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恋の上がりかまちはいつもごった煮

 笑顔の少女に話しかける。

 笑顔しか知らない少女に話しかける。

――ねえ。助けて。助けてよ。

 薄っぺらく、笑うことしかできない少女に話しかける。

――助けてよ! 今すぐ私を助けてみせてよ!

 少女は何も答えない。ただ、笑ったままでこちらを見返しているだけ……

 バカにされた気がした。


「あなたは、ゴミを出したことがありますか?」

 ハイと答えた全人類の皆さん、正解です。

 この世に、ゴミを出したことのない人間なんていませんよね。

 どこかのジャングルで非文明人よろしく半裸で踊っている人も、都会で自分だけ綺麗に着飾っている人も、生きていく上では、みんなゴミを出しながら歩いているのです。

 あなたから抜け落ちた朝シャン済みの髪の毛も、フケも、十万円くらいで買った服から出た、ほつれて丸まった糸くずも、埃も、食い散らかした木の実の殻も魚の骨も、みんなみ~んなゴミなのです(自然に還ってゴミにはならないとかいっても、日々腐敗が進行していく食料品のくずを家の中に放置しておく人なんていませんよね)。

 でも、時々考えませんか? 僕たち人間は、何をやったってゴミを出す。まるで自分自身がゴミ溜めであるかのように。乱雑に積み上げられたゴミの山から、歩いたりする振動でポロポロポロポロと、自分の体の一部としてのゴミがこぼれ落ちていくかのように。

 跡には何も残らない。ゴミの山があったところには、何もない。

 自分を構成する全てのものが、元々ゴミだけであったかのように……。

(だって、小さい頃とかよく言われたでしょ? オマエは生ゴミだ――、って……)

拝太(はいた)~。悪いけど、ゴミ捨てに行ってきてくれる~?」

 出し抜けに、耳をつねりにかかってくるような母の声が、台所のシンクを乱反射して家中を捜し回った挙句に、しつこく自分を捜し当てた。

 水を蛇口から贅沢に逃がし続ける母。解放に沸く水たちの歓喜の声に打ち消されないように、大きな返事を一つした。

(どうせ、『悪いけど』なんて思っちゃいないくせに――)

 僕は、母に言われた通りに同属の首をねじって絞め上げたあと、彼らの首を握り締めて、抗わない重みを両腕にぶら下げたまま家を後にした。


 今日も、集合場所はすし詰めだった。皆が浮き立ち、迎えの車を今か今かと待ち侘びている、ように見えた。

『みんな、おはよー』

『あ、おはよー』

『今日の修学旅行、楽しみだねー』

『そーだねー』

 などと、たわいのない会話を弾ませることができるのも、彼らは十二分に今という時間に充足していて、貪欲に何かを欲することを必要としていないからなのだろう。そう、彼らにはもはや得るものは必要ない。彼らは既に完成しているのだ、と思う。

 集合場所に近づく僕の気配を察してくれたらしく、皆が僕のほうを向き、笑顔で歓迎してくれた、ように感じた。

『今からそっちに飛び込みまーす!』

 そう宣言して、一片の迷いも無く空に飛び出した。それを、みんなが優しく、そしてしっかりと受け止める。

『みんなへダイブ! 着地成功! 時間ギリギリ滑り込みセーフ!』

 お調子者というのはどこにでもいる。しかし、彼がお調子者でいるためには、他の皆がそんな彼を冷たく突っぱねることなく、個性を認めて心から抱き留めてくれる必要がある。

『うわー! 重ーい! 食べ過ぎだよー!』

 確かに、今日は少し重かった。

『それに、シャワーの後ちゃんと体拭いてきたー? 何か濡れてるよー?』

 それは少し申し訳ないことをした。ただ、あいにく何度口を酸っぱくしても毎回こうであり、こちらとしてもほとほと困り果てているのだが。

 そんな風に、和気藹々と皆で仲良くしていると……

『キャア! みんな、外見て! ほら、あそこに……!』

 一瞬で、空気が張り詰めたようになった。無理に着せられた透け透けの服が、はち切れそうになった。

 奴らがやって来たのだ。徒党を組んで、学ランを思わせる黒色が似合う奴らが、自分たちを突き回しに来たのだ。

『不良がやってきたー!』

 誰かの叫び声を合図に仕立て、ガアアッッ! と狂ったような咆哮を上げると、不良たちは一斉に飛びかかり、襲いかかって来た。悪辣である彼らの毒牙にかかってしまった者は最後、心はともかくとして、身のほうは見るも無残にズタボロにされてしまうのだ。

 歯向かえる者は、皆無だった。手を出そうにも、出せなかった。喧嘩をしようにも、できるのはカメムシの、有り体に言えばスカンクの真似事だけ。だが、それも不良には効果がない。

 奴らはまさしく、烏合の衆だった。

『もうだめだー!』

 誰もが酸鼻たる、穿たれた自分の姿を覚えた、まさにそのときだった。

 一つの影が、集合場所を出た通路の角から颯爽と飛び出したのだ。動物並の嗅覚で不穏な空気を嗅ぎ取るなり、一切の逡巡を介さず、その現場に向かって全力疾走する。

『ニャローッ!』

 野郎共、俺のかわいい教え子たちに何しやがる、と聞こえた。

『先生ー!』

『先生だ、先生が来てくれたー!』

 先生は持ち場を離れることが嫌いなので、毎回の修学旅行には同行しない。だからといって、教え子たちを守る任が解かれたわけではない。いつ何時も、先生は教え子たちの側にいるのだ。

『ちぃ! またいつもの先公かよ!』

 不良たちは、狙いを定めて突き出しかけた吻を引っ込め、嘴を鳴らしながら一目散に逃げ出していく。

 それを、飛ぶ鳥を落とす勢いで執拗に追い掛け回す先生。何とか一匹だけでも捕らえたいものだが、残念ながら全て逃がしてしまった。

 何はともあれ、先生は不良たちを追い払い、見事教え子たちを守り切ったのだ。

『やったー!』

『先生すごーい!』

 しかし、未だ先生は未練がましそうだった。当然だ。不良たちを取っ捕まえることが、先生にとっての生きる糧なのだから。その落胆ぶりは、想像に難くない。

『……先生?』

 先生の様子がおかしい。自分たちを見る目が、先程までとは打って変わってぎらぎらしている。今日も奴らを捕まえ損ねた。ああ、悔しい、腹が立つ、むしゃくしゃする。俺は、満たされない……。

 先生は、欲求不満なのだ。

『うわー!』

『きゃあ! 何するんですか先生!』

 ついさっきまで不良たちに向けられていた牙が、自分たちに襲い掛かってきたのだ。

『先生! やめて下さい先生!』

 先生は、むさぼるようにして教え子たちを物色して回り、そして、かぶりつく。

『先生! 放して下さい!』

 うるせえ! どうせ俺が守ってやんなかったら今頃は奴らに奪われてんだ! その分を俺が貰ったって構わねえだろうが!

 透明な膜を引き裂き、その中身に手を伸ばす先生。まさに、けだものだ。

 先生、やめて下さい先生! 先生――

「……きもっ」

 その一言で、意識が現世に舞い戻った。背後を振り向くと、エプロン姿の中年女性が今すぐ汚物を滅却せんとするレーザーを欲しているかのような眼光で以て、こちらの姿を見下ろし続けている。サンダル履きの白い粉を吹いた足元には、コスメチックやらスイーツやらの残骸が無造作に詰め込まれた半透明のポリ袋が、女性ならではのか弱くたおやかな手を一休みさせようと気を遣っていた。

 僕は、ゴミ出し場の前にしゃがみ込む形になっていた。目の前では、破ったポリ袋に前足を突っ込んだ猫が、その前足をくねくねとうねらせている。上空では、旋回したり、近所の屋根の上に止まったりしている烏の群れが、特に恨めし気でもなくこちらをじっと見据えている。

 よくある烏の鳴き声の擬音が、実によく似合いそうだった。

「すす、すみません!」

 そう言って、前をどこうとした僕の肩を女性の投げたゴミ袋が撫でていくのと、猫が俊敏に物陰に逃れるのとは、ほぼ同時だった。

「一つ、出し忘れてんじゃないの?」

 女性は唾を吐くようにそう言い残して、背中を向けて去っていった。僕はその後姿に、「ゴミがっ」と言葉の小石をぶつけた。女性の体から追い立てられるようにして放たれるきつい香水の臭いが紐状の実線となって軌跡を描き、先のほうで繋がったその端を引っ張れば女性が転んでくれそうだった。猫が、今日の収穫らしき食パン一切れをまるまる口にくわえながら、とことこと引き上げていった。烏たちは、虎視眈々とこの宝の山を狙い続けていた。

 そんなわけで、僕は今、ゴミに見入るお年頃だった。


 僕の名前は木枕(きまくら)拝太、地味な中学一年生。世間は夏休みであれやこれやとレジャーを楽しんでいるというのに、僕はと言えば、友達なんかとは遊ばずに毎朝毎朝ゴミ捨て場の前で一人ぶつぶつと二十分近く座り込んでいるというのだから、それはそれは両親もさぞお嘆きのことと思うでしょう。

 しかし、そうではない。両親は僕に無関心で、僕がどこでゴミをあさっていようと何とも思わないのだ。

 だから、僕は今日もこうしてゴミと戯れていた。

『仲間同士お似合いだな』『類は友を呼ぶってな』

 同級生や近所の人たちからは、そんな罵詈雑言を何度聞いたことだろう。実に失敬だ。僕をゴミ呼ばわりするならともかく、ゴミと僕を一緒くたにしないでくれ。そう……

 僕ら人間は真のゴミだけど、彼ら真正のゴミは、この世で最も褒め称えられるべき崇高たる存在なのだから。

 ゴミは汚い? いいや、穢れきった不浄なる物質は、君たち僕たち人類のほうだよ。ゴミは、そうした君たちの薄汚い本性を全て任され、受け入れられるもの。自らが勇んで汚名を被る、誇り高き存在だ。ゴミに出すのは、いらなくなったもの、不要なもの、壊れたもの……僕たち人間はそう言ってるけど、それは欺瞞だよ。本当にいらないものなら、何でゴミとして捨てるのさ? どうして捨てられるのさ? 何のために持っていたのかな君たちは!

