第2話 僕と異世界
周囲を見回すと、のどかな田園風景が広がっていた。
空は青く、雲は白く、もちろん木々は緑の、ごく普通の田舎の光景。
言われなければ〝異世界〟だとは分からないな。
……と、思ったら、牛に似た、牛とはちょっとデザインの違う動物が、村人に引かれて行く。
先程、僕の声に驚いた数人の村人たちは、何事もなかった様にそれぞれの仕事に戻って行ったみたいだ。
『竹脇延年。お前と私は、別の世界に転移してしまったようだ』
今までは、フードを目深に被っていたし、そもそも存在自体がボヤっとした感じだったので、まさか死神が女の子だとは気付かなかった。
確かに、声はちょっと可愛い過ぎる気もしたけど。
『お前は、病で死ぬはずだった。だが、命の炎は尽きずに残り、平然としている』
そう。僕は朝の身支度を済ませたぐらいから突然始まった、耐えられない程の全身の痛みと、吐き気や目眩、高熱や痛痒い発疹等で、ほとんど動けない状態になった。ところが、死神の〝死の宣告〟を受けた途端、全ての苦痛が無くなり、スッキリと回復した。だから、冷たい死神の鎌を首筋に当てられながらも、なんとなく〝死〟とはそういう物なのだと思った。死を受け入れたのだ。
『妙だな。お前には〝死〟以外の救いは無かったはずだ。この転移といい、お前の回復といい、不自然過ぎる』
そうなのか。あの辛さから開放されて、死神に、感謝さえしたんだけどな。
『これ程の事が出来る存在は、限られている。お前、誰かと話していたな。あれは誰だ?』
そういえば、そうだっけ。えっと、あれは確か……
「ふふ。僕だよ」
全てのものが、灰色になり、動きを止めた。
目の前にいきなり現れたのは、白い服を着た眩しく輝く存在。ひと目でわかった。神様だ。
「そう。この世界の神だよノブトシ。キミを呼んだのは僕だ」
チラリと僕の横に立つ死神に目をやる神様。
気のせいだろうか……少し困った顔をしている。
「はぁ……なんでお前までついて来るんだよ……」
気のせいじゃなかったみたいだな。
『不本意だ。私だって、望んでついてきた訳では無いぞ』
死神もまた、困った顔だ。
「まあいいか。来ちゃったものは仕方ないしね」
神々しい見た目の割には、軽い口調で話す神様。
「それにしても、キミ達の世界、変わってるよね。神様がいっぱい居るし、無限の空間に丸い大地がたくさん浮かんでいるなんて。作るの大変だったろうねえ」
〝宇宙〟と〝星〟の話だろうか。こちらの世界は違うのかな。
「ああ。僕が作ったのは、この大地だけだよ。神も創造主である私だけだ」
僕は横着なんだよね。そう言って微笑む神様。とても優しい笑顔だ。
『この世界の神よ。この男を呼んだ理由をお聞かせ願いたい。いやそれより、可能な限り速やかに、元の世界に返してもらおう』
死神が、この世界の神様に詰め寄る。
「んー、それは出来ない」
『なぜだ?』
「だってキミ、元の世界に返したら、ノブトシを殺しちゃうじゃない?」