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幕間〜歯車は動き出す




 ファリウスは、王都に戻ってからというものの、ずっと塞ぎ混んでいた。正確には、メーレンランド地方から戻ってきてからだ。いつものような快活さや覇気がなく、どことなく追い詰められた雰囲気を纏っていた。

「ノイゼス」

 ファリウスは、鬼気迫る表情で侍従の名を呼ぶ。いつも彼に従う、忠義に厚い腹心の部下―――懐刀。今年18を迎えるファリウスの乳兄弟でもあり、父王に仕える文官グレンベルグの息子でもある。彼は一言で返答し、すぐさまに音もなく彼の側に控えた。

「ノイゼス、神官長の予定は」

 ファリウスは、仕上がった書類仕事をノイゼスに手渡しながら問う。

「本日は、王都主神殿所属弁護士長ゲイリー・ゲイルズと他数名の一般民の談話が設けられております。弁護士長が職務の傍ら教鞭をとる学院の生徒とお話をされるのだとか」

 ノイゼスも、書類に目を通しながら返答をした。眼鏡が下がるのか、時折くいっと指で押し上げていた。

「ほう、あの無駄色気か」

「はい、あの無駄色気です」

―――王都主神殿所属弁護士長、ゲイリー・ゲイルズ。彼が赴く裁判では、彼が振り撒く色気にあてられて、被告ならび原告、さらには聴衆から裁判官や検事までが惚けてしまうのだという。

 被告が惚けて口をわるという傾向が見られるのだが、必要以上に振り撒く色気により被告以外の者までが惚けてしまい、裁判が進まないという異色な弁護士である。

 優秀でなければ今ごろ左遷されていてもおかしくない人物である―――まぁ、無駄に色気を振り撒くせいで現職であるにも関わらず、現場から遠ざかっているわけなのだが。

「その無駄色気が生徒を、神官長に? 何の風の吹き回しだ」

 ゲイルズは、根っからの弁護士だ。ゆえに、余程の事がない限り仕事の“対象”に感情移入しない。感情移入すれば、公正な裁きが行われないというスタンスなのだ。

「神官長直々とのことです」

「あのおば――――いや、神官長が?」

 神官長リュファーナ・アーレイゼーレン。神官時代には、歴代の神官の中でも、神よりの“託宣”がよく降りるといわれていた実力者であった。また近年三十代という異例の若さと、初の“女性”神官長として教会内部の若きトップとなった神官長でもある。

 ファリウスの生まれた頃に立ち会った神官長は前代である。また、彼女はその当時前代の補佐として、ファリウスの生まれに立ち会った経歴を持つ。ということは、ファリウスの持つ宿命とやらも知っているのである。

「あのおば――ごほん、神官長がどういったお考えがあってそうなされたのかはわかりません。ですが、神が深く関わっているのではないかと」

「……神が……」

 ファリウスの中で、神からの託宣が思い出された。

―――“息子の魂に刻まれた運命を全うさせよ”それが神より当時神官だった神官長を通じて王へ下った託宣。

 ファリウスの、運命、それは……エリザを迎えにいくこと。

 しかし、いざ蓋を開けてみればどうだった?

『なんであたしを裏切ったの!』

 石碑を見て誤解に誤解しまくったエリザの魂がいた。エリザは、生身ではなかった。しかも、誤解がとけたかわからないまま空気中に溶けるように姿を消した。

「………ノイゼス、頼みがある」

「何なりと」

「………神官長のもとへ行く。問いただせねば、気がすまない」

―――神の託宣に、疑問を感じてはいけないのだろう。託宣は神の言葉なのだから。

 しかし、ファリウスは信じられなかった。


今まで信じてきたことが、目の前で覆されたのだから。





 この時、ファリウスは勘違いをした。どこまでも勘違いだった。

「くすくすくす」

 神は、楽しそうに笑う。もがき続け、力が抜けた歯車を愛おしそうに撫で――解放した。



 さぁ、時の歯車たちはぐるぐると回り、交差するべく動き、走り、回る。

 しかしそれはすべて――神の手のひらの上の話。

 歯車の行き着く先は、神しか知らない。

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