 そう、至高たる精神を持つ彼らは、何か都合の悪いことをごまかし、偽るといったことをしない。彼らに預けられたもろもろは、その全てがかつて、彼らの中に罪の一切合切を封じ込めんとする偽善者たちが自ずと渇望したものなのだ。無料で貰った、くじ引きで当たった、断ると相手に悪い……そういった事象もよもやないとは限らないが、本当にそれが不必要かつ無価値ならば、付き返したりバザーに出品したりすればよいだけのこと。ゴミと化す要素は、ない。ゴミとなれば、それは自身が欲した証であるし、貰ったそのままの形でゴミとして放るというのは、古来より存する物を大切に扱う精神の冒涜に他ならない。

 逃げ口上は通用しない。ゴミは、人の実態、それを覆い隠し、過去の自分を亡き者にせんとする浅ましい本質をも悟っているのだ。それでも強請り屋に堕ちず、甘んじて悪声を受け入れる、至高たる存在こそがゴミ。ゴミが無ければ人間は、腐った生物の悪臭に肺を掻き混ぜられ、巨大な質量と化した新聞やチラシの山に怯え、一時期道を逸れた際に手にした道義上不適切な事物に生涯付きまとわれながら暮らさなければならないのだ。

 ゴミとは、そんな愚かしい人間を誰彼問わずに救ってくれる博愛主義者であり、人間の不始末、不浄なる物を全て包み込んでくれる、聖別された穢れ無きメシアなのだ。

 それを念頭に置けば、彼らのこの特異な臭いだって、豊潤で色取り豊かな見た目だって、どんなフルコースの香りよりも芳しく、どんな三ツ星料理の盛り付けよりも美しい。更に、明日といわず今日といわず、今の食べ物にも困窮する野良動物たちの小さなかけがえのない命を保つ食糧にもなるのだ。危険がないとも言い切れないが、門の前の丸い団子よりもよっぽど安全である。

 さて、他に、僕たち一般人にとってゴミにはどんな活用法があるだろうか。ストーカー? とんでもない。何で僕が、わざわざゴミ(・・)を追いかけ回すために、メシアを穢さなくてはならないのだ。

 僕の考えたゴミの活用法。それは……コマーシャルだ!

 千差万別十人十色。幾多の商品が流通し、多方面に蔓延し尽くしたこの世の中。一言「食パンを買う」と言ってスーパーに赴いたところで、一種類の食パンしか置いていない店など、そうそうお目にかかるものではない。

 もちろん、マスメディアの扇動などで、十人が十人とも同じ食パンを買うこともあるかもしれない。それでも、レジに乗せた際のカゴの中身が一つ残らず同じ構成だったという状況には到底至らないだろう。そして、大抵のゴミ出し場というのは、ゴミ屋敷とかいう奴がその振りをしていない限り、たった一人だけのためにあるものでもない。ただでさえガソリンの高騰が嘆かれるこの世の中で、悠々自適などと恰好つけている一人の物好きのためにはるばるゴミ収集車を走らせるなんてことはないものと願いたい。

 そう、ゴミ出し場とは、数十家単位の共同スペースのはずだ。消費者は、生活のために絶え間なく物を買う。アパートやマンションなんかに住んでいる人は、当然部屋は狭く、穴を掘る庭もないので、室内はあっという間に購買物で一杯になり、溢れかえってしまうだろう。一軒家を地面に構え、立派な蔵を所有しているような家でも、よほどの奇怪変人でもない限り世間一般にゴミと呼ばれるそれらを蔵に丁寧にしまい込んだりなんかはしないだろう。そんなことをされては、孫子たちがあらぬ迫害を受けてしまう。

 そう、本来人類は新築住居の契約時から部屋のサイズを常に把握しなければならず、店内で品物を吟味する際には終始その体積の目測に心を砕き、家では絶えず部屋の中を漸次埋め尽くしていく不要物とにらめっこしながら「ああ、この部屋にはあと何年住めるのかな」と、近い将来か遠い未来か、やがて窓は塞がれ、いずれは点灯=火事の元となり、しまいにはかつての部屋の奥行きに思いを馳せながら靴脱ぎのみで日々を過ごす光景を漠然と覚え、震えながらの毎日を余儀なくされているはずだったのだ。

 こんな絶望の淵から人類を救ってくれたのが、ゴミという魔法の言葉であり、ゴミ出しという社会が容認したシステムであり、ゴミ出し場という聖領域なのだ。これらによって人類は、自らの生活の痕跡を部屋から追い出せるようになった。不要物が部屋中に充満し、窓を突き破って溢れ出るその時を待たずとも、それ以前に外に破棄することができるようになったのだ。必要なものを買って、その中から更に必要な箇所のみをむさぼり尽くし、不要になった部分を外に放り出す。このサイクルがとにかく早い。ものには不利と利とが必ず内包されており、それら全てを含めて完成している。それなのに、人類は利だけに目を向け食らい尽くし、利を成り立たせる基盤となる不利をさも元から不要だと言わんばかりに手元を追い出す。感謝の心など、この、人類と名の付くゴミ共はとうに忘れてしまっている。とにかく、このように、人類が信仰と畏怖を脱ぎ払ってしまったが故に。ゴミ出し場という聖域には、絶えず彼らが集まる。それも、前述の通り一応は個性というものの謳われている人類が数十、百数十人規模で、各々にとって必要かつ不必要だった彼らを家中からしきりに引っ張り出してくる。

 おのずとそこは、色とりどりの商品が所狭しと限界まで詰め込まれた、ある意味効率的なプレゼン用のブースと化してしまうのだ。

 子供にとって、他人の家、生活領域は異次元空間と同じである。友達の家に遊びに行ったとき、何もかもが新鮮味に満ち溢れてはいなかっただろうか。子供は必然と、自身の家の慣習、食生活、内装などに想像力を囚われてしまいがちになるものだ。次第に感性を失わせていく日常、それに潤いをもたらしてくれるのが、自分にとっての非日常、友達の家なのだ。テーブルの真ん中に飾られた花瓶。トイレタンクの上に敷き詰められたカラフルで宝石のようなインテリア。どこで買ったのか、どこで売っているのかも分からない、非日常を醸し出すそんな小道具たち。

 その残骸が、この聖領域には全てあった。

 その瞬間、僕はゴミの虜になった。そして閃いたのだ。ゴミの有効活用法――コマーシャルを。

 子供の世界は、親の世界に染められる。お気に入りなどと言って、いつも同じものしか買って来ない。同じところにしか行かない。そんな閉ざされた僕の世界に、何百倍もの濃度を持った情報が一斉に雪崩れ込んできた。ゴミには、幾多もの視点が宿っている。広い世界に連れ出してくれる。それよりも単純に、存在すら知らないものを、実用的な感覚を伴って知ることができるのだ。ただ単に、商品棚に陳列された綺麗な商品から得る情報とは、生命力が段違いだった。

「あっ」

 つと、ゴミの表面を撫で回していただけだった視線が、不意につがえていた矢が飛び出してしまったかのように、焦点を定めた。

 狙い射ったものは、やけに珍妙に映る、よくあるスナック菓子の緑色の空き袋だった。

「今日もあるや……」

 同じポリ袋内にある他のゴミを鑑みても、以前にも気になったゴミ袋と、元の主は同一人物であることが分かる。そのときにも、このスナック菓子の空き袋はあった。

 ポケットから、そのときに撮った写真を取り出した。メシアを直にあさるなどという行為は当然禁忌とされているため、半透明ゴミ袋の上から写したもので、光の反射を避けるためにフラッシュは焚いていなかったが、明度は充分だった。写真には、そのスナック菓子の空き袋の、しわくちゃになった表柄が写っていた。

(でも……)

 しかしながら、表柄が写っているとは言ったものの、綺麗に平べったく束になった紙ゴミとは違いゴミ袋の中にぎゅうぎゅうに押し込まれたものである。平面というよりは立体に近く、幾つもの山と谷とが形成され、写真で確認できるのはポテトチップスならポテトチップスという文字だけで、『のりしお』などの味の種類を表す部分は陰に隠れてしまっている。他には、じゃがいものような形をしたキャラクターの上半分が出しゃばるようにしてゴミ袋の中から突き出ていただけだった。

 どんな力が働いたのか、今日のそれもほとんど同じだった。宣伝にしては随分と分かり辛いが、勝手にゴミを『コマーシャルである』と謳っているのはそもそも自分であって、外から目視できる位置に来てくれただけでも大変ありがたいことだった。

