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第二十幕〜どうしろっていうのよ



 あたしは、自室で横になってた。レースのカーテン境から夕陽が差し込む。晩御飯の時間が近い。うちにはお貴族サマと違って料理人なんて常駐してないし、母さんも死んでいないから、父さんと弟と自分の分をあたしが準備しなきゃだけど。今のあたしは、絶賛お悩み中。何をって? ロランの件よ。

「どうしろっていうのよ」

 神官長に会って、ロランと再会して、言葉を交わして――あれから三日がたつんだけど、いまだにあたしの頭はちゃんと動かない。ぐるぐると感情が目まぐるしく動いて、ひとつに定まっちゃくれないのよ。

「どうしろっていうのよ」

 会いたい、でも会いたくないという相反する感情。本当にあたしを裏切っていたのか、裏切っていなかったのかという疑問。あたしはもう一度信じたいけど、その疑問が大きな不安となってあたしを押し潰す。


『裏切ってない。俺は――僕は、すぐに処刑されたんだ』


 ロランに会ったのは夢じゃなかった。あの場所、あたし達が命を投げ出したあの場所で、ロランはあたしの抱く疑念を払おうとしていた。石碑に書かれた事実は偽りだといった。百年前の自称子孫が捏造したって。でも、処刑されたならなぜ知ってるの。なぜ捏造したっていえるの。捏造したからいえるんじゃないの、隠したからいえるんじゃないの?


『あの石碑を見たのかい?あれは、百年ほど前のシーリーが作った偽りの碑だ。確かにあそこに君と僕の体は眠るけれど、あとから据えられた碑の文章はデタラメにもいいところだよ』


 本当に?


『僕は、君を裏切っていない、一度たりとも』


 本当に?

 あたしは、誰を信じたらいいの?

 もう一度、あなたを信じてもいいの――ねぇ、ロラン。

 あたしはあなたを信じたい。でも――信じていいの? ロランと別の人を選んで、“テルザ”としての人生を楽しんだ方が、あたしは傷つかないんじゃないの? あたしは――

「傷つきたく、ない」

 あたしは、あたしは――

――トン、トン

「……………」

 誰、よ……? 人がせっかく! 人がせっかく哀愁に浸って悩んでるっていうときにぶち壊すのはぁあ!? オーリー、オーリーなの? こんな雰囲気ぶち壊すのはあいつしか思い付かないっ! 晩御飯くらい多少遅れても我慢しなさいよ……!

 あたしは寝台から跳ね起きて、ずかずかとわざわざ音を立ててドアの前まで歩いた。わざわざ音を立てなくても、ふつふつとイライラが生じていたから必要なかったけどね。イライラしているあたしは荒々しくドアノブを開けて――

「オーリー!? 晩御飯くらい我慢しな――」

――さいよ、と続けようとして固まった。

「どう、も……です?」

「あー……何で」

 テッサがいるの、よ??「どうしたの」

 ドアの向こう側にはテッサがいた。テッサ・グレンベルグ、あたしのお友達。あれ、あたし今日会う約束あったっけ……てか、恥ずかしいとこ見られちゃった……わよね、これは完全に!! 顔から火が出るわ、穴があったら入りたいっ、切実に!

「どー……も、姉ちゃん」

「オーリー……」

 オーリーが申し訳なさそうな青い顔でテッサの斜め後方にいた。あちゃーて顔してるけど、アンタ。お客様に何ノックさせてるのよ?!

「…………」

 あたしが無言で視線だけでオーリーに怒りを向ければ、

「………てへ?」

 オーリーはとぼけ(何で疑問形よ)て明後日の方向へ視線を泳がせた。後でお説教してあげるから覚悟しなさいよね?

「あの……ね」

 テッサが頭上にたくさんの疑問符を浮かべつつ、首を傾げていった話はといえば――

「テッサのお兄様が、王宮にいらっしゃるの?」

 話辛そうに、もたつきながらテッサが話したことは、早い話がテッサのお兄様とやらがあたしに会いたいらしい。何でも、テッサの家は代々王宮に一官吏として仕えてきた文官の一族らしい……といえば聞こえはいいけど、一般庶民の平官吏で、あくまでもここ何世代かで偶然官吏が続いてるだけだとか。でも、今世代になってから、初めて王子付き侍従が誕生したのだという。それがテッサのお兄様。

「で、何であたしに?」

 そもそもまだお兄様とは顔見知りになってないわよ。友人になったからには楽しい楽しい“お呼ばれ”でおうちにお邪魔して会うかもだけど。“お呼ばれ”、憧れなのよ。

「あのね……驚かないでね」

と、テッサは前置きをした。わたしも信じられないのだけど……と続けて、テッサは衝撃的爆弾発言をした。

「お兄ちゃんがお仕えする第2王子殿下が……“グレンベルグの妹の褐色の髪の友人に会いたい”って。わたし、……友人っていえるお友達テルちゃんだけだし。だから……テルちゃんかなって」

――でもテルちゃん(あたしよ。可愛い呼び名でしょ)王子さまと面識ないよね……と続けて、可愛らしい上目遣いであたしを見上げたんだけど。

「………あ」

――たしがと続けたんだけど、

「姉ちゃんが?!」

とオーリーの発言でかき消されちゃったわよ。……オーリー、驚くなとはいわないわ。空気、読め!!


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