第十八幕〜軽くていいの?
「ようやく見つけました」 神官長は深い笑みをこぼした。自信に満ちた笑みだ――こうなっていることがわかっていたというような。
そして、神官長は振り向いてさらに一言発言した。
「殿下、来られると思っていましたよ――さぁ、こちらへ殿下。エリザさんがこちらに」
あたしはつられて神官長の視線を追った。神官長の視線の先、あたしから見て左奥の壁に外開きの扉があった。今は開かれて、二人の若い男性が立ち竦んでいた。どちらも、驚愕に満ちた表情を浮かべている。特に手前の若い男性は、あたしは見覚えがあった。
深紅の髪、真っ青な澄みきった色の瞳―――空でもない、湖でもない青。まだ見たことのない海を思わせる深い色の瞳。あの夢の中で会ったロランが、そこにいた。夢じゃ、なかったの? それとも、これも夢?
「ロ、」
ロラン、といいかけてあたしの口は空回りする。滑舌が思い通りにならない。それがもどかしかった。あたしは、あたしはここにいるのに。ロランの目の前にいるのに、伝えられない。
「……エリザ?」
青年は、信じられないというように頭を振った。
「……は、……ザは――あの夜……」
ぶつぶつと何か口にしているけれど、距離が離れて聞こえなかった。
「殿下、こちらに」
神官長が、新たにセッティングした席を指す。あぁ、あの二人のためだったの? 神官長は、どこまでわかっているの――
「わたくしが使用した“眠りの神術”は後もう少ししか持ちません――しかし、お茶とケーキを楽しみながら会話を交わす時間はありますから」
ぼんやりする頭を必死に動かしながらあたしは現実を見ようとした。だけど、無理……かもしれない。いろんな感情が複雑に混ざりあって、きちんと考えがまとまらないのよ。
「さぁ、どこからお話ししましょうか」
――神官長は、どこまで知っているの?
「殿下は、戸惑いを感じておられますよね。こちらのエリザさんも、そう」
神官長は、やはりあたしが“エリザ”だと知っている。どうして?
「その戸惑いを解消するお話をさくっとしてしまいましょう」
「………」
さくっとって、そんなに軽くていいの?!!
「ほら、ようやくいつもの調子が戻りましたよ」
と神官長はクスクスとあたしを見て微笑むんだけど。ほんっとに、どこまで知ってるのよぉおっ?!
「さぁ、さくっと始めますね」
――神官長が、軽くていいの……?