 そう、自分のコマーシャル第一号は、このスナック菓子だった。いうなれば、これを一口でもいいから食べてみたかったのだ。よって、この写真を撮ったその日から、写真を片手に近所のスーパーを片っ端から当たってみた。このゴミ捨て場を使う人なら、住んでいる所も近くに決まっている。観光に遠出したがてらに買い物したとしても、スナック菓子のような物を、一度に二つ以上同じ物を買うとは考えにくい。その他のゴミの内容も量も、一人暮らしを思わせるものばかりだったのだから。

「それなのに……」

 散々探し回った。自転車で片道二時間以上かかるスーパーにもデパートにも、とにかく手当たり次第に入った。それなのに、目当ての代物は一向に見つからないのだ。元より、自分の日常生活の中で見たことの無い、知らない物だったからこそ興味を持った、食べてみたいと思ったのだ。だとすれば、普段から通い詰めている、行動範囲内にある店に置いてあるはずがなかったのだ。それでも、新商品か、期間限定か、あるいはもっと単純に、行動範囲外の遠い店にあるか。ありとあらゆる希望的観測を頼りに、夏休みの一週間を皮膚が真っ赤になるまで自転車を漕ぎ回った。

 やっぱり、見つからなかった。

「はあ……」

 かくしてゴミの有効利用法その一、コマーシャルは、早くも暗礁に乗り上げたのだった。一応、これを打開する手がないわけではない。もっと早くからここで張り込み、このスナック菓子の入ったゴミ袋を捨てていく張本人を取っ捕まえて問い尋ねればよいのだ。しかし……。

『あのー、スミマセン。あなたの持っているそのゴミ袋の中に見えているスナック菓子、おいしそうですねー。よろしければ、どこで買ったか教えて頂きたい、なんてことは……』

 言えるはずが無い。よくて村八分、悪ければ市民権剥奪だ。それに……。

 再度、ゴミ袋に目をやる。スナック菓子の他にも、元の持ち主が生活する上で必要な犠牲となった様々な吸い殻が、これでもかというぐらいの密度で、いわば一つの物体であるかのように隙間なく敷き詰められていた。色んな野菜や果物の皮に、プレーンヨーグルトなどの空き容器。空になった洗剤やハンドソープの詰め替え用容器や、色褪せたエプロン柄の煤けた雑巾。雑然といえばそうともとれるが、そこにはある種の端正さが感じられた。破かれた紙切れには、女の子によくある丸っこいだけの字ではなく、整然と折れる箇所は折れ、それでいてどこか柔らかそうに見える文字。

 そう、自分はこのゴミの主にほのかな幻想を抱いていた。そして、それを壊してしまうことがいたく怖かったのだ。

『あ、見て見て~! 迎えのバスがやってきたよー!』

 ふと、小さな地鳴りを感じたかと思うと、周りの空気が、口内をべたつかせるような生暖かいものへと変わってきた。

『ごとーちゃーく!』

 言うまでもなく、彼らの迎えのバスが来たのだ。このバスは独特の機構により、定員数を大幅に増やすことに成功した、すこぶるつきの効率の良いバスである。

 自分は、急いでその場を立ち去った。そのままでいたら、万が一にも一緒のバスに乗せられてしまうことがないとは言い切れない。

『はーい! それでは皆さん、長らくお待たせいたしました。すぐに出発しますので、急いで乗り込んで下さい』

『ハーイ!』

 手馴れた添乗員や運転手に体を引っ張られ、彼らは慌ただしくバスに乗り込んでいく。

『ちょっと、押さないでよー!』

『しょーがねーだろー。後ろが押してくるんだからさー』

 かろうじて全員がバスに乗り終えると、添乗員と運転手もそそくさと座席に戻る。ぎゅうぎゅう詰めにされた彼らの中には、入り切らずに服がドアに挟まれてしまっている者もいるのだが、ぞんざいな性格らしく、乗務員はそんなことはお構いなしのようだ。

『なんだよー、サービスの悪いバスだなー。クーラー効いてねーし』

『まあまあ。それより、私たちってどこに行くのかなー?』

『楽しみー』

 やがて、バスは走り出した。行き先の分かり切った、最後の旅行へと。

 燃やされるか埋められるか、はたまた沈められるか。人もゴミも、たどり着く先が結局同じなのは、きっと……

「……さて、どうしようかな」

 写真に目を落とす。やっぱり、もう一度近くのスーパーに入ってみよう。この前に行ったときには売り切れだったのかもしれないし、見落としていた可能性も絶対ないわけではない。

ここまで時間を費やしたんだ。必ず探し当ててみせる。

「……その前に、シャワー浴びないとなあ」

 バスが置き去りにしていった生暖かい空気に身を包みながら、独りそんなことを考えていた。


 清潔な、広々としたガラスの自動ドアを開けた先では、道の両側を柔らかな橙色のカーテンをまとった色とりどりの野菜や果物が彩り、ほのかな甘みと酸味と青々しさとが渾然となった通路が、ここまでの行程で重くなった足を自然に店内へといざなう。突き当たりの角を折れ曲がると、銀色の斑紋や朱色の珠玉、大胆にカットされ、つややかな光沢を露にした赤や白の宝石が散乱する、さながら小宇宙のようなスペース。蛍光灯の光にとろけてしまいそうなほどの、たおやかなBGM。その合間を潜り抜けるようにして聞こえてくる、惣菜を調理する物音が耳に心地よい。清涼飲料水、お菓子売り場では、子供たちの心からの笑顔やちょっぴり唇を尖らせた不満顔。そういったものが、どこかしら心に余裕を植え付ける役割を果たしてくれる。

 やはり、スーパーとはいいものだな、と思った。

(……でも、やっぱり見当たらないなあ)

 自分は今、家から一番近いスーパーの店内を、例の写真を片手にうろつき回っていた。

(これだけ探してもないんだったら、やっぱり、コンビニに行くしかないのかなぁ……)

 コンビニ。正しくは、コンビニエンスストア。直訳すれば、便利な店。スーパーやデパートに比べると、その店舗数には目を見張るものがある。実際この一週間、自転車で東西南北に遠出を繰り返したが、その際に見かけたコンビニの数はスーパーやデパートのそれとは十倍以上だった。二十四時間営業を売りにしている、市民の強い味方。近い存在、コンビニ。大抵の若者、特に一人暮らしなら、生活のほとんどはコンビニだけで済ませられるだろう。よくよく考えれば、どうしてスーパーなんかよりも、まず最初にコンビニを回らなかったのだと突っ込まれるに違いない。

 答えは明瞭だ。コンビニが大嫌いな人間もいる、それだけのこと。

 大型店舗と比べて品揃えが悪いのはもちろんのこと、狭いのだ。狭いが故に、否応なしに他人の近くをすれ違うことになる。そして、とにかくその客層の柄が悪い。見るだけで生理的不快感を催してやまない、能無しの若者とねじくれた大人だらけだ。そして何よりも、類は友を呼ぶというが、こいつが客柄の元凶なのかは知らないが、高校生か大学生か、若いバイト店員の存在がある。髪の毛を遺伝や重力に逆らわせ、薄気味悪いニタニタ顔に絶えず嘲笑を浮かばせ、人が側を通りかかる度に口汚く罵り、若さや青春といった聞こえのよい言葉を後ろ盾に、倫理道徳からあまりにも逸れた言動を日課とする、あのどぐされ集団の存在が。そんな奴らに、あの、脳髄を掻き回すような、ボキャブラリーの貧困から『キモい』『ウザい』『ヤバい』しか知らない奴らと同じ声質で「いらっしゃいませー」の声をかけられ、店内にはそんな奴らの、不遜や軽蔑、慢心などがてんこ盛りになった視線の雨嵐が間断なく吹き荒れる。あんな奴らの手で補充された商品を手に取り、あんな奴らが仕切るレジの上に商品を置く。そんなこと、できるわけがない。能無しの若者は嫌いだ。小中学生のくそ生意気なガキも嫌いだし、偉ぶった大人も全部嫌いだ。要するに、人間なんて歩く生ゴミは、この世で最も忌み嫌って然るべき代物だった。そして、そんな悪分子が狭い箱に密集せざるを得ないコンビニなんかよりも、広くて客質もそこまでの底辺ではないスーパーの方が、精神衛生上よっぽど安全だったのだ(もっとも、最近はスーパーのほうでも若手のバイトを頻繁に見るようになってしまったのだが)。

 ところが、お菓子売り場のみならず、店内の隅から隅までを探し尽くしても、目当ての品はどこにもなかった。

(コンビニには行きたくないし、かといって、スーパー巡り二週目に突入してもう一回自転車で片道二時間以上かかる店に行く気力も体力もあるかどうか怪しいもんだし……)

 お菓子の山を目の前にして、本来ならば『どのお菓子を買おうかなあ』などと悩むところを、『スーパーとコンビニ、どっちにしようかなあ』と、三分と百二十分とを大真面目に天秤にかけ、『どちらに向かおうかなあ』などと、写真と睨み合いしながら一人そんな珍妙な物思いに耽っていた。

 とはいうものの、決してずっと立ち止まっていたわけではない。一人が同じ場所に、同じ棚の前にいつまでも居座っていると他の客がその棚を使いにくくなってしまうなどということは説明するまでもない。かといって通路のど真ん中を陣取ってしまうようでは尚更たちが悪い。周りの足音が苛立つように規則性を失ったり、こちらを煙たげにする視線を感じたり、こちらがどいてくれるものと思い込んだ自身たっぷりの足取りが向かってきたり、果てには舌打ちなんかを食らわされたときには、右の端から左の端へ、延々と蟹歩きを繰り返すことになる。

