第4話 僕と祝福
1000を超える、祝福……なんか凄そうだ。
「〝なんか〟って……」
異世界の神様は、ちょっとだけ困った顔で笑った。
「ノブトシ、君の世界の人間を全て見たわけではないけど、普通、祝福は一人につき一個だよ?」
『そうだ。私も永く魂を刈ってきたが、祝福を持っている者自体、ほとんど居ない』
「神様から祝福を貰える人間は、本当にラッキーなんだよね。君の世界は神様がいっぱい居るから、僕の世界よりは多いかもしれないけど、一個貰ったらそれで終了。だって、魂がパンクしちゃうもん」
怖っ! でも、それを1000個も貰えるなんて、凄いな、僕。
「ただね、いくつか決まり事があるんだ」
『そうだな。それは、どの世界でも共通だろう』
え? なになに? 痛いのとかは嫌だな。
「ご褒美は、何らかの働きに対して授けるものなんだ。簡単にポイポイと渡せるものじゃない」
『神は、無償の愛を全ての者に、有償の愛を一握りの者に与える。ちなみに私の無償の愛は〝死〟だ』
死を与えることが愛っていうのは、今ならわかる気がする。今朝方、死んだ方がマシだと思う程の痛みや苦しみを味わったから。
「で、もう一つの決まり事は、受け取る祝福を、自分で選ばなければならないという事だ」
え? そうなの? いわゆる〝天才〟って〝知らない内に目覚めちゃった人〟って言うイメージだけどなー。
『そうではない。もちろん例外はあるし、覚えていない事の方が多いが、天才は大抵、神に遭遇して3択を迫られているはずだ』
「うん。3択なんだよ、何故か決まってるんだ」
3つの中から選べるのか。お得感が満載だなー!
『いや、竹脇延年。その3択、お前ならではだが、苦悩することになるかもしれん』
「まあ、一般的にもそうだよ。だって、1つ選ぶということは、他の2つを諦めることになるんだからね」
普通の人間は、1つでも手に入れられるかどうかわからない祝福。それの3択は悩むだろうなあ。でも僕は、それを1000以上手に入れられる。そんな僕が、なぜ苦悩?
「3択で選ばなかった祝福は、2度と選択肢には現れなくなる」
ええっ?! それじゃ……
『そうだ。絶対に欲しいと願う祝福が選択肢に2つ以上あれば、お前は苦悩するだろう』
1つ手に入れて、2つを永遠に失う事になるのか。それは悩むだろうな。1000以上も手に入れられる僕だから。
「まあね、祝福のチョイスは僕がやるんだから、そこそこちゃんと選ぶよ」
『だが、異世界の神よ。制約があるだろう』
「そうなんだ。3択には必ず、ハズレを1つ、入れなくちゃならないんだよね」
ちょ、マジすか?! 何とかならないんですか、その制約!
「悪いけど決まりなんだ。そうしないと、祝福は与えられない」
『若干の助言は許されている。私からもヒントをやろう』
……駄菓子屋のくじ引きみたいなノリになってきたなー。
「まあ、なるべくハズレ枠には、わかりやすいヤツを入れるからさ。それに、ハズレと言っても、呪いを貰うわけじゃない。他の2つに比べて、役に立たないというだけで、祝福は祝福だ」
そう言ってにっこり微笑む神様。
……僕よりも若くも見えるし、老人にも見える。不思議な事に見え方が変わるのだ。今はダンディーなナイスガイ。ちなみに、死神は常時、可愛い女の子のままだ。
「僕達、もしかして褒められてない?」
『べ……別に褒められたって、嬉しくなんか無いぞ』
2人とも……いや、2柱かな? ちょっと照れた感じになっていて可愛い。
『ぶ……無礼な!』
「あはは。まあまあ。彼は純粋な気持ちで、そう思ってくれているんだから」
顔を赤らめる死神。異世界の神様はニコニコと微笑んでいる。
「で、話を戻すんだけど〝この世界に来てくれた〟という〝働き〟に対して、君に最初の祝福を、あげちゃおうと思うんだ。ちょっとサービスが過ぎるけど、特別だよ?」
『ここでの使命を、先に説明しなくても良いのか?』
「あー。とりあえずね。僕のお願いを聞いてくれるかどうかは別として、ノブトシは祝福をたくさん持てるんだから、貰っといても損は無いと思うよ?」
やったー! 貰えるものは有難く頂きます!
「ふふふ。素直な良い子だ。それじゃ、始めるよ?」
あれ? また姿が変化した。
今は、にこやかなお爺さんに見える神様。おもむろに両手を広げて、時間の止まった灰色の空を見上げた。
「お前に祝福を与えよう! これは大いなる選択。後戻りは出来ぬ!」