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第十五幕〜あたしと、神官長と―前編



 ゲイルズ教諭に導かれ、オーリーの頬をつねりながら、あたしたちがたどり着いたのは白い一室だった。天井は淡いベージュ、壁は稀少な白木製を一面に使い、床には暖かな柔らかいオフホワイトの毛織り絨毯が敷かれてい……ちょっと、この絨毯、神話のワンシーンを織り込んでるじゃないのよ……白の濃淡で見事に………!!

(壁も……これだけの白木でどんだけの人の一回分の食事が出来ると思ってんのよ! 全国民以上に賄えるんじゃないの?!)

 エリザだったあたしは、生前(?)生産者の組合によく顔を出していた。多岐にわたる様々な生産者の会合によく出席していたあたしは、野菜とか家畜とか林業とか羊毛とか、本当に様々な生産者と話をして来たのよ。今年の相場はどうだとか、今はあの地方で何が流行り出したとか、よその国でこの間はあれが売れ出したとか、次はあっちの何が売れ出すだろうとか――新たな市場のニーズをよく話し合っていたわけ。その中には、今は高級物資と化している白木もあったのよ。見た目は普通の木なのに、伐採してある程度の期間塩水につけてから、天日にさらして数日待ってから皮を剥げば――あら不思議、純白で大理石のような光沢を放つ木目が顔を出すって寸法。すごく労力がかかるうえに、一度にとれる分が限られているし、さらに木がなかなか成長しない……ゆえに、開発された当時はまだまだ採算性の良くないモノだったのよ。

 まぁテルザになってから、あの白木が成功したことには、当時を知る者としてなんだか嬉しくなったんだけど………この使い方はかなり贅沢よ?!

(どれだけ、金が投資されてんの)

 白木は、時を経るにつれて黄ばんでいく。空気中の水分にさらされるとからしいわ。それをもとの純白にするには、全面を一定濃度の塩水で何回も拭かなければならない。しかも、決まった時間内に決まった圧力で拭かないと、ムラが出来るという実に管理がしづらい面もあるのよね。でも、それさえ目をつむれば、通気性に優れているし、音や空気中の汚れも吸いとってしまう優等生なのよ、だから部屋内にはホコリが溜まらずに掃除もしなくてよし。……維持費はバカになんないけどね、一種のステータスにはなるわ。白木の壁材を常に綺麗な状態で保つ金があるんだって。

―――そんな白木がふんだんに壁に使われ、かなり腕の立つ人が苦労して時間かけて織り上げたんだなと、見ただけでわかる細かやかな複雑な刺繍の絨毯。天井はよくわからないけど……たぶん、水晶とか白っぽい輝石(それ自体が淡い光を放つ宝石。別名蛍光石)をこれでもかってくらい大量に砕いて粉状にしたのを使用して、塗料に混ぜて塗り込んだんでしょうよ。天井から吊るす灯りがなくても十分昼間みたいにあかるいんだもの! ここ、室内よ?!

(にしても)

 あたしがこの部屋にかかってる金額を算出している間、テッサとオーリーの二人はあんぐりと口を開けて惚けていた。ゲイルズ教諭は、その二人が現実に戻るのを、にこにこしながら穏やかに見守っていた。……ちょっと待っててよ、教諭。

「オーリーぃぃい?」

 耳を引っ張って、名を呼び一言。

「テッサに間抜け面さらしてるわよ、いいの」

と囁いた途端、オーリーはかっと目を見開いて大袈裟に背筋をただした。定規背中に入ってるの? ってくらい。

「テッサ、テッサ」

 テッサにはもちろん、普通に肩を叩いて気づかせたわよ。弟みたいに無理はさせないわよ、オトモダチだもの。

「はっ!」

 テッサは、反射的に口を手で拭い、しばらく呆然としていた………おーい、現実に戻ってきなさい!

(―――にしてもこの無駄遣い部屋、使用目的は何?)

 あたしたちを案内したってことは、ゲイルズ教諭はあたしたちを神官長に会わせてくれるのよね?

「………」

 ちら、とゲイルズ教諭を見るけど、彼は微笑みを崩さない。さぁ、二人は現実に帰還したわよ?……テッサは半分だけど。

「……………」

 あたしがじっと見つめていると、ゲイルズ教諭は微笑みを浮かべたまま、壁の方へと歩き出した。そして、あたしたちから見て左奥の角の壁を叩いて――ノック?――、しばらく立っていた。なんだか、待っているみたいなのよ……扉が開くのを。でも、壁よね?

「姉ちゃん」

 ぼそっと、オーリーがあたしに囁いた。何よ、どうしたの?

「良く見て、壁」

「うん?」

 壁を見ろとな?

「良く見ないとわかんないけど、あそこ……先生が立ってるとこ、たぶん扉だよ」

「………は?」

 マジ? とあたしがよく目を凝らそうとしたら、すっと音の無い動作で引き戸が開かれた……マジで扉(引き戸)だったの!?

(白木でそんな細工するって、どれだけ金かけたの………)

 あたしは、わかりにくい引き戸を製作する費用と(絶対かかってるわよお金が! ぱっと見、壁と区別がつかないもの)白木の費用を計算して―――背筋が寒くなった。





 背筋が寒いまま、ゲイルズ教諭に手招きをされて扉をくぐれば、そこはさらに莫大な資金がかかった部屋―――とかではなく(これ以上見たら心臓に悪いわ!)、極端に質素な小部屋だった。暖かみのある木の床、木の壁、木の天井。それは、エリザん時のあたしの自室と大差ない。つまり、田舎の家の一室(しかも二百年前水準)と大差ないのよ。

「ようこそ、いらっしゃいましたね」

と、人好きのする柔らかい笑みを浮かべるのは……おそらく神官長だと思う。いかにも好好爺めいた人物を想像していたあたしは面食らった。

「さぁ、おかけになって」

 横に長い木のダイニングテーブルの前におかれた4組の木の椅子に着席を促す神官長は、あたしとオーリーやテッサの年代の子供がいてもおかしくはない三十代後半の女性だった。

 まさか、神官長が自らお茶を入れて配膳までして、にこにこと今から世間話でもするような和やかな女性だとは、誰も思いもしないと思うのよ。

「「「……………」」」

 だから、今度こそあたしも呆然てしたからって……責めないでよね!

※壁の白木と天井の輝石に関しましては完全にオリジナルです。なので、現実に同じ名前があっても、この物語とまったく関係ありませんです。ご了承ください。

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