 また、背後から足音が聞こえた。女性のものと思われる穏やかな足音が、まっすぐこちらに近づいてくる。

 相手が男だろうと女だろうと関係ない。むしろ、男より女のほうが怖かった。男の場合、失うものは最低でも金と命で済むだろうが、女の場合には名誉すら失ってしまいかねないのだ。盲目でもない限り、好き放題に露出した女の肌は否応なしに目に入る。視界から追い出そうと首を振っても、どこまでもどこまでも喰らいついてくる。一秒でもそれが目に留まってしまえば、それは正当なる侮蔑の理由付けとなってしまうのだ。波長の合う能無し共を味方につけ、『変態』だの『痴漢』だの、そういった貶し文句は水を得た魚となる。本来の性質が解放されたかのように、皆生き生きと目を輝かせる。集団の力によって虚偽は事実となり、自分は瞬く間に黒一色に染め上げられる。日本の裁判は狂っており、痴漢容疑の男性はほぼ百%有罪になる。この前、痴漢冤罪を題材にした映画を見たばかりだった。あばずれ寄りの色狂いの色欲がマジョリティーと化したこんな世の中、自分のような謙遜な人間は、社会の、一発で首のもげるパンチングボールでしかないのだ。

 以前、勇気を振り絞って入ったコンビニで、棚の下の方にあるお菓子を取るために腰を屈め、つと顔を上げた。眼前には、女性の生足があった。女性の顔が醜く歪み、その唇からは舌打ちが漏れた。女性と同年齢くらいのバイト店員が、こちらをじっと見据えていた。ああ、これで終わりだ。家に帰れば、パトカーが止まっているかもしれない。近所中で噂され、学校の教室に入った途端、正義を盾にした暴力が飛んでくるかもしれない。そもそもこのコンビニから出られないかもしれない。店内中の人間に羽交い絞めにされ、意図的に殺された後で、『激しく抵抗してきました。正当防衛です』などと赤緑青の三色光の向こう側でのたまわれているかもしれない。監視カメラの映像だって、都合よく消えているかもしれない。

 その日は、生きた心地がしなかった。そのコンビニには、二度と近寄れなかった。

 女は地獄への片道切符。振り向いたりなんかしたら、一巻の終わりだ。

 僕は、その場から離れようと、黙って横歩きを開始した。そのときだった。

「ひょっとして、その写真のお菓子探してるの?」

 声だけならまだ無関係でいられた。しかし、同時に肩をトントンと叩かれてしまっては、逃れようが無かった。後ろにいるであろう女性が、自分に話しかけてきたのだ。

(面倒なことを……このあばずれがっ!)

 どうする? 振り向いた途端、『何気持ち悪い顔向けてんだよこの痴漢』と罵られるかもしれない。所詮、女なんてそんな生き物だ。だが、無視すれば無視したで、一方的に『話しかけられた相手は答えるのが義務だ』と、都合の良い構造をした頭から、無礼千万だと痛罵を浴びせられる虞がある。

(お前が話しかけさえしなければ、こんなに頭を悩ませることもなかったものを……!)

 怒気を含んだ目つき……などと他人に喧嘩を売るような真似は到底できず、腹立たしさをおくびにも出さずに、仕方なく、小さな返事とともに後ろを振り向くことにした。

「ハイ、そうですけど……何か?」

 振り向いた先では、清楚な身なりをした二十歳前後と思しき女性が、身じろぎ一つせずにこちらが振り向くのを慎み深く見守っていた。セミロングの髪は黒々とし、全てが重力に柔順で、先端はそのまま空気に溶け出しているかの如く自然と流れている。化粧も薄く、唇や爪は本来の温かい血が通う証であるような柔らかい暖色に染まっており、服装も慎ましやかで、率直に、その品行の正しさを想像することが容易であると思わせるような恰好をしていた。自分が想像する若い女性――マスカラやアイシャドーが毒々しく、唇は、下唇を噛み続けたかのように赤い。髪は黒以外の色を縦横無尽にくねらせ、米を研ぐにはあまりにも不衛生な爪をしており、体の五割以上が地肌晒しであるようなあられもない姿を、あたかもそれが至高の価値を認められた贅物であるといわんばかりに驕慢に見せびらかすことで悦に浸る色女――のようなけばい姿を想像していたので、いささか面食らった。

 そうこう考えているうちに、いつの間にか相手の女性を何秒間も凝視していたことに気がつき、咄嗟に目を伏せた。ところが、目を伏せたその先でも女性の華奢な生足とばったり出くわしてしまい、返って罰が悪くなった。ゆっくり頭を起こすと、今度は更に、ふっくらと形作られた胸の膨らみに興味をそそられ、ついついうっかり視線を留めてしまった。

 変態の罪状は、増え続ける一方だった。

(ああ、これで、このスーパーともおさらばか……)

 そんな悲観に暮れようとしたそのとき、不意に、耳にこそばゆさを覚えた。その犯人は、相手の女性だった。彼女が短く「くっ」という笑い声を漏らしたのだ。

 多くの場合、自分にとって他者の笑いとは凶器だった。側を通り過ぎる度に、示し合わせたような、あの嘲笑。外出ごとにそんなスコールに遭ってきた自分には、笑顔や笑い声は明るい希望と平和の象徴でも何でもなく、むしろ絶対悪でしかなかった。

 だが、心なしか、今の、可憐な小鳥の囁きのような透き通った笑声には、不思議と不快感は湧き上がってこなかった。それどころか、耳を優しくこそぐられたような、何ともいえない快さすら感じているではないか。

「学校で教わらなかった? 人と話をするときは、ちゃんと目を見て話さなきゃいけないんだぞー、って?」

 柔らかな木漏れ日のような笑顔で、春風に揺れる木々のさざめきのような声で、わざわざ膝を屈めて視線の高さを合わせてから話しかける目の前の女性。

 何年ぶりだろうか。害意の伴わない笑顔と対面したのは。

「……はい、すみません」

 恐る恐る面を上げ、顔をまじまじと見つめても、しかめっ面一つ浮かべない女性。

 僕は初めて、女性の顔を眺めるということに、有意義を見出した気がした。

「それ、地方限定の味だから、ここには売ってないよ」

 聴覚に使うエネルギーを根こそぎ視覚に回していた今の自分にとっては、たったこれだけの言葉を頭に入れるのにも、普段の倍以上の時間を要していた。

 それは、夏休みの一週間を犠牲にしてまで追い求めた疑問の、なんともあっけない答えだった。あまりにも単純明快で、合理的な事の真相。それなら、見つかるわけがなかった。

「僕のこの一週間は一体何だったんだ……」

 そんな大仰なことすら惜しげもなく口にできるほどに入れ込んできたことであり、その落胆ぶりを見て取るのは、甚だたやすいことだった。

 再び女性が笑いかけたものの、その声は瞬時に止み、しなやかな微笑みだけが残った。途中で不自然に声を切ったその行動からは、他者への気配りや、礼儀正しさといったものが滲み出ていた。

(でも、それなら何で近くのゴミ捨て場に……?)

「よかったら、うちに食べに来ない?」

 突然、背中を滅多突きにされたように、心臓が弾け飛びそうになった。

「な、な……」

『何をですか』と馬鹿げた質問をぶつけそうになったが、すんでの所で思いとどまった。

「田舎の友達がいっぱい送ってきて、一人で食べるにはちょっと多すぎるかな? って、丁度思ってたところだったの」

 初めての感覚に通常の思考回路を掻き乱され、しばらくは、何のことを言っているのかさっぱり分からなかった。

 やがて、写真のスナック菓子のことを言っているのだと思い至った。

「でも……」

 世の中に、そんな上手い話があるだろうか。目当てのお菓子を、……少なからず好みである女性の家に招かれて頂きになるなんてことが。それに、一見しとやかに映るこの女性だって、本性は分かったものではない。こちらが爛々と承諾したところを、『はあ? 冗談に決まってんだろ。チョーきもいし』などと突っぱねられては、精神ダメージが二周も三周もメーターを振り切って人間を辞めてしまいかねない。だが、仮にもし、万が一にも彼女がこちらの期待する通りの純粋な心の持ち主で誠心誠意勧めているのだとしたら、こんなチャンスは二度と巡ってこない。いや、しかし。ああ、でも……。

(……ん?)

 ふと、彼女の膝下辺りにぶら下げられた買い物かごに目がいった。丁度その時に、ぼんやりとした既視感を抱いたのだった。

 ありふれたシャンプーやティッシュ箱に、様々な食品。取り立てて珍しいものはないのだが、それでも何かが引っかかる。

(どこかで見たことある。どこかで……)

 次の瞬間、体を電流が駆け抜けたかのように、一瞬のうちにもやもやが全て消し炭となって吹き飛んだ。

 ゴミだ。ゴミ袋だ。あの、スナック菓子の空き袋と一緒に入っていたその他のゴミとかごの中の商品とが、極めて似通っているのだ。

 こんなことがあるだろうか。あの、質素倹約を思わせ、虚勢を張るためだけに使われるありとあらゆるものの一切なかったゴミ袋の主と、目の前の女性とが同一人物であるなどという……まさに奇跡としかいいようがないようなことが。

 だが、この女性の今までの様態を考慮に入れれば、その可能性も無きに非ず! 六十……いや、七十%は堅い!

