第13話 僕と寿命の炎
死神は、ずっと背中を向けて、俯いている。
なぜなら、ここが風呂場で、僕が今、風呂に入っているからだ。
それにしても大きな浴場だな。
『きゃあああぁぁ?!』
突然、死神が悲鳴を上げた。どうした?!
……って、
あ、バドさん、お先にお風呂、使わせて頂いてます。
「いえいえ、構いませんよ。湯加減はいかがですか?」
バドさんと他の兵士が、何人か入ってきた。もちろん、風呂なのだから、全裸。
完全に、僕とは反対を向いていた死神は、それを直接、見てしまったのだ。
……いや、それより悲鳴が可愛いな! もしかして普段の口調って、頑張って作ってないか?
『そ……そんなことは無い! お、おのれ、竹脇延年。異世界でなければ、即刻、首をはねてやる所だぞ!』
入り口の方を向くのは、危険だという事がわかったので、なんとなく風呂の隅の方に向き直って、悪態をついている死神。あ、耳が真っ赤だ。
「おや? ノブトシさん、先程は気付きませんでしたが、かなり鍛えておられますね」
こちらを見て、バドさんが言った。
え、そうでもないですよ? 帰宅部だし、超インドア派だし。
『ノブトシ。〝賢帝〟の効果だ。もう忘れたのか? お前の頭は、トリ並みだな』
相変わらず酷い。
……言われてみれば確かに、僕ってこんなに筋肉質じゃ無かったよな。うわ、腹筋割れてる!
けど、バドさんや兵士達の肉体は、僕とは比べ物にならない位に出来上がっている。ガチムチだ。そりゃ毎日、命がけで戦ってるんだもんな。
あ、そうだ。死神、バドさんの強さを鑑定してくれないかな。
『勝手にするがいい』
そう言って死神は、慧眼鏡を投げて寄越した。
ちょっと! 危ないなあ。これって鏡だろ? 割れたらどうするんだよ。
『神器が、そう簡単に人の世で壊れるものか。愚か者め』
最近〝愚か者め〟って付ければ、キャラが保てると思ってないか?
……そっか。壊れないんだ。そりゃますます便利だなー。
で、これ、どうやって使うの?
『鑑定する物を、慧眼鏡に写してから、その名を頭に思い浮かべるのだ』
簡単だな。僕は、バドさんの方に鏡を向けた。この神器も、バドさんには見えていないようだ。
どれどれ……おおっ、出た出た。
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バド・クルーウェル
村の衛兵隊 隊長補佐
HP 223
MP 109
攻撃力 52
守備力 38
敏捷性 34
運 8
特殊技能
剣術 Lv25
格闘 Lv23
魔法 Lv11
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……ハンパ無え!
そう言えばこの人、隊長補佐だもんな。ナンバーツーだ。これぐらい強くないと、務まらないよな。
あ! ……そうだ、いいこと思いついた!
僕は、あさっての方を向いている死神に、こっそり慧眼鏡を向けた。
たしか、あらゆるものを鑑定できるとか言ってたよな……死神のステータスは、どうなってるのかな?
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ユファ・ロラングラン
死神
HP 444 + 不死
MP 444 + 自動回復
攻撃力 444 + 即死効果
守備力 444 + 接触不可
敏捷性 444 - 行動範囲固定
運 444 - 不明要素
以下、鑑定不可
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超、死神っぽい!!
何これ! どうやったらこんなステータスになるの?! おもしろすぎる!
『お前……』
気がつくと、死神が向こうを向いたまま震えている。
……これは怒りの波動?!
『なんてことするの?! 神様を鑑定するなんて聞いた事ないわ!!』
怒りで口調が女の子になってるぞ?!
ごめんごめん! ついうっかり……
『うっかりなわけ無いでしょ! 本当に油断も隙もないんだから!』
いや、だから口調が女の子に……
『何よ! 口調って……はっ!』
ビクッとなって、固まる死神。
『……お前は』
はい?
『お前は、何も見ていないし、聞いてもいない。良いな?』
は……はい! 何も見てませんし、聞いてません!!
今までで一番の低いトーンだ。劇画のワンシーンのような。
『よろしい。次にやったら、即座に刈り取るぞ?』
刈られるッ! もう絶対にしません!!
『慧眼鏡を返してもらおう。2度とお前には貸さん』
そんなぁ! ユファ姉さん! あんまりっすよ!
『……この世界の大地に還るか?』
向こうを向いたままなのに、僕の首筋にピタリと鎌が押し当てられる。
じょ、冗談ですよ死神さん! 嫌だなあ。塵芥のような、たかが人間風情の戯言じゃないですか……
『ふん。お前の言う〝たかが人間風情〟とは、こうやって神と普通に会話をしている者を指すのか?』
お前は何者なのだろうな。と言う死神。
僕は、ごく普通の高校生……じゃないんですかねえ。
「ノブトシさん、どうかなさいましたか?」
バドさんが、心配そうに尋ねてくれた。ひとりで騒いでいるように見えるもんな。
あ、いえ、ちょっと、呪いを鎮める儀式を……
「ああ。あの、よく気が利く呪いですか! 私の知り合いにも、呪い持ちが何人か居りますが、ノブトシさんのように前向きで明るい人は初めてですよ!」
あら。呪いって、けっこう一般的なのね。
『……私は呪いではない』
知ってるよ。そんな生やさしい物じゃない。自動追尾型で不死身の殺人マシーンだ。
でも、そんなのに憑かれてても、前向きで明るいのは、ちょっと自慢できるかな。
『何も考えていないだけだろう』
ほらね。口も悪い。でもまあ、呪いという事にしておけば、怪しまれないのは良くわかった。
「さておき、明日の作戦ですが、私と、こちらの部下が同行させて頂くことになります。よろしくお願いしますね」
なんと! それは心強いです! こちらこそよろしくお願いします!
『やはりな。そういう事か』
え? 何が?
『その者ら全員の、〝寿命の炎〟、明日あたりで尽きそうだ』




