第1話 僕と死神
痛い! 痛い!
な、なんだこれ!? カラダ中が痛い。
皮膚? 内臓? 骨? 必死に痛みの元を追うが、押しても、さすっても、そこではない。
しかも、徐々に痛みが増していくのがわかる。
痛い! 痛い! 痛い!
目まいと動悸で立っていられなくなり、膝をついた。
……途端に襲ってきたのは、吐き気と腹痛。両手をつき、嘔吐した。
部屋が汚れるとか、気にしている余裕などない。気持ち悪い。死ぬほど気持ち悪い。吐いても吐いても次の吐き気がやって来る。
痛い! 気持ち悪い! 痛い!
手の甲には、見た事もない大きさと数の、発疹、ブツブツ、デキモノ。
軽く触るとプチッと膿みが出る。這いつくばったまま鏡を見ると、それが顔にも出来ているのに気付く。首すじにもある。触ると、腹にも。きっと身体中に。
そして先程からの痛みとともに、そのデキモノが、かゆい! かゆい痛い!
寒い。凍えるように寒い。
なのに妙に目の周りが熱い。たぶん、熱も出ているのだろう。
寒い。寒い。痛い。痛い! 床に手をついて痛みに悶える。吐き気に、目まいに苦しむ。
誰か……誰か、助けて……
……どれくらい経っただろう。
際限なく増していく、痛みとかゆみ。
同じリズムで襲ってくる、吐き気と目まい。
声も出ない。動けない。
痛い。気持ち悪い、かゆい、寒い、熱い、痛い! 痛い! 痛い!
辛い……辛い……辛い……
痛い……! 痛い……! 痛い……!
頼む……もう、いっそ……いっそ殺して……
殺して!
『……頃合いか』
不意に、背後から声が聞こえた。
僕は、激痛と吐き気で、振り向くことが出来ない。
でも知っている。
僕の後ろに立っているのは、長い柄の鎌を持ち、黒装束を身に纏った〝死神〟。
……この苦しみは、お前の仕業なのか?
『ちがう』
3日前から、僕に付きまとっていた死神。
学校にも、風呂にも、トイレにもついて来た。
辛い! 辛い!! 辛い!!!
もう痛いのは嫌だ。
早く……殺して……
『いま、楽にしてやろう』
やけに冷たい死神の鎌が、僕の首筋に、ピタリと当てられている。
『今日が、お前の命日だ』
……と、死神は無機質に言い放った。
ああ。これで、苦しみから開放される……
早く。
早く殺して……
痛みが消えた。
吐き気も痒みもない。寒くも熱くもない。これが、死なのか。
「……いじょ……か……?」
不意に、頭に誰かの声が響いた。
……え? 誰?
「……みの……なま……えて?」
もう死ぬから、名前とか、どうでも良いんじゃない?
『竹脇延年、17歳。寿命により、魂を貰い受ける』
……ナイスタイミングだな。
いま死神が言ったのが、僕の名前だよ。
「……いったい……、……に、何か……?」
えっと、そうだな。
付け加えるとしたら、特に霊感があるとか、UFOを目撃した事があるとか、そんなエピソードも無い、ごく普通の高校生で……
あれ? なんで死神が見えるんだ?
『稀に、そういう者も居る』
……だそうです。
まあ、どうでもいいか。僕の命はここまでみたいだし。
「……りがと……でも……めちゃだ……、……みのこと……、……!」
いやいやこちらこそ。最後に誰かと話せて嬉しかったよ。ところでキミは誰なんだ?
『……先程から、誰と話をしている?』
死神も訝しげにしている。
そうなんだ。さっきから、頭に直接話しかけて来ている君は、いったい……
「……、…………み」
え? 異世界の……神?
突然、目の前が真っ暗になり、落ちて行くよう感覚が僕を襲った。
何故だろう。これが死神の鎌による死ではないのは、不思議とわかった。
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……うわああああっ!
自然と出てしまった叫び声で、周囲の人たちが一斉に僕を見た。
目の前に、見知らぬ景色が広がっている。僕は自分の部屋に居たはずだ。
夢? にしては、妙にリアルだし、それに……
『大丈夫か?』
顔を近づけて、僕を心配そうに見ている女の子も、実物にしか見えない。
『竹脇延年、気がついたようだな』
女の子が話しかけて来た。あれ? この声って……
『一体どうなっている? まさかお前がやったのか?』
女の子は、見た目、僕より若いか同い年ぐらい。
フードのついた真っ黒なローブを身に纏っている。そして傍らには、長い柄に冷たく光る刃のついた、見覚えのある〝鎌〟が置かれていた。
『ここは……別の世界か!? ……お前、喚ばれたな?』
僕は〝異世界〟に召喚されたらしい。
……死神と一緒に。
更新はゆっくりですが、どうぞ宜しくお願いします。
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