「あの……私のかごがどうかした?」

 かくして、気がつけばまたしても、今度は女性の買い物かごのほうを凝視してしまっていたのであった。

「いえ、あ、あの……」

 他人のかごの中身にじっと見入るなんて、一体どんなさもしいガキのすることだ。物乞いじゃないんだぞ。いや、かごを見ていると見せかけて実は肢体を観察していたなどと誤解されなかったことはむしろ幸いか。しかし、それもいつまでも持つものではない。早く、何らかの手を打たなければ、今度こそ痴漢扱いは必至だ。

「あ、あの……かご、重そうですね? 持ちましょうか?」

 こんな、ベタなごまかし方しか思いつかなかった。そして、言ってしまった後でやはり後悔した。

『はあ? お前に持たせたら中身が腐るし!』『調子乗って出しゃばってんじゃねーぞ、ゴーミ!』

 そんな言葉に、文字通り心を砕かれないようにと、強固に心構えをした。ところが……。

「そう? じゃあ、よろしくね」

 女性はそう言うと、しかめ面一つせずにカゴを差し出したのだ。うろたえながらもそれを受け取ると、更に……

「ありがとう。優しい子ね」

 ときた。皮肉でも嫌味でもない、清澄な心の持ち主にしか出せないような、穢れのない透明な声。

 何年ぶりだろうか。若い女性にお礼を言われるなどという快挙は。

「お礼に何か、好きなお菓子買ってあげようか? 何がいい?」

 何か聞こえた気もしたが、そんなことよりも、かごの取っ手に残された温もりのほうに全感覚を一極集中させていた。


 まさに奇跡だ。こんなこと、夢の中ですら許されることではない。事実、理想の女性と二人きりになる夢を見たときには、ひたすらに自分の頭を殴打することで、できるだけ短時間でのお暇を心掛けたものだった。それは女性に対する不信感故に他なく、こちらがすっかり気を許してくつろぎ始めたところを、『うっわ! 何本気にしちゃってんの? ゴミが調子こいてんじゃねーよ!』『さっさと消えな! キモいんだよ、このクズ!』『きゃー! 助けてぇ! ストーカーよぉ!』などと不意打ちを食らわないため、そして、理想の女性が醜い猿女に変貌する様を見届けないためである。たとえ夢の中でも、思い出は綺麗なままにしておきたいのだ。

 女性の本性なんてみんな同じだ。顔や金を持つ男相手には淑女を気取っていても、自分相手には揃いも揃って毒を吐き、罵り嘲り蔑む。世の中にはそんな女しかいないんだと、そう植え付けられた。

 ところが今はどうだろう。自分は今まさに、その世の女性のうちの一人が一人住まいをしているアパートの一室にまで、のこのこと、わざわざ女性の買い物袋を代わりに持ってまでしてついて行き、更には、巧みでもない言葉に誘われるがままにお邪魔し、終いには畳部屋の真ん中にちょこんと居静まり、所望のスナック菓子をパリパリと頂いてしまっているではないか。

 もし、この女が単なるあばずれだったとしたら。そのしとやかさが上辺だけのもので、チャラチャラした着信メロディを鳴らし、若者言葉で話し始めたりしたら、自分はまんまと、ほいほいと騙されたことになる。そう思うと苦々しかったが、反面、そうはならないという、確信にも似た願望があった。この人なら、この人なら絶対に自分を裏切ったりはしない。だから、誘いにもいとも簡単に乗ったのだ。自分は、人を見る目だけはあるのだと、そう信じて。

 ここに来て初めて、『知らないおじさんについて行かない』という教えの尊さが分かった。変質者は女よりも男が多いという事実か偏見からか、対象に女性を抜かしたこの言い方をよく耳にするのだ。だが、その意義をようやく我が物とした。『知らないお姉さん』なら大歓迎だという意味なのだ。よしんば、お菓子で釣られたのだとしても。

 彼女は、間違いなく純真だった。その行動一つ一つに、今の人間に欠けている“他者への本当の思いやり”が、洪水さながらに溢れ出ていた。

 このスナック菓子を一袋丸々くれたときだって、こちらが遠慮するのを、『たくさん送られて余っちゃってるから、かえって食べてくれたほうが助かる』と言って、心のつかえを取り払ってくれた。『どうせ残飯処理か』『俺は人間ポリバケツかよ』などの、いつもの癖でついつい口に出してしまいそうな言葉など、口内で粉々に噛み砕いてやった。

 更に、袋のままで手渡してくれたことも、この上ない感激だった。普通、親しくない客に出すときには袋から出して皿に移すほうが気が利いていて、袋のまま渡すほうがぶしつけだと思われがちだが、それなら何のためのフレッシュパックだろうか。袋を開けたときに、空気中に香りが漂い始めるあの瞬間が堪らないのだ。その楽しみを奪ってはならないと、そこまで考えて、彼女は敢えてこれを袋のまま出してくれたのだ。

スーパーで途方に暮れていた僕に、優しく声をかけてくれた女性。ここまでの道中にも、嫌な顔一つせずに肩を並べて歩幅を合わせてくれた女性。自分みたいなゴミが、廉潔な彼女の住まいを侵してよいものだろうかと、玄関で立ち止まっていたときにも、気さくに手を引っ張ってくれた女性。

(こんなピュアな人がいるなんて……)

 あれだけこだわっていたスナック菓子は二の次となり、自分は今、キッチンで日本茶を淹れている最中であるこの部屋の女性にただならぬ感情さえ芽生え始めていた。

 手元のスナック菓子をそっちのけで、室内をぐるりと見回した。女性にありがちな、ぬいぐるみなどのファンシーグッズが不気味に押し黙っているわけでなく、アイドルグループやバンドのポスターがでかでかと見下ろしているわけでもなく、動物の毛皮が絨毯代わりに敷かれるような、リッチでセレブにゴージャスぶっているのでもない。空白が目立ち、下手な芳香剤などの、本当に何一つ無駄なものがなく、無色無臭という呼び名がしっくりくるような、儚げな雰囲気が居住者と似通った謙虚さをも醸し出す大人びた部屋。驚いたことに、テレビすらなかった。

「テレビも買えない、貧乏学生です」

 こちらの気持ちを察したのか、女性がばつの悪そうな微笑を浮かべながら、お盆に湯呑みを二つ乗っけてこちらへとやって来た。ひざまずいてお盆を畳の上に置き、そのまま身をにじると、背筋をしゃんと伸ばして向かい側に正座した。

 お盆も湯呑みも、まるで彼女の一部であるかのように汚れ一つなかった。

「い、いえ! 別に……そんなわけじゃ! あ、……あの、落目(おちめ)、さん……」

 ここに来るまでに、互いに自己紹介を交わしていた。彼女の名前は落目ゆかり。地方から出てきたばかりの大学一年生。不慣れな大学生活や一人暮らしに、悪戦苦闘の真っ只中だという。大学に通わせている上に、独居までさせているのだ。実家の家計も火の車だろう。それを思うと、この部屋にテレビがないことも明白の理であり、途端に申し訳ない気持ちで一杯になった。

「ゆかりでいいって言ったでしょ? 落目さんなんて呼ばれたら、『あんたの人生落ち目だー』って言われてるみたいで、あんまりいい気分じゃないな」

 そう言いながら少しも嫌そうに見えないのは、高鳴る感情ゆえの錯覚でしかないのだろうか。

「それにしても、そんなに味わって食べてくれるなんて、出した甲斐あったなぁ」

 茶目っ気の中にどこか艶っぽさを含んだ目つきが、いとも簡単に心の臓を射抜いた。大人の女性のしおらしさと、いたずら好きな子供のかわいさとが内包されたその麗しい視線は、こちらに気後れな感を与えることがなく、それでいてかつ尊敬の念を喪失させることのない、絶妙の配合具合だった。

 そう、僕は手元のスナック菓子を食べることにこの上なく集中していた。なぜならば、彼女に認めてもらうためにも、はしたない真似ができなかったからだ。細かい欠片を畳の上にこぼさないのはもちろんのこと、普段のように、指にこびりついた味付きのパウダーをなめることさえ許されないのだ。そのような醜態は、何から何まで尽く封印せざるをえなかった。とはいえ、一応は本来の目的であったこのスナック菓子をとことん堪能したいというのも本望であり、それにはパウダーが不可欠となる。そこで苦肉の策として、スナック菓子を一枚手に取るごとに、指に残ったそれまでのパウダーをできるだけ、その最新の一枚にこすりつけ、こびりつかせる。それも片手だけで、意地汚さを気取られないよう、極めて迅速かつ悠然と。ゆえに手元の一枚一枚に全神経を注がねばならず、必然的に過度の集中力を要する。結果として、要らぬ力みを純粋な傾倒だと誤認し、先の過大評価へと繋がったのであろう。何であれ、好印象を得たには違いなかった。

 そんなこんなで、気分がすっかり高揚していたものだから、例の写真がポケットからひらりとこぼれ落ち、それを彼女がおもむろに拾い上げ、「そうかあ、わざわざ写真まで用意して探してたんだから、これだけ喜んでくれるのも当然かぁ」としきりに唸っていたかと思うと、やがて怪訝そうに首を傾げ、「これ、ひょっとすると……私のゴミ袋?」と素っ頓狂な声を上げたときでさえも、少しの危惧も抱かなかった。それどころか……

(さすが僕が見初めた女性! 自分が出したゴミを覚えているということは、ただ単にゴミを“不要な過去を押し付ける便利屋”としてではなく、何らかの敬意を払って見ているという何よりの証拠!)

