第六幕〜あたしはここにいるわよ?
テルザになったあたしは、今すごく疑問に感じてる。会えるなら、問いただしたいのよ。ねぇ?何がしたかったの、ロラン。勝手にあたしの墓を石碑にしたのは許せないけど、一緒に入ってくれたから、まぁ許せるわよ。あたしのことを忘れてなかったのよね?ピーしてピーして子どもまでもうけた他の女よりあたしと眠ることを選んだのよね?でも、他の女を選んだことは……まぁ、許せないんだけど。目の前のこれよりはましかも。これに比べたら、人様の墓を―――しかも一応は愛した人の墓を記念碑にしちゃった産物のあの石碑がまだ可愛らしく思えるものよ。だって、ねぇ?
「グレンベルグさん?」
と、隣にたつグレンベルグへ笑いかける顔がひきつっても仕方ないと思うのよ。
「なぁに?」
と、可愛らしく微笑むグレンベルグ。やっぱ昼間の方がいいわよ、その仕種。昨夜はほんとホラーだったから。
「これが、記念館?」
「うん。ロランさんが、建てたんだって。おふたりの出会った場所なんだって」
―――記念碑から少し離れた森の中に、それは建っていた。あたしがロランに助けられたあの場所、らしいんだけど。まっったく、面影がないわよ?どこ行ったの、想い出の場所はぁああ!ここ、どこ?!あそこ、こんなに土地低くないわよ?!
あたしがロランと出会ったのは裏山。山の向こうには湖があって、確かにここは立地的にそれっぽいけど?……薬草が山盛り採取できた素敵スポットどこ行ったの?山、崩したの?それとももう少し西の山じゃない?
「……それって、薬草取りして猪に襲われたエリザがロランに助けられた場所?」
「違うよ?確か、えっと」
うーんうーんと顎に指を一本当てて悩むグレンベルグ、しばらくしてぽんっと手を打って、
「暑さにやられたエリザさんがロランさんに介抱された場所!」
―――あたしは一度たりともロランに介抱されたことないわよ?!何その激しく間違っちゃってる情報は?!
「……猪に襲われたって文献で読んだのだけど」
文献で読んでないけど、ならどうして知ってるのってなるから一応捏造。
「……でも、案内パンフレットにはそう書いてあるよ……?」
―――どこの誰か知らないけど。間違っちゃってる情報流さないでよ!誰よ誤解招いてるのぉお!
「……まぁ、二百年前だったらいろんな文献あるものね」
「かもねー」
グレンベルグに案内されて、小さなレンガ造りの平屋に入りながら、あたしはすごくハラワタが煮えくり返ってたわよ……誰よ、こんなパンフレット書いたの……!
記念館の内部は、あたしとロランの想い出で行く溢れかえってる……わけでもなかった。なら何があるの?ってことなんだけど。
「……恋が叶うスポット?」
「うん、生前幸せになれなかったおふたりが、身分違いの恋とかに悩む人を助けてくれるんだって」
「…………」
―――助けてませんけど。助けた記憶なんてこれっぽっちもありませんけど。
「だから、幽霊?が出るとか噂もあるの」
「…………」
―――出てません。出てませんとも。あたしはここにいるわよ皆さん!
「この赤いハンカチ、おふたりが心中するときに結んでたんだって。これを持ってると幸せになるんだって!わたし、買おうかなぁ」
「…………」
―――幸せにならないと思うんだけど。不幸になるんじゃない?本人幸せにならなかったから。おすすめできないわよ、それ。
「…………」
はっきりいうと、記念館は“あたしの悲恋”を観光物資化してたわけ。ようするに、お土産屋さんよ。あたしがロランから介抱されたときの様子から悲恋に至るまでを説明したパネルやらがあるだけで、あとはあたしにあやかったグッズばかり。一番怪しいのが、あたしの骨を分骨して納めたとかいうプチ墓。記念館の中庭にこぢんまりと鎮座した小さな石碑なの。これの前にね、小さな木箱があってね、小銭を投じてあたしに願うんだって。恋が叶いますようにって。……詐欺もいいとこよね?あたし、ここにいるし。それに、ここにあたしの骨が埋まってるのがほんとなら、ね?なに人の墓あばいてんのよ。てか人の遺骨、勝手に商売道具にしないでよ……。ほんと、神誓裁判に訴え出ていい?人様の死後の冒涜してるって。神誓裁判は、神様の前で真実を宣誓した文言が正しくなければその身に神罰がくだるってやつを利用して、双方の訴えどちらが正しいか見極めるのよ。勝つ自信あるわよ。
「……フランさん?」
黙りこむあたしを心配そうに上目遣いで見上げてくるグレンベルグに、すんごぉく真実を教えたくなったわよ。でも、せっかくあたしのために連れてきてくれたから、台無しにしたくないし………それに信じないだろうし。かわいそうな目で見られるのがオチでしょ。
「……ここの運営者誰かなって思って。お話聞きたいなーなんて」
嘘はついてないわよ、嘘は。責任者、出てこい。
読んでいただいてありがとうございます!