表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/35

第16話   僕と誤算

 ……なんで、こんな事になってしまったんだろう。


「申し訳ない、ノブトシさん。我々の油断と力不足が原因です」


 いえ、今回の作戦、僕も完全に甘く見ていました。






 >>>






 ……数時間前。

 会議は大詰めを迎えていた。


「目標は、巣の中心部、ここです」


 バドさんが指差す地点は、鉱山の最下層だった。


「この〝カトリセンコウ〟があれば、目切り虫など恐るるに足りません!」


 実験の結果、目切り虫は、蚊取り線香を持つ僕に、近づくことも出来ず、死んでいった。

 直接、浴びせなければならない殺虫剤より、全方位に効果がある蚊取り線香のほうが、多数の虫を相手に出来るだろう。


「全員がこれを装備して、巣の中を進めば、簡単に女王の所まで辿り着けますよ」


 こうして、僕を含めた、討伐隊7人は、松明たいまつと蚊取り線香を手に、意気揚々と、目切り虫の巣である鉱山に突入した。






 >>>






 ……そして、今現在。

 僕とバドさんと、兵士が2人、鉱山内で息を潜めている。


「完全に油断しておりました。まさか、他にも魔物が居るなんて」


 ヒソヒソと、バドさんが(つぶや)く。

 この鉱山には、目切り虫以外にも、魔物が生息していた。目切り虫は〝生き物の目〟を〝見境いなく〟狙う。故に、他の魔物は、この巣には近づかない。誰もがそう思い込んでいた。


「……スライムですよ、あれは」


 何かに襲われたのは分かった。けど、暗い上に、狭い鉱山の通路内で、1人、また1人と、兵士が悲鳴を上げながら、グチャグチャになっていくのを見てしまったら、誰でもまず、何が起きたのか考えるより、逃げようとするだろう。

 ……スライムって、1番のザコモンスターじゃないの?


「とんでもない。あいつらは切っても叩いても、なかなか死なず、どこへでも入り込み、人を襲う、恐ろしい魔物です。ここで目切り虫を食べている間は、村を襲うことはないでしょうが……」


 僕達が虫を殲滅したら、今度は、あのスライムが、村を襲うかもしれないのか。


「しかし、目切り虫に比べ、スライムは数が少なく、動きが鈍い分、対処しやすい魔物です。予定通り、目切り虫を根絶(こんぜつ)したいところですが……」


 スライムは、完全に計算外で、対策が出来ていない。なんとか、最下層を目指したいが、このままでは全滅もあり得る。

 ……それにしても、さっきからヤケに大人しいな、死神。


竹脇延年(たけわきのぶとし)。お前は、あの者たちの死に様を見て、何も思わんのか?』


 え? どういう事?

 気のせいか。死神が震えている。お前、まさか怖かったのか?


『ここは、なんという世界だ。あんな訳の分からない生き物が、人を襲って食うなど、考えられん』


 目切り虫は平気だっただろ? スライムは何でダメなんだよ?


『ああいった不定形でドロドロした、何を考えているのかわからない生き物はダメだ』


 意外だ。僕も、不定形でドロドロになれば、殺されずに済むかもしれないな。

 ……しかし参った。この調子だと、死神は、対スライムに関しては戦力外だろう。

 バドさん、スライムの弱点は何ですか?


「炎に弱いです。あとは、雷系の魔法もよく効くのですが……」


 良かった。バドさんは、魔法が使えますよね。確かレベル11……」


「……レベル? 11とは何でしょう。ノブトシさん、私が魔法を使えること、よくご存知ですね。隊長に聞きました?」


 あ、しまった。慧眼鏡(けいがんきょう)で、勝手に見たんだった。それに〝レベル〟という概念は無いみたいだな。気をつけよう。


「しかし残念ながら、私が持っている魔法は、風象(ふうしょう)水象(すいしょう)で、スライムには、あまり効かないのです」


 風魔法と、水魔法って事だろうな。

 そうですか。なかなか都合よく行かないものですね。

 そして、頼みの綱の死神は……


『私は、すこぶる気分が悪い。こういう時は、大きな火は出せん』


 ですよねー。

 あ、そうだ! この松明(たいまつ)で……


「その程度の火では、消されて終わりです。さきほど食われた兵士たちも、松明を持っていました」


 確かに。スライムは、松明の火などには(ひる)みもせず、3人の兵士をペロッと平らげた。

 駄目だ。このままでは脱出すら出来ないぞ。


「……いけない。囲まれました!」


 ええっ?! いつの間に! ……あいつら足音もないから、いつの間にか近くに居るんだよな。


「これはさすがに、万事休すです」


 バドさん達は、絶望の表情を浮かべている。


粗忽(そこつ)と取り留めのない忘却が取り柄のお前は、何か、大量の炎や雷が出せる物を、電車の網棚に忘れたりしなかったのか?』


 取り留めのない忘却って何だよ。

 あと、火とか雷とか出せるって……そんな物騒な物は、電車に持ち込んだら捕まっちゃうんだからな!


「ノブトシさん。こうなったら、イチかバチかです。私達が(おとり)になりますので、その隙に、逃げてください」


 駄目です! 諦めないで! きっとまだ何か方法が……


「いえ、このままでは全滅します。ノブトシさんは、生きて村に戻ってください。あなただけが、最後の希望なんです!」


 バドさん達は、互いに目配(めくば)せすると、剣を抜き、松明を掲げて、今にもスライムの前に飛び出そうとしている。なんとかしなければ!

 くそ! せめて、この殺虫剤がほんの少しでも、スライムに効いてくれれば……

 僕は右手に握りしめた、殺虫剤を見つめた。

 ……あれ、待てよ?


「ノブトシさん、サヨナラです。なんとか生き延びて、村に巣の事を伝えて下さい!」


 ちょっと待って、バドさん! もしかしたら、いけるかもしれない!

 僕は殺虫剤を顔に近づけて、注意書きを読む。大きく〝火気と高温に注意〟の赤い文字。そしてその下には〝高圧ガス:LPガス〟と書かれている。

 死神、殺虫剤を3本出してくれ! 急いで!


『……何か思いついたのか?』


 ああ。良い子は絶対に、真似しちゃ駄目なヤツだけどな。

 僕は、目の前に迫るスライムに、松明(たいまつ)(かか)げた。すかさず殺虫剤を吹きかける。凄まじい炎が、勢い良くほとばしり、スライムは一瞬にして、火だるまになった。


「うわっ、なんと! すごい!!」


 兵士たちから驚嘆(きょうたん)の声があがる。

 可燃性ガスを使ったスプレーを、火に近付けると危ない。缶にデカデカと書かれているのに、当たり前の事過ぎて、すっかり忘れていたな。


「これなら、スライムを殲滅(せんめつ)できる! ノブトシさん。あなたは本当にすごい!」


 いえいえ。僕の力じゃないですよ。

 スライムは、グズグズになって息絶えた。よし! 勝てそうだぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