 などと、勝手に狂喜すらしていた。

 さすがに雲行きの怪しさを覚えたのは、彼女の顔に冷や汗や苦笑いといったものが登攀を始め、それが次第に食い込むようにしがみついて顔から離れなくなった後だった。

「いや、あ、あの! そ、それは……」

 慌てることではない。後ろめたいことなど、何一つしていないのだ。だからといって、こちらがいくら弁解したところで、相手はそれを聞き入れやしないだろう。ゆえに、慌てふためいてしまうわけである。

 一人の不審な男が、写真に残してまでして一人暮らしの女性のゴミを調べるという事実。いくら聡明な彼女とはいえ、ゴミにさして思い入れのない一般人の見地から導き出される判断といえば、探偵が唯一の誉め言葉で、そうでなかった場合には……

「……もしかして、君、私のストーカーさんだったりする?」

 決して、なじるような口調ではなかった。こちらを汚らわしいものだと卑しめ、罵り倒すようなことはなかった。むしろ、こちらの存在を肯定的に受け止めようとするその態度には、寛容な女神の慈悲深さすら感じた。

 それでも、我慢がならなかった。答えの凝り固まった俗的な思考に対する憤慨が、堰を切ったように畳の上にばら撒かれた。

(ゴミを、何だと……!)

「別に私なんかのゴミだったら、困るものも何もないんだけどね。でも、社会的にそういうのは……」

「僕がそんな下らないことのためにゴミを使うとでも思ってるんですか!」

 そう叫ぶなり身を乗り出して、彼女が何か言おうとするのも構わずに、一方的にまくし立てた。こちらの剣幕に気圧されたかのように身を縮こませる彼女を前にして、ゴミの素晴らしさ、ゴミの有用性、その崇高な存在たるゆえんを、かいつまむこともせず、つぶさに語り尽くした。彼女に、ゴミの何たるかを分かって欲しい。共通の趣味を持つ、良き理解者になって欲しい。そう願って。そう信じて。

 彼女の芳しくない反応を目の当たりにして初めて、自分は異常なのかもしれない、と思った。先ほど撒き散らした憤りが、畳の縁と縁の隙間にいそいそと逃げ込んでいく。

 この世のものとは思えない沈黙に、全身が引き裂かれそうだった。

(駄目だ……絶対に嫌われた……)

 未来永劫に続くかと思われたこの静黙を最初に破ったのは、他ならぬ彼女の、くすぐられたようにして漏れ出たそよ風のような笑い声だった。

「面白い子だね、拝太くんって」

 大口を開けたバカ笑いとは程遠い、がんじがらめにされた心の鎖がするすると解かれていくような、そんな声だった。

「前にテレビで見たけど、この広い世界のどこかでは、ゴキブリをペットとして飼ってる人もいるんだって。趣味っていうのは、きっと人にどうこう言われようとも、それが好きになっちゃったらどうしようもなくなるものなんじゃないかな? 実際、ゴミのことを話してる拝太くんの顔、すごく生き生きしてて……ちょっぴりカッコ良かったぞ。それに……」

 彼女は、僕の持っているスナック菓子の袋に目を落とした。

「これも、そのうちゴミとして捨てられちゃうんだよね。思えばこれのおかげで拝太くんと出会えたっていうのに、私って本当に罰当たり」

 そう言って、彼女は自らを戒める仕草をしてみせた。

「と、とんでもありません! ゴミは、あなたを許しておかないほどにせせこましくなんてありません! それに、ほら! 何かすごいですよね! このお菓子は、最初はどこかの工場で生産されて、あなたの田舎の店舗に輸送されて並んでいたものを、更にあなたの友達が買ってここに送ってくれたわけですよね? ゴミってそうやって僕たち人間の知らないところで、実は色んな場所に行って、色んなものを見てるんですよね! ひょっとしたら、人間一人が生まれてから死ぬまでに見たものよりも、もっとたくさんのものを見ているかもしれない! よく言うじゃないですか、『旅は人を成長させる』って! それなら、四の五の言わずに長い距離を旅して、数え切れないほどの経験を重ねてきたゴミは、本当に人智を超えた素晴らしい存在なんですよ、きっと!」

 本当に、夢のようだった。こんな清らかで理想的な女性と、ゴミ談義に花を咲かせる日が来ようとは。それも、近々実施される家庭ゴミ有料化だとか3Rとか、人間にとって都合よく考えられただけのゴミではなく、気高く至高たる存在としての真のゴミについての話を。

「でも……」

 そう言うなり、彼女は途端に表情を曇らせた。僕は、空いているほうを膝の上に、もう片方はスナック菓子の袋の中で、両拳を強く握りしめる。

「人間ってやっぱり弱い生き物だから、自分たちと違うことをする人をなかなか許すことができないんだよね。ゴミと遊んでる拝太くん自身は楽しいにしても、家族は周りからどんな目で見られるのかな? 好きなことをしちゃいけないとは言わないけど、両親を悲しませることもしちゃいけないと思うな。好きなことをするのは、せめて自分が大人になって親から独立して、自分の責任は自分で負えるようになってからじゃないと……」

 拳から、すっと力が抜けた。

(何だ、そんなことか……)

 てっきり、自分自身が嘲罵されるのかと思った。甘ったるいアメの後には、手厳しいムチがあって然るべきとばかりに思い込んでいたのだ。そんなことを先走って身構えてしまっていた自分は、やはり彼女のことを心から信用していなかった。心底に根付いた不信感は、そうたやすく解消するものではない。自分にとって女とは、他人を口汚く罵ることしか能のない、俗世間の使う意味でのゴミとぴたり一致する存在だったのだ。そんなゴミ共と彼女を同一視し、とっさに罵言に対する構えすらとってしまった自分を、心から酷く恥じた。

「別に、親なんてどうでもいいですよ」

 変に悪ぶっているわけでも、大人ぶって恰好つけているわけでもなく、本当のことだった。

 彼女の自然な眉がほんのわずかに吊り上がり、その形を柔らかく変えていく。

「そんなこと言うもんじゃないの。そういうこと言ってるうちは、逆立ちしても大人になんかなれないぞ」

 彼女の反応は、大方予想通りだった。緩やかではあるが、こういうのを、義憤に駆られたというのだろう。彼女が今の発言に立腹することを愚かしいと思う反面、それを促すことのできる彼女の生い立ちが、この上なく羨ましくもあった。

「なんたって、親は僕のこと、ゴキブリ扱いですから」

「だから、そんなことは……」

「本当のことですよ。例えば、ゴキブリは一匹見かけたらその部屋に何十匹はいると思えとかいうじゃないですか。それと同じで、僕が五十九分間勉強した後に一分間休憩して遊んでるのを親が見たら、親は僕が一時間ずっと遊んでるって言うんですよ」

 何とかしてこちらを諭そうと言葉を継いできた彼女だったが、不意にさるぐつわでも噛まされたようにして、急に黙り込んだ。目を瞬かせ、呆気にとられた風のその表情からは、こちらの話が要領を得ていないことを容易に伺い知ることができる。

「いつだってそうですよ。あの親は、何かと人の体たらくに付け込んで、人の短所をあげつらってなじることを生き甲斐とするような連中ですから」

 事実だった。あの親は、つまらない人間なのだ。学歴もなければ特技の一つもなく、家事と仕事以外は何もできない連中だった。だから、あの人たちは、実の息子に愚者であることを求めた。何も自負するもののないあの人たちは、他者を貶めることでしか自身を誇示できない悲しい人間なのだ。ゆえに、僕はゴミになった。嘲笑を浴びて当たり前の異常者、クズ人間に成り下がったのだ。もちろん、ゴミに惹かれたのは自分の意思だ。しかしそれが、結果的には何よりの親孝行だと思っている。成績も悪くなければ、暴力もせず、ほんの少しの偏屈な趣味に走っているだけの僕は、純粋に蔑まれるだけの存在でしかないのであって、そこにはささくれ立った不良少年と対峙するときのようなリスクは欠片もないのだ。あの、僕を罵る際の親の表情の、なんと生き生きとしていることか。

「ま、そんな性癖は、僕も含めた人間全てが生まれながらにして持ってるものでしょうけどね。さっき、あなたも言ったじゃないですか。『人間は弱い生き物だ』って。まさしくそれですよ。どんな人間も、愚者と呼ばれた異端者を罵倒することでこの上ない快感を得る原始的で……いや、ある意味高等知能の成せる業ですね。けど、浅はかな生き物なんでしょうよ。理性って、一体何なんですかね?」

 次第に、はらわたが煮えくり返ってきた。憤怒の万言に誘発された感情が沸々と唸りを上げ、如何せん抑え切れなくなってきた。人間は、弱いくせに都合のよい生き物だ。好き勝手に他人を否定する傍らで、自分はちゃっかりと誰かに認めてもらいたがる。僕もまた、それと同じだった。どんなにマジョリティーからあぶれようと、マイノリティーに陥ろうと、生来精神が脆弱な人間は、理解者が欲しくて堪らないのだ。それも、嘘偽りで塗り固めた体裁ぶった自分ではなく、思想も信条も全てさらけ出した真の自分の、本当の理解者を。

「結局……」

 僕は、一世一代の賭けに出た。

「人間全部ゴミなんですよ! 誰からも価値を見出してもらえない不要物のことをゴミと呼ぶんだったら、人間こそが最も穢らわしいゴミでしかないんですよ! 平気で人を嘲って傷つけておいて、自分は守られるのが当たり前だと思ってる! 奴らこそがクズなんですよ! 人間のクズじゃなくて、クズが人間なんですよ! ゴミなんですよ!」

 この人なら大丈夫だという、事前の打算はあった。ここまでも何一つ口を挟まずに、親身になって耳を傾けてくれた彼女なら、きっと受け止めてくれると思った。だから、それから先は考えることを止めていた。

