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真摯な瞳

作者: 笹本かずみ

短編のつもりですがこれから続きも書くような気が…


―結婚しよう―

 


先日、付き合って2年になる恋人にプロポーズされた。



素敵な夜景が見渡せるホテルの最上階にあるレストラン。彼が予約した窓際の席で、胃の半分も埋まらないようなフランス料理をちまちま味わい、その後は街の光を離れた場所で眺めながら、見晴らしのいい公園のベンチに腰を下ろす。


そして彼は手のひらサイズの箱をぱこっと開けて、例の文句を浴びせる。

 



何となく来るなと予感はしていた。


彼は結婚への憧れを語ることが多かったし、子供ができたらどうのこうのと二人で面白半分に話し合ったりもしていたから。

 


予感が確信へと移行したのはジュエリーショップに連れていかれたとき。


この指輪似合うんじゃないとか言いながら様々な種類のリングをホイホイはめられて、すぐに分かった。私の指のサイズ情報がほしいんだと。でも私は気が付いていないフリをした。彼にはおにぶさんと揶揄われるのが常だったし、これに限ってだけは鈍くないなんて絶対におかしいと思ったから。そんなの不自然すぎる。

自分が鈍いと認めたわけではないが、このときばかりは彼の言う「おにぶな美代ちゃん」を演じた。

 



ー結婚しようー



言われて嬉しくないと言ったら嘘になる。真一のことは大好きだし、一緒になるなら彼しかいないと思っている。優しくて包容力があって、キスも今まで付き合った男の中ではダントツに上手い。彼が武士道の塊みたいな人だから体の関係はまだないけれど、彼になら純情を汚されてもいいと思える、そんな人だ。



私がぞっこんなのを知っていて、もちろんOKしてくれるものと思ってのことだったのだろう。ところが私の口から滑り出た言葉がこれ、



―ごめんなさい。あなたとは結婚できないー



矛盾してると思いますでしょ?好きなら結婚すればいいじゃない!そうです、その通りです。でもできないのだ彼とは。したくないと言った方が的を射ているかもしれない。




その理由は



彼の苗字が自分と同じだから



子供染みた夢だ。そんなの関係ない人は皆言うだろう。なんだそんなこと。


ところがどっこい、これは私にとっては死活問題だ。

苗字が変わったのに職場の同僚には旧姓で呼ばれたり、書類を書くときにうっかり間違ってしまったり。結婚だからこそ体験できるそういう楽しみが必要なのだ。

これがないまま死ぬなんて…考えただけで反吐が出る。これは冗談ではない。




思いがけず求婚を拒否られた彼が傷ついたように言った。


―何で、俺のこと嫌いになったの


私は正直に答える。彼にだけは嘘がつけない。


―好きだよ


―じゃあなんで

わけがわからないという顔で彼が呟く。


―それは…あなたが傷つくかもしれないから…


―言えよ

イラつきを滲ませて彼が言った。


―苗字があれなの


―苗字?

ぽかんと口を開けている。やっぱり。


―そう、結婚しても菅野美代子。死ぬまで菅野さんに付きまとわれるだなんて…!


彼は目をまるくして、その後吹き出した。案の定と言ったところだ。


―ぷっ。なんだそれ!お前面白すぎだろー

くくっと笑う彼の反応に少なからずショックを受けて涙目になってしまう。


慰めるように私を抱きしめて彼が言う。

―惚れ直したよ。泣くなよ。…俺は諦めないからな



最後の言葉は静かに、でも淡々とした口調だった。自分の決意を確かめているようにも聞こえた。




諦めない。

その言葉で胸がキュンキュンして心がほかほかしたわけは、断れば離れてしまうのではないかと危惧していたのを易々と裏切られてしまったから。


彼はずるい。


その言葉が私にどれほどの意味があるのかを知らない。




彼は私を諦めない


その事実だけで今の私は十分に幸せだ。


今日も彼との待ち合わせ場所に急ぐ。

いつもの木の下で、奴の視力はどうなっているのだろうと訝るような距離でも、彼は私をすぐに見つけ出す。



二人の瞳が交差して彼が微笑む。






アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。拙い文章ですが読んで下さった方ありがとうございました!

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