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第一幕〜あたしはここにいるわよ!




『誓うよ、僕には君だけだ。許嫁なんていらない。君だけいてくれたらいい。だから……』

『ロラン……っ!!』


 ロランは、確かにそういった。


 でも。今は思う。


―――あたしたちは、なんであんな恋をしてしまったのだろう。


―――なんで、あんな結末を迎えてしまったのだろう。


―――なんで、恋に酔って若い命をたってしまったのだろう。


 死んでテルザになった今は、そう思う。でも、あたしにはロランだけだった。

 だから、彼もそうだと思ってた。新しい生を受けてもそう信じてた、どこかで。あたりまえのように。



「…………」

 あたしは、ショックのあまり、うずくまったまま石碑の前から動けなかった。だって、だって。だって、ねぇ?!

―――ロランが……あたしの、来世を誓って命を犠牲にしてまで愛した相手がさ?

「…………」

 生き残った?これもショックだよ。まぁ、うまくいかなったってことで百歩譲って許そう。あたしは死んじゃったけどね?

 同じ墓――どうやらこの石碑、あたしの死体が埋まってるらしい――に入りたくて入った?まぁ、いいよ許せるよ、まだ。死んだあたしを忘れてなかったってことでしょ。

 でも、ねぇ。でも、ねぇ?!

「……他の女とピーしてピーして、子供まで作ったのは許せない……」

―――ロラン。あんた、あたしだけっていったよね。あたしだけっていったよねぇえ!

 腹が立った。手にすごく力が入った、入りましたとも?ぎぎぎ、って地面を指でえぐっちゃうくらいに。両手だから、結果十本の指あとがついたけど。手、泥だらけだけど。気にしない、気にしない。

「…………」

―――ロランの、アホ。ロランの、バカ。あたしだけっていったのに。

「バカみたい……」

 ほんと、今さらだけど。あんなやつのためにいのちをかけたのが、バカみたいじゃないのよ、ねぇ?

 あたしだけ死んじゃって、あいつ生き残ってピーしてピーして。後を追ってくれてもよかったじゃないの?追わなくていいけど、そう思ってしまうのよ、あたしが死んでるのに、他の女と幸せになりやがって。

「バカみたい……」

 あたしはふらふらと立ち上がった。もうすぐ、自由時間が終わって点呼が始まる。あたし、エリザんときは不真面目な親不孝しちゃってたんだけど、いまは真面目なテルザちゃんで通ってんのよ、これでも?なんか文句ある?ん、ないわよねぇ?

 まぁ、だからレポート提出のネタ集めもひとりで動いてもセンコウから文句でないわけよ。センコウって古いって?しゃーないじゃない、エリザ+テルザ=三十五年目突入してんだから、言葉遣いが少し古くてもねぇ。間に二百年あっても+二百歳にはならないからね、ここ重要だから!!

 あたしは悲恋碑を背に向けて歩き出した。これ以上いたら、昔の記憶に振り回されるし。振り回されんのは“今度こそ楽しむテルザ人生計画”が台無しになる原因になるからねぇ?

 集合場所である入り口まであと少し、ってとこであたしは声をかけられた。

「あー、いたいたフランさーん!」

 賑やかに、にこにこ笑顔を振り撒きながら、手をフリフリこちらへ近寄ってきたのはテッサ・グレンベルグ。ぴょんぴょん揺れる、縄のような赤毛のポニーテールが特徴のクラスメイト。いっつも、ハイテンションに愛想を振り撒いてる。疲れないのかしらねぇ?

「グレンベルグさん、どうしたの?」

 あたしも、負けずとばかり笑顔を惜しまずに全面に出した。エリザんときはロランの前だけだったから友達いなかったんだけど、いまは友達が欲しいから惜しまないわよ!……ほんとエリザ人生損したわね。何してもロラン、ロランばっかりだったから。

「あのねあのね?」

と、可愛らしくグレンベルグは首をかしげる。他の若い女子はこれを見て媚びてるとかいってるけどさ、本当に媚びてるのは男の前だけで媚びんのよ、それとわからないようにさりげなく、ね?こんなわかりやすい媚び方はしないわよ。あんたらに比べて、この子はまだ素直で可愛いげがあるっての!

「どうしたの?」

 あたしはにっこり微笑んで先を促す。この子を見てると、なつっこい家畜のこどもを思い出す。エリザんとき、飼ってたのよ、牛。撫でて撫でって鼻っ面押し付けてきたハナ子を思い出すわ。

「えっとね、出るの!」

と、嬉しそうにハナ子じゃなかったグレンベルグがいった。ほめてほめてと尻尾ふってるワンコみたいじゃないのよ。

「何が出るの?」

 あたしはにっこり以下略。そして先に続く言葉を待つ。あぁ、ほんと犬みたい。何を教えてくれるんだろうか。

「出るの――エリザの幽霊が!」

 にこにこと、グレンベルグがそういった。あたしは、自分の笑顔が固まってぴしってひびが入った音を耳にしたような気がした。ねぇ、いまなんていったの。

「……ロランじゃなくて?」

 驚いたあたしは、ひきつりながらもどうにか一言絞り出した。ひきつってもいいわよね、いいわよね!

―――だって、あたし(エリザ)の幽霊がでたって?あたしはここにいるわよぉおっ!!

「うん、心中した岸の方にでるんだって。岸から二人で入水したとこ」

―――おい、まて。

「……岸から入水?」

 メーリア湖畔公園にあるメーリア湖名物“エリザとロランの悲恋碑”は、まさしくあたしが心中でボチャンした崖っぷちに立てられてた。場所は正確だった。あそこのあたりだけ、高くなってせりあがって丘みたいな崖っぷちになってんのよ。二百年たってもあの場所は変わらなかった。

 だから、決して岸でないし入水でない。飛び込んだのよ、湖に。湖に身を投げたの、投身よ投身。死因は水死じゃないのよ!

「違うの?だって、トイラン君が見たって」

―――目撃者がいるの?!

 この瞬間、あたしの標的決定したのはいうまでもないと思うのよ。


次回は来週中に。

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