 親や地域の人々、学校の教師や生徒、更には道ですれ違っただけの面識も何もない連中。そんなゴミ共から受けた仕打ち、一方的に冷罵された経験もゴミの一例として交えてまくし立て、僕の全てを彼女にぶつけた。諭されてもいい。間違っていると言われても一向に構わない。ただ、彼女は絶対に、こちらの意見を圧殺したりはしない。大衆の偽善を擁護しようとも、僕の思想をけんもほろろに突っぱね、薄笑いを浮かべるような真似は決してないと、そう信じて――

「……こらっ!」

 ところが僕の期待とは裏腹に、今まで黙りこくっていた彼女がここに来て不意に言葉を差し挟み、こちらの論を制した。そしてあろうことか、平手をこちらに向け、頭の横に振りかざしているではないか。

 鋭く、短い声だった。傍から丸分かりなほどに両肩がびくんと跳ね上がったのが、嫌というくらいに分かった。体はぴくりともせずに凍りついているのに、心臓は動揺を抑えるためのエネルギーを作り出すのに必死で、上を下へとこの上なくばたついている。まるでホットプレートの電源を入れたように瞬く間に顔面全体が火照り、その熱で眼球が溶け出したといっても過言ではなかった。ふやけるようにして視界がぼやけ、吸い込む息は気管の途中で笛を鳴らして遊んでいた。

(やっぱり……)

 やっぱりこの人も駄目なのか? この人も僕のことを全否定するのか? 初めは優しくしておいて持ち上げたのだって、その高さの分を後から叩き落してやりたかっただけの、頭脳プレイを気取るねじくれた常套手段でしかなかったのか? 僕の話を黙って聞いていてくれたのだって、一番効果的なタイミングを狙い済まし、言葉が最も鋭く突き刺さるように丹念に研ぎ澄ましていただけのことだったのか? この人も単に、他人をそしることで生じる軽薄な快感をよしとする、醜く薄汚く腐り切ったゴミでしかなかったのか?

 そして、頬が波打った。彼女の平手は、間違いなく僕の頬を捉えていた。

 ああ、叩かれたんだな、と思った。淡い振動が顔全体を介して反対側の頬にまで達し、突き抜けようとした、そのときだった。彼女が更にもう片方の手を、今度は逆の頬に押し当てたのだ。一瞬、平手打ちの二発目が炸裂したのかと思った。だが、そうではなかった。むしろ叩くどころか、先に生じた衝撃を柔らかく受け止めるようにと、優しく頬に擦り寄るようにしてそっと添えられた、そんな手のひらだったのだ。

 よくよく考えてみれば、幾分神経が敏感になり過ぎていた。最初の一撃だって、叩いたというほどの威力ではなく、触ったというほうが正しい。更にいえば、二度の平手打ちの間隔も、無いに等しかった。両手を一回ずつ使って両頬を順繰りに叩いたというよりは、両手を同時に頬の両側に押し当てたといったほうが、はるかに適当だった。おまけに顔を締め付けるでもなく、肌の弾力を損なわない程度の深さに、いつまでも両手を触れさせたままでいる。

 ……はて、これは何を意味するのだろうか?

 気が付けば、彼女の両手に顔を抱え込まれたままで大人しくしている自分がいた。

 落ち着きを取り戻しかけていた心臓が、いよいよ乱舞した。彼女の手のひらのほのかな温もりなど、とうの昔にかき消された。両の頬に手を当てられているということは、彼女が最低でも肘を伸ばし切った範囲内に位置しているということ。それも左右揃ってともなれば、半身ではなく真正面なり真横なり、実質距離は更に縮まる。実際に手を前にして、是非ともその長さを確かめてみて欲しい。これを密着状態と言わずして何と言おうか。

 絶好の体勢によからぬ期待を抱いたことはいうまでもないが、彼女は依然、真剣な眼差しでこちらを睨みつけているだけだった。もしここで、彼女が初対面の男に何かを仕掛けてくるような尻軽なら、僕は彼女を見損なうことになる。その反面、ちゃっかりとそれを望んでしまっている自分も自分で、「一体お前はどうしてもらいたいんだ!」と、「相手がお前ならあばずれじゃないのか」と、「だったら今までそう呼ばわりしてきたのは、全部お前の嫉妬じゃないか」と、何が何だかわけが分からなくなり、すべてがぐちゃぐちゃになった。

 こうなったら、叱責でも誘惑でも何でもござれだ。僕は、彼女の次の言葉を待つこと以外に、為す術をなくしてしまっていた。

 そしてついに、彼女の口元が綻んだ。

「あんまりそんなこと言うと、拝太くんのこと、嫌いになっちゃうぞ」

 害意や刺々しさとは無縁の、しなやかにそよぐ広大な草原を渡る一陣の上風のように、底抜けに透き通った朗らかな声音だった。

 それからの彼女はというと、何とかしてこの前途多難で人間不信に陥ったいたいけな少年を諭してやろうと、何やら意味ありげな文句を連ねに連ねて熱弁を振るっていた。その清爽な話しぶりからは、「御託を並べる」とか「説教を垂れる」とかいった高慢さを微塵とも感じさせず、その愚直とも呼べるまでの颯爽とした熱意や正義感に、より一層の好印象を抱いたことは言うまでもなかった。

 だが、それだけだった。ここまで親身になって懸命に息巻いてくれている彼女には真に申し訳なかったが、肝心の話の内容はまるで耳に入ってこなかった。ただ、今しがた彼女の発したあの一言が、さながら衛星のように、頭の周りをいつまでもぐるぐると回り続けていたのだった。

『嫌いになっちゃうぞ』

 幾度と無くこだまするその一言を、ただひたすらに噛み締める。

(『嫌いになっちゃうぞ』って、わざわざそんなことを言うってことは……)

――なら、少なくとも今は嫌いじゃない、僕を認めてくれてるってことじゃないですか!

 それこそ、鬼の首を取ったように狂喜乱舞した。他の人なら頭ごなしに一蹴するだけの僕の価値観を、この人だけはちゃんと理解してくれていたのだ。感極まって、涙すら溢れ出てきた。

「やだ、私ったら! ごめんね、泣かせちゃった?」

 泣かせた? ええ、そうです。常時俗世間の乾燥風にさらされて涙などとうの昔に涸れ切ったこの僕の心に、暖かな潤いを分け与えて下さったのはまさにあなたなのですから!

「いえ、違うんです! あの……僕、立派な社会人になります!」

 最後のほうはそう言って、適当に話を合わせておいた。


 やがて話は尽き、もののついでにちまちまと味わっていたスナック菓子もとうとう空となり、おまけに毎週視聴を欠かさないアニメ番組の放送時間が迫っていたので(当然携帯なんか持っちゃいない)、名残惜しくはあるが、そろそろ彼女の部屋をお暇することにした。

 靴脱ぎに立って盛んにおじぎを繰り返している僕を送りながら、彼女はくすぐったそうに肩を震わせていたが、やがて「あ、ちょっと待ってて!」と言い残し、部屋の中へと姿を消していった。再び現れた彼女の手には、何やら中身の詰まったスーパーのレジ袋がぶら下がっている。そのレジ袋にプリントされた店名は、ここから一番近い店舗でも自転車で片道一時間はかかる、有名な大型チェーン店のものだった。なるほど、彼女の無駄なく引き締まった、男に媚びるようなあの嫌らしい女の丸みを強調しないスレンダーな肢体は、こうした弛まぬ努力の賜物だったのだ。近辺には、この僕がつい先程運命的な出会いを果たした近隣住民の利用頻度が最も高い人気店や、個人経営で昔なじみが多くフレンドリーな雰囲気を売りにしている老舗店が数多く散在しているというのに、自動車もなしにわざわざ郊外の大型店舗に行くのだから、彼女も相当のサイクリストなんだな、と思った。

「ここまでおそく引き止めておいて、私が何のお土産も持たせないようなケチんぼだと思った?」

 ばつが悪そうな笑みをこぼしながら、そう言って彼女は、手に持っていたレジ袋をそっと僕の手に押し付けた。緊張と高揚とですっかり凍りついてしまっていた僕の手が、わずかに触れた彼女の体温で瞬く間に開花し、彼女はそこに袋上方のわっか部分を上手に潜らせる。

 上から中を覗くと、例の地方限定のスナック菓子が、袋一杯にどっさりと入っていた。

「こ、こんなに貰うなんて、色々と都合が悪いですよ! 落目さん!」

 色々と、こちらにとっても都合が悪かった。なぜならば、今後も何かにつけて彼女の部屋に上がり込むには果たしてどうしたらよいものかと算段を立てていたところで、考えの末に閃いた手段が、このスナック菓子だったからだ。

『すみません、先日お伺いした木枕拝太と申します』

『あら、拝太くん、どうしたの?』

『実は、この前食べたスナック菓子の味が忘れられなくて、また食べにきちゃいました』

『まあ! 食いしん坊さんなんだから。あんなものでよければ幾らでもあるから、ささ、どうぞ上がって!』

 完璧だ。完璧なはずだった。だが、今ここでこのスナック菓子を大量に貰ってしまっては、次回からの訪問理由に通用しなくなってしまう。かといってこれをそっけなく断れば、今度こそ彼女との関係は御破算だ。

