よし、では……」
神様は姿勢を正して、もう一度空を仰いだ。
「竹脇延年に祝福を! 汝、言葉と共にあれ!」
一瞬、周囲が真っ白になって、自分の中に何かが入り込んできたような感触があった。
「終わったよ。おめでとう。これでキミは、こちらの世界でも元の世界でも、言語で困ることはない。読み書き、オールOKさ」
『良かったな。竹脇延年』
やった! 正解だったのかな?
……ちなみにハズレはどれだったんだろう?
「あ、それ聞いちゃう?」
ダメなんですか?
「いや、そんなルールは無いからね。3を選んだら、ちょっと大変だったんだ」
力?! 意外だ。こういう時はだいたい〝富〟がハズレのパターンだと思ったんだけど。
「お金は大事だよ。大概の事は、お金で解決できちゃうじゃない」
クスリと笑う神様。まあ、お金イコール悪って事も無いんだよな。たぶん、そう思い込んでるのは、昔話に出てくる、がめついイジワル爺さんとかのせいだ。あいつら最後は酷い目にあうもんな。
でも、なぜ3がハズレ?
「もし、地を割り、天を裂くような力をいきなり手に入れたら、ちょっとしたことで、地を割って天を裂いちゃうよ? 不便だし迷惑だよねー」
あぶねぇ! 大変なことになる所だった。
『まあお前なら、これから得る祝福と努力次第で、地を割り天を裂く事もできる様になるだろう。それだけの器なのだ、お前は。うむ……やはり魂を刈るには惜しいな』
じゃあ、やめて下さいよ……
『そういうわけにはいかん。お前は元の世界に戻し、私がこの手で殺す』
ひぃ……かわいい顔しててもやっぱ死神だな。
『かわい……無礼者! 神を愚弄するか』
真っ赤になって照れたまま、プンスカ怒っている死神。
「まあ、こっちの世界で頑張れば、双方の落とし所が見つかるよ、きっと!」
本当かなぁ。まあ、このまま帰っても即死っぽいから、頑張ります。
『落とし所の意味がわからん。私の仕事には妥協など存在しない』
「あーあ。本当にカタイねえ。気軽にゆっくり行けばいいよ」
『断る。竹脇延年は、こちらで死なせるわけにはいかないから、当然、守りはするが、さっさと用事を済ませて早急に送り返してもらう』
「せっかちさんだなあ。じゃあさ、ノブトシは、僕のお願いを聞いてくれるという事でいいんだね?」
はい。喜んで。
……出来れば長期のやつ頼みます。
「アハハ。そうだね。その方が長生き出来るもんね」
『まあ、わざわざ世界を跨いでまで召還したのだ。そう簡単に終わる用事ではないのだろう?』
「うん。ごめんね。ちょっと大変なんだ。さっき言ったように、この世界、僕が封じられている間に、よくわからない現象があちこちで起こってるんだよね」
魔物とか、よくわからない生き物とか、そういうのでしたっけ?
「そうそう。よく覚えていてくれたね。なぜそんなのが出てくるのか、突き止めて、出来れば改善していって欲しいんだ」
『創造主なのに、どうにも出来ないのか?』
「そう、そこなんだ。僕、実はまだ完全に復活できていないんだよ。なぜか、力が戻らないんだ」
もしかして、その原因もわからない?
「あ、ノブトシ、冴えてるね。その通りだよ。とにかく、この世界、狂っちゃってるんだ」
僕も含めてね、と、困った顔で苦笑いする神様。これは大変そうだな。




