表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

第三幕〜人と協力をすることも大切なんだけど?




『エリザ、僕は来世できっと必ず君を幸せにすると誓うよ』


『ロラン………!』


『必ず君をすぐに探しだすから、それまで待っていてほしい』



―――それは、心中直前、まさにいざ飛び込まんとする前にかわした最後の会話の一節。

 あのときのあたしは涙ながらに頷いて、自分の恋人はなんて情が深いんだろうと感激して。



『すぐっていつよぉおおおおっ!!』


―――そのことに気付いたのは、エリザ+5年、テルザ5歳の時だったわよ。“すぐ”って“いつ”なの、だなんて。曖昧だったのに、気付いた。“いつ”まで待ちゃいいのよって。そうしたら、嫌でも冷めちゃってさ。何にって?恋よ、ロランとの身分違いの恋。なんであんな恋をしちゃったのかって。

 


―――結果的には約束は果たされていない、いまだに。まだ、ロランは、迎えには来ていない。

 そしてあたしは“今度こそ楽しむテルザ人生計画”なるものを練り始めたわけ。ずるずると、頭の半分でロランの迎えを期待しながら。残りの半分で、ロランを諦めながら。

 ……まだ、あたしは振り回されてる。ロランに、昔の記憶に。振り回されたくないのに。あの石碑が、悪いのよ。あれを見るまではどうにか蓋をできていたのに。そして、とどめの原因はあれ。あたしを過去に嫌でも結びつける原因は―――あんただ、ばかトイラン。あたしを結びつけやがって。結びつけたうえに、あたしをここまで怒らせたあんたが悪い。



 まぁ、とにかく。

「な、なんだよ!」

と、トイランは後ずさりしながら、あたしを睨んでるんだけどね。ふふふ、怖くないわよ?そんな顔しても無駄よ?

「まだわかんないー?」

 あたしはにたぁりと鼻で笑ってやった。トイランがさらにしかめっ面になった。

 ここは、宿舎の裏の庭。ちょうど、人の背丈くらいの木が何本か集まってる木立があってね?そこ、実は宿舎からは死角になっててね?

―――ちょうどいいのよ、他の人の目を気にせずに相手をするのにねぇえ!

 何をするって?決まってるでしょう。

「俺に何するつもりだ!」

と、わめいてトイランはじりじり下がり、木と衝突した。態度はでかいけど、焦ってるのまるわかりよ〜?

「説教よ」

―――まず、その坊っちゃんな態度を。他にも、言わずもがな。

「なんで俺が!」

「なんで、って?」

―――あら、さっそく自分が何にもわかってないことを、自ら宣言したわね。言質、もーらい。

「あんた、あたしがこの間やさーしくいってあげたこと、もう忘れたのかしらね?」

―――さぁ、あんたはなんて返事をするか教えてちょうだい。

「お………おまえ、女の癖に、生意気だぞ!!」

と、トイランは顔を真っ赤にして叫んだ。……それを聞いたらふつふつと怒りがわいてきたわよ。逆に、思考は冷えていく。

「あんた」

 男尊女卑、それはあたし……エリザとしてのあたしがいっっちばん大嫌いな言葉。ついでにそんな考えをするヤツは輪をかけてだいっっ嫌い。

「この時代にそんなこといってんの」

 あたしは、無意識にトイランとの距離をつめた。トイランは、きっとあたしを睨み付ける。でも、あたしの方が大きいから、怖くないわよ、御愁傷様。

 あたしは、トイランを見下ろした。どうしても、あたしの方がでかいから、こうなる。

「あんたそれでも、跡継ぎなの。男の方が優れてるって考えをするあんたが、おたなを預かるの?店ってのは、男女関係なく働く奉公のおかげで成り立つのよ。経営ってのは、彼らと二人三脚よ、一人ではなにもできない。人に何をしてもらうも当たり前なあんたが、人と協力できるの?すすんで力をあわせられるの?」

―――少し古い言葉だけど、わかるわよね?

 トイランは、今にも頭からもくもくと湯気を出して走り出しそう、蒸気機関車みたいにね。握りしめる手も赤いし、何より唇を噛み締めすぎて血が出てる。

 ……あぁ、手遅れだったのか。

「わからないなら、あんたはこのままお店を継げば必ず潰す。身代はあんたで終わる」

 200年の時間は長かった。働かざる者、食うべからず。それもわからないやつが、人と協力をすることもできないやつが、跡継ぎなんて。

―――こんなヤツに怒ってるのが、バカらしくなってきた。

 それでも、あたしは言葉を続ける。

「あたしのいってること、わからない?働かざる者、食うべからずっていったわよね」

―――社会に出て働く者が覚える基本中の基本。

「もし、お店がなくなったらって考えたことない?そしたら、誰があなたを食べさせてくれるの?答えは誰もしてくれない。頼りになるのは自分だけ」

―――なんて、甘ったれ。なんて、お馬鹿。

 あたしは、だんだんバカらしくなってきた。さっきよりもさらに、バカらしくなってきた。あたし、こんなヤツに怒ってたの?

 あたしは、すごく体がだるくなるのを感じてたから、反応が遅くなってた。

「この――っ!」

―――だから、言い過ぎたことに気付くのも遅かったし、トイランの拳があたしのみぞおちに向かっているのに、逃げれなかった。

「待て!」

―――だから、第三者にも気付いてなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