 このスナック菓子のおかげで天国を見せてもらえたと思いきや、そっくり裏返り、地獄の片道切符と化して戻ってくる。僕は、絶体絶命の窮地に追い込まれたのだった。

「だから、ダメって言ったでしょ」

 泣き面に蜂といわんばかりに、唇を不満げに尖らせた彼女の発したダメ押しの一声。

 ああ、やはり、結局はあなたもそうだったのですか。他人をせせら笑ってストレスを与える傍ら、自身はその鬱憤晴らしによってストレスフリーと化し、『笑顔(嘲笑)が健康に一番』とか言っちゃって、他人の寿命を食らうようにして自分はちゃっかり血行もよくなって長生きしちゃうようなタイプなんですか。クラスで一人ぼっちのいじめられっ子に「友達になろっ」とか何とか言っちゃって取り入って、親身になったふりをして色々と人には言えないことまで相談させておいて、実はこっそり録音してたそれをいじめっ子集団に売り渡しちゃって、更なる弱みを握って恥をかかせちゃうような卑劣な手を好む意地悪いたちだったんですか。最高の女性だとお見受けしたあなたは、最高に悪辣な毒婦でしかなかったというのですか――

「ちゃんと、下の名前で呼んでくれなきゃ」

「……え?」

 募りに募った恐怖と不安とで、もはや何も聞くまいと頭の中で泣き叫んでいた自分にとっては、たったそれだけの量の言葉ですらも聞き取ることが困難だった。

 すると彼女は、そんな僕の心情を察したといわんばかりに、今度は別の言い回しで、一音ずつをゆっくりと発音してくれた。

「ファーストネーム」

 そう言ってしまってから彼女は、目の前の中学生の英語レベルを急に心配したらしく、「あれ? かえって難しくなっちゃったかな?」と、声を殺して自問した。

 僕にもそのくらいの単語は分かる。英語では、最近ではそうとも限らないらしいが、確か人の名前を呼ぶときには日本語とは姓名が逆になり、『太郎』とか『ジョン』とかいうのがファーストネームで、後は、ミドルネームとかファミリーネームとかいったはずだ。

『人生落ち目だーって言われてるみたいで――』

 つい先程の彼女の台詞が、頭の中にひょっこりと顔を出した。いや、ただ顔を出していたというよりは、何とかしてこちらを気付かせようと必死で旗を振っていた。

『あんまりいい気分じゃないな――』

「……あ」

 しまった! 僕はなんて愚か者で、救いようのない痴れ者なんだ! 彼女の嫌がることを、それも彼女がそう言ったにも拘わらずにずけずけと繰り返すなんて、「チビって言うな!」という人に「チビチビチビ~!」と連呼するも同然、いや、同罪じゃないか! 何とかして今すぐ取り繕わなければ、彼女との関係はここでエンドロールに入ってしまう!

「す、すみません! 本当に申し訳ありません! お……、……ゆ、ゆ……」

 それでもやはり、女性の下の名前を、それも本人を目の前にしてそう呼ぶのは気が引けた。今までのことを思い返してもみろ。向こうのほうからそうけしかけておいて、いざ下の名前で呼ぶ度に「はあ? 何親しくしてんだよ! キメェし!」などという罵詈雑言を、これまでに何度聞いたことか。

 しかし、今この問題をうやむやにしたまま別れてしまえば、互いにもやもやとした気分が晴れず、これから先に渡る彼女との関係が常に霧がかったものとなってしまう。

 二人を隔てるもやは、やがて色濃く雲となり、そのわずかな切れ目からしか彼女を覗き込むことができない間柄に留まってしまう。それでもいいのか?

 そうだ、いいわけがない! この期に及んで、一体何をためらう必要がある?

 思い出せ! 僕は彼女に賭けたんじゃなかったのか? 全てをさらけ出してぶつけるんだと、高々に宣言しておきながらこの様か?

 口元を震わせるだけの、随分と長い沈黙があったように思う。それでも、彼女は一言も発することがなかった。偽善者がよくやるように、優しく声をかける振りをしてその反応を催促するような真似一つせず、大人びた眼差しで黙ってこちらを見つめ続けている。べたな表現だと、それはまるで、ピッチャーに全幅の信頼を寄せているキャッチャーを思わせる姿勢だった。自身は発するものを持たず、極めて能動的に、相手の球を導き、受け止めることに徹するだけの純然たる受身の存在。

 彼女となら、最高のバッテリーになれる気がした。いや、彼女自身が既に、僕にとって最高のバッテリーだった。

 僕の決心は固まった。いよいよ踏ん切りがついた。今度という今度こそ、正真正銘の本物の賭けに出よう。いや、「賭け」だなんてどうとでもとれる恰好のいいものではなく、負けたら全てを失ってしまう真性のギャンブル、賭博にどっぷりと身を浸そう。

 もしも願い叶わず、あるいは彼女がやはりあばずれに変貌したとしても、すぐさまここを飛び出し、扉を固く閉ざすだけだ。そのまま顧みることもせずに走り去って、今後一切この界隈に近寄らなければいいことなのだ。

 もっとも、絶対にそんなことにはならないという自信も、今では沸き上がっていた。彼女なら、どんなボールも逃さずキャッチしてくれる。どんな暴投でも、こぼすことなく受け止めてくれると、そう信じていた。

 だから僕は、今度という今度こそは、自分の全てを彼女にぶつけようと決意した。骨の髄まで余すところなく、魂の緒が焼き切れんばかりに、大声を張り上げた。

「ゆかりさんっ! すみませんでしたっ!」

 それはまるで、もしも魂が球体だとしたら、それを丸ごと口の中に含んで吐いて飛ばしたかのようだった。一見すれば、燦然と光を放ちながら突き進むそれは強固なものとして映るだろう。しかし、その実体は、縁日などでよく見かける水ヨーヨー程度でしかなかった。もしも飛んでいる最中に横から槍でも入ってきたら、それは木っ端微塵に砕け、もう二度と元には戻らなかったに違いない。

 だが、水ヨーヨーは割れなかった。彼女は、棘で包んだ言葉を飛ばしたりはしなかった。それどころか、虚勢を張って大きく膨らませたはいいものの、そのせいで非常に薄く、割れやすくなったそれを、彼女は何よりも大切なもののようにしていとおしげに抱き留めてくれた。そしてそれを、胸の奥にしまい込むようにして手のひらで優しく包み込んでくれた……ように見えた。

 その姿は、この世で最も無垢な存在を抱きかかえ、汚れた外界から守らんとする純白の女神の姿さえ思わせるものだった。

 実際の彼女は、目をぱちくりさせていた。あまりの声量に度肝を抜かれたらしかったが、そんな驚きの表情はすぐさま消し飛び、ほんの数秒後には、含みのない、慣れ親しんだ眩いばかりの笑顔がそこに広がっていた。

「ちょっと大きかったけど、よくできました」

 そう言って、彼女は僕の頭を撫でた。身を屈め、顔の高さを同じにして、水晶玉のようにくりりと澄んだ瞳でまっすぐこちらを見つめていた。

 猫になって、喉を鳴らしたかった。僕の憂い全てが、今この瞬間に報われた。堂々巡りになっていた一縷の望みが、数珠のように綺麗なわっかになって一本に繋がった。

「それじゃ、気が向いたらまた来てね。いつでも大歓迎だから。……言っとくけど、社交辞令なんかじゃないぞ?」

僕は、後ろ歩きで彼女の部屋を後に――前にした。彼女が見えなくなるまで、いつまでも手を振った。僕の視界から消えていく彼女のほうも、最後まで手を振っていた。お土産のレジ袋を片手に、気分が相当浮かれているらしく、歩みは自然と小躍り気味になった。

この地球上には、ゴミ集積場しか残っていないと思っていた。一見小綺麗な土地に見えても、地中にはゴミの山が埋没した埋立地だと思っていた。ところがどうだろう。ゴミ一つない真っ白な新地が、それもこんな身近にまだ現実のものとして残っていたのだ。

人間は全部ゴミじゃなかったのかって? そう力説していただろうって? やだなあ。そんなの、若気の至りですよお。前言撤回。人間にも、ゴミ以外の素晴らしい人がいる。彼女こそ、この薄汚れきった地上に残された最後の良心、ラスト・エンゼルなのだ!

 これから幾度と無く繰り返されるであろう彼女との逢瀬を思うと、期待に胸が膨らんで止まなかった。逆流せずに次から次へと湧き出て流れ込むものだから、いつか胸が破裂してしまうんじゃないかと思った。よく、「胸が張り裂けそう」だというが、実はそれはとってもいい意味にも使えるんじゃないかと思った。


 ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。心からお礼申し上げます。


 あらすじに書いたように勉強を兼ねて趣味の小説を掲載したホームページを作成したのですが、閲覧者数が伸び悩み、より多くの方々に読んでもらいたいという動機から改めて「小説家になろう」様への投稿へと至った次第です。今まにで書き溜めた作品の中から投稿するものを厳選し、そのうちの一本が本作となります。投稿の際にホームページ版から主人公の名字を変更しましたが、これは、字面の間抜けさを覚えてホームページ版では割愛した言葉遊びをせっかくだからと復活させただけで、物語上の意味はありません。


 余談ですが、今回のサブタイトルは自分でも特に気に入っています。前々から「上がりかまち」という言葉の響きが好きで、上品で繊細な印象を与えてくれる日本語のひとつだと勝手に思っています。自分の作品からもそのような、「気持ちの根底に優しさがあるからこその暗く沈まざるをえない雰囲気」なりを感じ取っていただけたら幸いです。もっとも、今回の投稿分ではそこまで表現しきれていないかもしれません。是非とも、次の章にも目を通してください。

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