第3話 僕と神様
「僕は、君達の世界の時間で言うと、えっと……3000年ぐらいの間、封印されていたんだ」
神様は、ちょっと悲しそうな顔で言う。
「昔ね、この世界に〝邪悪なモノ〟が、突然、湧いたんだ。どこからともなくね。そいつを退治した時、最後にちょっとだけ油断しちゃって、動けなくされたのさ。で、やっとの事で復活したら……」
周囲をぐるっと見回して話を続ける。灰色の世界は時を止めたままだ。僕と死神にだけ、色がついている。そして神様はただ白く光っている。
「うーん。ここは一見、平和に見えるね。でもこの世界には、魔物とか、よく解らない生き物とかが、いっぱい、いっぱい、溢れかえっているんだ。人々は、日々、大変な生活を強いられている」
確かに、普通の農村には似つかわしくない、剣や槍を持ち、鎧を着た人が、ちらほら見受けられる。
『〝邪悪なモノ〟とやらの仕業か?』
死神が尋ねると、神様は首を横に振った。
「たぶん違う。アイツは間違いなく僕がやっつけたんだよね」
神様は僕の方を見て、少し申し訳なさそうに続ける。
「それでね、僕は復活したばかりで、力が制限されててさ。キミの世界の神様に相談したんだ。正確に言うと、彼は今はまだ人間で〝神様候補〟なんだけど、ただ一人、僕の呼びかけに応えてくれたのが彼だったから」
神様候補?
「そうそう。キミとは少し前まで同じ学び舎に居て……えっと、君達の言葉では、なんて言ったかな。そうそう。くらしめいと、だったかな?」
「暮らし……メイト……クラスメイト? 同級生ですか?」
「あー! そうだね。ドウキュウセイだ。君達の言語は難しいね。なんだか原始人に、いきなり高等な言葉を教え込んだような作りをしてるから。えっと、名前は確か〝カジュアル・リキシ〟だっけ?」
そんなブッ飛んだ名前の同級生は、居ないはずだけど……?
「あれ? 居ない? うーん、難しい。そういえば、キミの名前も難しいよね。ノブトシ・サキマケ」
あら、それならお祝いは午後にしましょうね……って、違います。マイネームイズ、ノブトシ・タケワキ。
「あー、ごめんごめん、ノブトシ・タケワキ。とにかく、君達の言葉は難しいんだ」
まあ、そうかもね。外国の方々も日本語には、ずいぶん苦労するみたいだし。
「でね〝カジュアル・リキシ〟が推薦するキミは、困った事に寿命が尽きそうになっている上に、死神まで憑いている。そこで、こちらの世界に召喚して、助けてやってほしい……という事になったんだ」
『冗談ではない。事情はわかったが、私の仕事を勝手に邪魔しないで欲しいものだ』
死神がほっぺを膨らませて怒っている。
なんだ、よく見ると可愛いな。
「まあまあ、そんなに怒らないでほしい。まさか死神までついて来るとは思わなかったが、それ相応の埋め合わせは、するつもりだったのだからね」
『私の仕事は、竹脇延年の魂を刈り取る事だけだ。それ以外に望みは無い』
「うーん、真面目なヤツだなあ。まあ、気長にいくとしよう。どちらにせよ、ノブトシをこのまま返すことは出来ないし、お前だって、こっちの世界でノブトシを殺しても意味がない事はわかってるみたいだしね」
そうなの? そういえば僕の意識が戻るまで、死神は僕を心配そうに見ていたな。殺そうと思えば殺せたはずなのに。
「こっちでキミの首をハネても、魂はこちらの世界の〝あの世〟に送られるからね。それは彼女の本意ではないだろう」
『その通りだ。竹脇延年の魂は、偉大なる〝ハデス様〟に届けなければならない』
「だから、彼女はノブトシを殺せない。むしろ、守ってくれるんじゃないかな。そう思うと僕としては、ちょっとラッキーだったね」
死神が守ってくれる。元の世界で、直々に首をハネるために。僕的にはあんまりラッキー感が無い気がするんだけど。
『それで、竹脇延年は、何をすればいいのだ?』
あ、勝手に話を進めたな?
その、えーっと、リキシ・カジュアル君 ……あれ? こう並べると、なんか聞いたことがある名前のような気もするな……? 彼が僕の事を随分と推してくれたみたいだけど、僕、特技とかも無いし、武道とかも全然やったこと無いし、お役に立てるかどうか……
「いやいや、改めて直に見ると、やはりキミは大した器だよ」
『確かに。竹脇延年は、凄まじい。殺すには惜しい』
何がさ?! そこまで持ち上げられると逆に不安になるな。
「あー、説明するね。神様は、人間に祝福というものを与えることが出来るんだ。聞いた事ない?」
あ、知ってる。スポーツ選手とか、学者さんとか、天才的な能力を持った人を、ギフト持ち……〝ギフテッド〟とか言うんだよね。
『そうだ。人間が開花させる才能は、神により授けられる物が多い。大抵、天才と呼ばれる人間は、祝福を持っている』
「ノブトシ、キミはね、その祝福をストックする枠が、1000以上あるんだ」