第十九幕〜魂
「あの日、あなたは魂駆けをしたんですよ」
あたしは、言葉がでなかった。
神官長は“神の託宣”により、あの日のことを知らされたという。エリザであるあたしがロランへの気持ちを昂らせて、魂がからだから抜けて――信じられないけど――エリザの姿になって、あの石碑の前まで翔んだことを。
「そして、自称子孫のしでかしたことを罰するために、殿下はあの日あの場所へ向かわれたことも」
神官長は淡々とあの日の事実を語る。あたしはそれを聞いても、右から左へと流れていってしまうのを感じた。ふつふつと怒りがわいてきて、それどこじゃなくなってきたのよ……。
「神様って」
どこまで、あたしたちを?
「あたしたちは、神様の手のひらの上で遊ばれただけってのっっ?!」
――初めて石碑を見た日よりも、咆哮したくてたまらないわよ。叫びたい。理不尽よ、何でよ! これじゃまるで神様の盤上遊戯の駒じゃないのっっ!!
「でも」
神官長が、あたしの背をさすりながらあやすように話す。……あやされないわよ。
「神のなされることは、わたしたちには何もいえません。神がなされるのは、わたしたち人が思考し行動することと、かけはなれていますから」
――だから、神なんです。人智を越えた存在だから神なんです。
「――……なら、魂に刻まれた運命全うせよという託宣は、何だったんだ?」 沈黙を続けていたロラン――殿下、があたしを見た。切ない目で、あたしを。
「俺の運命は、今度こそエリザを幸せにすることだ。その為に強くなった」
殿下が、こちらを見続ける――熱い眼差しで。
「俺は自力で探せず、結局神が手を貸してくれたが……ようやく、会えた」
「……っ」
先の世と――ロランとは違う見目だけど、ロランがそこにいる。
ロランに抱き付きたい。ロランの側に行きたい。ロランを感じたい。でも、あの事実があたしを止める。
「でも――ロランは」
あたしを――――
「はい、時間切れ時間切れですよ! さぁさぁ、殿下は侍従とともに退散退散〜っ」
と神官長が指を鳴らした。ぱちん、と高い音がして――
「はぁああああっっ?!」
ちょ、ちょっと?! ロラン消えたんだけど?!! ロランの分のティーカップもケーキも消えたわよ!!
「さぁ、再会はまた後、後で」
「…………」
あたしの頭ん中、今すごく表現に困る感情が渦巻いてるわよ、すっごーく渦巻いてるわよ。これ、吐き出していいかしらねぇ。もうすぐ起きんのよね、オーリー達。なら、今しかないわよね!!
「据え膳食らわすんじゃないわよぉおおおおーーっっっ!!」




