第十四幕〜オーリーのバカ!
――あたし、テルザ・フラン。エリザでテルザでもあるあたしは今、真っ青な顔色で絶賛困惑中。………だって、ねぇ………。
「あは、あははは………」
「姉ちゃん、笑い事じゃないよむぐ」
――――あんたは黙ってなさい。
笑っても何にも起きないけど、笑うしかないわこの現状っ!!
「そういえば、神官長の部屋、知らなかったなぁ、なんて………」
と、テッサ。
「…………」
そう、あたしたちは今、目的地への道順が全くもって、わかりません!!
――そりゃ、全部テッサに頼りきっていたあたしが悪かったわよ。テッサが何度もお祈りやらボランティアでここへ来ているからって、あたしは自然とテッサが神官長の部屋も知っているって思ってしまってたわけ。先入観って怖いわよね!
………、信仰心薄れてるあたしは、信仰心熱いとそういうのも知っているって思い込んだのよ。ええ、信仰心薄いからね、そう思い込んだのよ!
「で、どうすんの姉ちゃん」
オーリー、姉ちゃんに対して憐れな目を向けないで。姉ちゃんそんな子に育てたつもりはないわよ。
「………どうしようも、」
―――ないわよ、と続けようとしたあたしは、そのまま固まってしまった。口をポカンと開けて、肩越しに振り返ってオーリーを見た状態の体勢で。実に間抜け面だけど、仕方ないと思うのよ………?
「おやぁ、フランさん、グレンベルグさん、フランくん」
「せ、先生……」
テッサが息を飲むのがわかった。あたしだって、固まってしまわなかったらそうしたいわよ!
だって――――あたしの視線の先、つまりオーリーの後ろには美中年がいたんだから。シブメン(古い?)よ、渋いのよ、さりげなく哀愁漂う色気の美中年……ゲイルズ教諭が。
ゲイルズ教諭は、爽やかに微笑んでこちらに近づいてきた。前から思ってたんだけど、所作ひとつひとつに、色気が無駄ににじみ出てて、生徒に対してそんなに無駄に色気振り向かなくていいんじゃないの………。
(固まってる場合じゃないのよ!)
――――そう、無駄な色気にのまれてる場合じゃないのよ!!
ゲイルズ教諭は、無駄色気ってあだ名で通ってるのよ、生徒の間じゃ。
(あぁ、脱線して現実から逃避してる場合じゃないのよ………!)
恐るべし、無駄色気………。
「…………」
あたしが二人を見ると――――二人とも、ぼうっとしていた。
ちょっと、二人とも何色気にのまれてんのぉお! 特にオーリー、あんたそっちの気あるんじゃないでしょうね………? 姉ちゃん、お嫁さんに男連れてこられたら泣くわよ………。
「神官長に会いに来たのかな?」
ゆったりと話すゲイルズ教諭のその言葉で、あたしは一気に現実に戻ってきた。………いま、何て?
「トイランくんのことで気になったんでしょう?」
――――どこまでご存じなのよっっ!!
「……にしても、ふむ……? 何故こちらに? ……フランくんに言伝てを頼んだんですがね?」
――――へ?
「トイランくんと神官長の件で、お迎えにあがると」
「………え」
――――ずいぶんと間抜けな返答でも仕方ないと思うのよ。
「神官長より直々に、お話がありましてね、その件は伏せてましたがね。一応、わたしがお伺いするとは伝えましたよ」
ねえ? と、ゲイルズ教諭がオーリーを見た。
「………オーリーぃ?」
ふふふ、あなた、姉ちゃんに何を伝え損なったのかしら。テッサが来る前にいいかけてたあれかしら?
「ひっ」
オーリーをジト見してやったら、一気に現実に戻ってきたようね?
「………オーリーぃ?」
何、実の姉の顔見てひきつっているのかしらぁ? 失礼しちゃうわよねぇ?
「お姉ちゃんに、何かいいそびれてなぁいぃ………?」
うふふ?
「ね、ねっねえち」
「コンのバカモンがぁああ!!」
――――だったら、こんなことしなくてよかったんじゃあないのぉお!!




