異世界召喚? どう考えても誘拐だよな。
無理矢理どうこう、は誘拐でしょう。
「……お前が勇者か。それでは早速だが命じる。我が国に隣国が攻めて来ようとしておる。お前はその前に隣国を滅ぼせ」
「……」
「おい、こいつは儂の言ったことを理解できんのか?」
「この世界に召喚した時点で、言葉については問題はございません。……もしかすると、理解できる知識が無いのかもしれませんが……」
「……」
「ふん。ならば……」
「……俺をもとの場所に帰せ」
「なんだ、話せるではないか。なら今一度……」
「……聞こえなかったのか? 俺は帰せと言った。あんた達の言うこと、聞く気はないから。だから、帰せ」
「な、なんだと!」
「貴様! 陛下にむかって!」
「……あんた達は勝手に俺を連れてきたんだ。つまり、誘拐犯ってことだろ。そんなやつらに従う理由もない。だから帰せ」
「儂らが誘拐だと⁉」
「陛下、お待ちを」
「なんだ」
「おい、貴様。残念だが、貴様に帰る術はない。だが、我らならその術を得ることもできるだろう。それまでは我らに従うがいい」
「……そうか。なら、勝手に帰るだけだ」
「なに?」
「な⁉」
ーーーー
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
俺が転移陣からでると、側近に挨拶をする。
「? どうかなさいましたか?」
「ん? ああ……」
先程の誘拐事件の事を考えていたからな。……どやら、隣国は噂通りの状態のようだな。
「父上は?」
「はい、執務室におられますが」
「では、面会の申し込みを頼む」
「承りました」
側近がそのまま父の執務室に向かうのを見送って、俺は自室にもどった。あっちの制服姿のまま面会というわけにもいかないからな。親しき仲にも礼儀あり、ついでに制服汚されると困る。
普段着に着替えて、父である国王の執務室に向かう。そこには、父と正妃の子息である兄、王太子もいた。ちょうどいい。
「おお、戻ったか。学校はどうだった?」
「すこし羨ましいかな。私も行きたかった……」
ああ、後継者である兄は、さすがに異世界の学校には通えないからな。なにかあったら困るし。
「いえ、実はちょっと隣国に誘拐されてまして」
「「なに⁉」」
おお、声が揃った。
「隣国が、うちに攻めるために勇者召喚なんていうのを行ったようなんです。それで召喚されたのは、異世界で学校帰りだった俺だったんですよ。それで、攻めろというのを断って帰せといったら、方法はないから、見つけるまで従えといってきたので、とりあえず転移魔法で戻ってきました」
「……さすがは、側妃様のご子息といったところだね」
「うむ。個人で転移魔法ほどの大魔法を、しかもこの距離跳ぶことができるのはお前くらいだろう」
うむうむ、と二人してうなずいている。
ーーここで説明をさせてもらおう。
実は俺はこの世界の王と、異世界の女性との混血だったりする。
うちの魔術師長が召喚魔法を発見し、ためし打ちをしたところ、来たのは母だった。そして、実験の成功から、すぐに母を帰してくれたのだが……その直前に当時王太子だった父とお互いにひとめぼれしたそうな。
それで、その後もこまめにこちらに来るようになって、やがて父の側妃となった。
さすがに異世界人が正妃にはなれないし、国のバランスなどもあるしね。
それに正妃と母とは、父が妬くほど仲がいいからな。
ただ、召喚に応じられただけあって、母の魔力は桁違い。当然、息子の俺の魔力も桁違い。というわけで、俺は向こうの母の実家に毎日転移をして、向こうの学校に通い、知識を得ている、というわけだ。
異世界のものをそのまま持ち込めば、確実に世界は混乱する。
だけど、あくまで知識だけを得て、それをこの世界に応用できれば、逆に良い方に導けるだろう。というのが、うちの上層部の意見だったからな。
ちなみに、俺以外にも何人か通っている。詳しくは省くが。
「なので、例の噂は間違いないかと」
「……貴族、王族の浪費による、国の衰退、か」
「現在もっとも栄えているとも言われておる、我が国を狙うとはな」
「少なくとも、俺の誘拐の件で、向こうに賠償を求めることもできると思いますけど?」
「ああ、それがあったね」
「まったく。一時だけなら、夢幻ということでいいわけもたつだろうが、帰せない、帰さないとなれば誘拐以外の何物でもないな」
いや、全く。
その後、隣国は経済的にあっという間に滅びましたとさ。
その土地は、うちや他の国と領土を平和的に分けあって、お互いに栄えあうようにがんばった。……主に兄と俺が……。
異世界召喚、誘拐、金持ち、身分がある……と連想して思い付きました。
ちなみにキャラの名前はありません。