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第24話   僕と真実の愛

 気が付くと、周りは灰色だった。眼の前に現れたのは光り輝く神様。

 僕と死神〝ユファ〟だけに色がついていて、周囲に動く物はない。


「ふう。危ない危ない。ノブトシ、死神……キミ達、もうちょっと、後先(あとさき)考えてよね」


 ユファは、僕からパッと離れて、真っ赤な顔をしている。

 えっと……後先って、神様?


「死神、キミ、監視されてるの、知ってるんでしょ?」


 え、なに? 監視って……?


『ごめんなさい、神様……ありがとう』


 ユファ、どういう事?  

 ……お前、神様のこと〝神様〟って呼ぶんだ。


延年(のぶとし)貴方(あなた)と私は、この世界に来る前から、そしてここに来てからも、ハデス様と、その下僕(しもべ)達に、監視されているの』


 ええ!? マジで?


「ず~っと見ているよね。たぶん、会話も聞かれていると思うよ?」


 なんでまた、僕なんかを監視するんだ?


「ノブトシ、何度も言うようだけどさ。キミの魂は、祝福(ギフト)の許容が、常人の千倍以上ある。〝僕なんか〟なんて、神々の前で言ったら、それこそ、(ばち)を当てられるか、大爆笑が起こるよ?」


 なんでその2択なんだよ。感情の振り幅が怖いな、神々。

 ……え? じゃあ、監視するほど欲しいの? 僕の魂。


『貴方の存在は、ハデス様が直々(じきじき)()いても、おかしくない程に、貴重なのよ?』


「えっと、死神……〝ユファ〟? キミはそれを知りながら、とんでもない事を……」


『ごめんなさい! ごめんなさい!』


 えっと……なんで謝ってるの? とんでもない事って何? 神様? ユファ?


「いや、気持ちは分かるんだけどね……っていうか、お陰様で、その気持ちが、分かっちゃったんだけどさ」


 …え?


『…え?』


「いや、その話は後でするとしよう……ユファ、そのハデス様とやらに、お前がノブトシの魂を刈る事が出来ないと判断されたら、お前の代わりに、別の死神が派遣されて来るのだろう?」


『……はい。そして、即座に私を殺し、その死神が延年(のぶとし)に憑くと思います』


 何だって?! ちょっと待って? そんな事ってあるか?!


「ノブトシ。それぐらい、キミの魂は貴重なんだ。キミとユファの事を知られたら、キミ達はもう、一緒には居られない」


『それで、時を止めて、(かば)ってくれたんですね』


「うん。ギリギリだったから、うまく誤魔化(ごまか)せたか心配だけど」


 そうだったんですか。神様、ありがとうございます!


『ありがとう、神様。今までの数々のご無礼、お許し下さい』


「いやいや。でも、このあと僕が消えて、時間が動き始めたら、2人とも絶対に、今までどおりに振る舞うんだよ? 言葉も、行動も、今までどおりだ。悟られてはいけない」


 わかりました。今までどおり、ですね。


『わかりま……当然だ。私は失敗などせん。竹脇延年(たけわきのぶとし)。お前はその中身の無い頭を絞って、私の足を引っ張らんように気をつけるが良い』


 ペロッと舌を出して、微笑むユファ。

 ……いや、死神。僕の可愛い死神。絶対に死なせないぞ。そして、僕も死なない!


「でね、キミ達のおかげで、思い出した事があるんだ。重大な事だよ」


 僕達のおかげで? 何ですか?


「僕には、妻が居たんだ。この世界の創造主は、僕と妻の2人だ」


 妻……? って、奥さん?!


「どうして忘れてたのか分からないんだけど、彼女の存在は、完全に僕の記憶から消えてしまっていた。忘れるはずもない彼女の事を、僕は忘れていたんだ」


 神様は、今までで一番悲しそうな顔をして、(うつむ)いた。奥さんの事を忘れていた? それはやはり、この狂ってしまった世界と、何か関係があるんだろうか。


「うん。間違いなく、関係している。だから思い出せて良かった」


 ……そういえば、今日の神様は、若い青年の姿をしている。いつもは、お爺さんになったり、子どもになったり、姿がコロコロと変わるのに、今日は、この姿のままだ。もしかして、これが神様の本当の姿なのかな。


「ノブトシ、死神。キミ達の愛は、(とうと)い。生と死、神と人、全てを超越した、真実の愛だ。妻の事を思い出す事ができたのは、キミ達のおかげだよ」


 神様……


「だから僕は、キミ達が、ずっと幸せに暮らせるように、力を貸してあげたいんだ。そうする事によって、僕ももっと、色々な事を、思い出せそうな気がするんだよね」


『神様。感謝します。この世界は、延年と私が、必ず救います』


「あー、ダメダメ! 〝ノブトシと私〟って、キミが彼を、どれだけ大切に思っているかはよく分かるけど、神であるキミは、人間を先に言ったりしないで? 口調はなるべく、元の感じでね! バレちゃったりしたらたいへんだから」


『コホン。ああ。そうだな。私と、この愚か者が、この世界を救ってやろう』


 〝愚か者〟って便利だ。使うだけで、それらしく聞こえてしまうからな。


「いいね! くれぐれも、今までどおり、だよ? ノブトシもね?」


 はい、頑張ります!


「それじゃ、アレ、行っとこうか。とにかくキミたちが、元の世界に戻ってからも上手くいくように、どんどん力を蓄えていって欲しい」


 神様はにっこり微笑んで続ける。

 やった! もしかして、祝福(ギフト)?!


「この僕に、真実の愛を思い出させてくれた事に対して……」


 神様が空を見上げて手を振り上げた。


「お前に祝福(しゅくふく)を与えよう! これは大いなる選択。後戻りは出来ぬ!」


 神様は、3つの選択肢を並べた。


「ひとつは調理。お前の作る料理は、全ての人々の舌を満足させる」


「ふたつは開花。お前が見る、すべての花は瞬時に咲き乱れるだろう」


「みっつは修復。お前は全ての物を、元の形に戻すことが出来る」


 神様は例のごとく、3つの祝福ギフトを提示した。


「……さあ、ノブトシ、ヒントは要るかな?」

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