Ep.8
リベルタは分厚い壁が街全体を囲っていた。目の前には門があり、簡素な金属鎧を着た衛兵の前で大荷物を抱えた行商人が列を組んでいた。ロゼたちもそれに並ぶ。
前にいた背中と左手に荷物を抱えた中年の男性がこちらに気づき、声をかけてきた。
「おやおやお嬢さん方、出稼ぎかい?」
どうやら田舎から出て、出稼ぎに来た人と間違われたみたいだ。実際、ロゼは肩にかける中型のバックに腰の剣1本。マリーに限っては荷物のにの字もない。
「まぁそんなところです」
別に出稼ぎというのも半分当たっているようなものだし、最初は手ぶらで森にいたわけだから大体合っている。
「おぉお嬢さんはちっこいのに偉いなぁ。そんなお嬢さんにはこれをあげよう」
男性は左に持っているカバンから1本の瓶をロゼに渡した。瓶は透明で中には青色の液体が太陽に反射して輝いていた。
「これ、ポーションじゃないですか?」
マリーが言う。ポーション?水薬の事かな。
「そっちの竜人のお嬢さんは物知りだね。そう、これはポーション。正確には治癒のポーションだ。怪我をした時に飲むと傷の深さにもよるけど一時間もすれば綺麗に治る優れ物さ」
「こんな液体にそんな効果があるんですね」
道行く商人が売るほどこの薬は普及しているのだろうか。だとしたらこの世界の医学はとんでもないな。治癒の、と言っていたから他にも種類があるのだろう。
「はい次の方ー」
衛兵が商人の男性を呼ぶ。
「おっと、呼ばれてしまいましたね。もし、西の商店区に御用がありましたらどうぞヒューズ商店をご贔屓に」
そういって衛兵と会話をした後、商人の男性は街へと消えていった。
「次の方ー」
ロゼたちの番だ。
「身分を証明出来るものはお持ちですか?」
衛兵は相手を圧迫させない穏やかな笑みを浮かべている。
身分を証明出来るもの、学生証でも良いのかなと思ったが、ここが地球でないことを思い出した。マリーはポケットから木の札を衛兵に見せている。ロゼはマリーに耳打ちする。
「身分を証明出来るものなんて持ってないのですが」
マリーもはっとした。
「肝心なものを忘れてましたね。ここは素直に無いと答えた方が賢明ですよ」
「何コソコソ喋っているのかな?君、早く身分証明を」
衛兵が急かす。後ろにはまだ列があった。急かすのは当たり前だ。
「僕はこの世界に来たばかりなので身分を証明出来るものを持ってません」
マリーの助言通りに素直に言った。
「あぁ、転移者の方ですか。ならあちらのギルドの出張所の方に行ってください。証明書代わりになるギルドの会員証を作ってください」
衛兵は門の横に備え付けられたカウンターを指す。カウンターからは若い女の人が手を振っている。ロゼ達は言われるがままにカウンターへと向かう。
「会員証の作成ですよね。こちらをどうぞ」
受付嬢からカウンター越しに1枚の羊皮紙が手渡しされる。
見ると見た事の無い字体のはずなのだが自然と読めてしまった。なぜ読めるのかは思い当たる節がある。そう、マニュの触手で体内に入れられた試験薬だ。ステータスを弄る以外に文字の解読もできるようだ。もしかすると今話しているもの全て翻訳されているのかもしれない。ありがたいことには変わりないので良しとして受け取った羊皮紙に目を通す。
ギルド会員申込書
名前
年齢
所持スキル
とても簡素なもので名前と年齢、スキルしか書く欄がない。身分証明書を持っていない人向けのものみたいだからその程度でいいのだろう。しかし困った。字は読めても書けるわけではない。どうしたものかと悩んでいたら受付嬢が反応した。
「よろしければお書き致しましょうか?」
紙をまじまじと見つめて悩んでいたのだ。受付嬢も気を使ってくれた。
「お願いします。すみません、字は読めるのですが肝心な書くことが出来なくて」
ロゼが謝ると受付嬢は少し笑む。
「大丈夫ですよ。一般家庭の方々の大半は読み書きがままなっていないので読めるだけでも充分凄いですよ」
受付嬢はロゼにフォローも入れる。仕事柄かそれとも根っこからなのかとても気が利く女性のようだ。
「ロゼ・ネージュです」
「年は幾つですか?」
「16です」
ここは元々の年でいいだろう。神様に年の指定とかされることは無かったし。
「最後に所持しているスキルを鑑定させていただきますね」
早速スキルバレの危機が迫ってきた。マニュは大丈夫だと言っていたが不安である。別にバレても良いのだがそのせいで生活に支障があっては困る。
スキル発動の合図なのか受付嬢の瞳が橙色に光る。
ロゼ ・ネージュ
Lv.1
HP 10
MP 198
器用度 13
敏捷度 8
筋力 4
生命力 5
知力 14
精神力 99
技能
・武器鍛冶Lv.1
・鑑定Lv.1
特に問題はなかったが、精神力が人間の限界である99までに到達していた。この自称16歳がどうやってこの域にまで到達したのか。受付嬢には到底考えつくことはないだろう。
しかし、受付嬢はこの精神力でさえ偽りの数値であり、更にレアスキル持ちだということも知る由もないだろう。
受付嬢はスキルを紙に書くとロゼに紐のついたプレートを差し出した。
「登録は完了しましたのでこちらがロゼ様の身分を証明するものになります。」
プレートはロゼの持っている鑑定派生である金属鑑定によってアルミニウムだと分かった。
「一応ギルドの決まりなので説明しておきますね。今のロゼ様の階級はノービスとなっています。
階級は下からノービス、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、アダマント、オリハルコンとなっております。
昇進方法は大きく分けて2つ。討伐、生産です。ロゼ様は生産系のスキルですので生産となります。作成されたものをギルドに卸すことによって貢献値が上がりますのでもし昇進したい場合は是非頑張ってください。
細かなルール等はリベルタの西にある商業区のギルドリベルタ支部の方へお越しくださいませ。
時間を取らせて申し訳ございません。どうぞリベルタの街を楽しんでください」
受付嬢は丁寧にお辞儀をする。ロゼも頭を下げる。そして門のそばで待っているマリーの元へと戻る。
「お待たせしました。行きましょうか」
「はいっ!」
こうしてようやくリベルタの街へと入ることが出来た。
趣味に没頭しすぎてすっかり小説のことをからっきしにしていた睡蓮です。
次回はリベルタを観光します。ついでに持ち物チェックも。
時系列的に剣をまた作るのは3日午あたりになる予定です。今は大体異世界生活2日目のお昼前辺りです。ロゼもそろそろお腹が空くでしょう。ロゼたちがどうやってお金を稼ぐか予想してください