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第十三幕〜真意を聞かせなさいよね!




 “王都主神殿”―――その場所は、国内に散らばる教会の総本山であり、神官長といったお偉方がわんさかいる場所。

 あれから退院して、“特別な突発的事情”により課題の提出を保留となったあたしとグレンベルグ(やっぱ、あたしと同じ課題だった)は今その神殿の入り口に立っているんだけど。

「…………」

「……………………ねぇ」

 “特別な突発的事情”―――トイランやらトイランやらトイランやらが関わってるあれよ、あたしを訴えるとかいったヤツ。……一応、体調崩したのも含まれてるけどね?

 まぁ、とにかく。とにかくよ!

 目撃者であり、付き添ってくれた我が友人(一方的?)グレンベルグがあたしと一緒なのはいわずもがなよね、そうよねぇ?

 なぁ、のぉ、にぃぃっっっ!!!

「何であんたがいるのよオーリー!」

 バカと叫ばなかったことは誉めてほしいわ。一応、神殿の前よ、門前よ?

 …………いっぱーい、人がいるのよ、人が。観光客とか参拝客とか客とか客とか!! なんで客ばっか!!

「だってつきそいでででででっでぇえ、ていただだだだ」

「あーら何をいおうとしたのかしらーぁあ? このオクチはあああ??!」

 うふふふふ、ほんっとにダメなオクチはダメよね!! いってはいけないことを口走っちゃったりねぇ?

「あたしに付き添いはいらないわよ、ほら行こう、テッサ」

「あ、うん!」

 あたしたちを見て放心していたグレンベルグ―――テッサを促して建物内へと急ぐ。無駄な時間を食ったわ。弟?―――もちろん放置よ!

 テッサは時折肩越しにちらちらと振り返りながら、赤く腫れた頬をさすりながら追い付いてくる我が弟を確認している。すんごい心配してくれるのはありがたいんだけど、あのアホが勘違いするからやめてあげてね。

 ようやく追い付いてきたオーリーを後ろに、もちろんテッサが先頭に進む。テッサ――あぁ、見舞い中に仲良くなったのよ! 念願の友達獲得よ! 楽しみ人生計画第も前進よね――はあたしと違ってすごく信仰熱心なのよ、だから何度もここへ来ているわけ。毎週末には神官やシスターとボランティアをしているそうよ?

「おぉー……」

 神殿の内部は、まず手前に“主拝殿”がある。ここは一般的に開放されていて、テッサが祈りを捧げるのはここ。神前式の結婚式や神誓裁判はまた別の場所らしいのよ………他の地方の教会ならそこですべてひっくるめて行うんだけど(これはエリザんときから変わらないらしいわ)。

「オーリーぃい?」

 肩越しに、弟をみやる。なに呆けた言葉を漏らしてんの。いや、ね? 漏らすなとはいわないわよ?

 ……声が大きいのよ。しかもここ、反響するのよ。天井高いからね!!

「…………ね、むぐ」

「お、く、ち、を!」

 何かをいいかけたオーリーの口を、あたしは振り返り様に片手で抑えた。何を、いおうとしたのかしらぁ?

「と、じ、な、さ、いぃ?」

 声を控えめに、けど語句はひとつひとつ区切ることで強調。

「ねぇ………?」

 テッサに背を向けてるからちょうどよかったわ。こんな悪人面、せっかくできたオトモダチ(一方的?)にヒビが入るものねぇ。

「っ」

 あら、オーリー?

 実のお姉ちゃんの顔を見て悲鳴をあげかけるなんてひどいわねぇ。

「静かになさいね」

―――公共(?)の場で騒ぐことなかれ、よ? 我が弟くん? 特にこんな静粛な雰囲気の場はね。空気を読みなさい、空気を!






 まぁ、こうしてあたしたちが主神殿にいる理由はただひとつ。神官長に会うこと。

 先日―――あの日のことを思い出して、あたしはため息をつきたくなった。

 あの日、病院にて見舞いに来てくれたテッサの衝撃な爆弾投下発言に、あたしたち姉弟は驚きを隠せなかったわよ………。

『神官長が、トイランと?』

『うん』

 神官長、の言葉がこの国で指す意味はひとつ。国中の神官並びシスターを束ねる、実質神殿のトップということ。神殿のトップは表向きはそりゃ王族の長―――つまるところ国王よ。でも、それは表向き。実際に運営、管理しているのは神官長。だから、実際に神殿業界のドンよね、簡潔にいえば(簡潔すぎるわね)。

 そんなお偉方が、何で一般の………いくら商家の跡取りとはいえ、一般国民に直接言葉をかけたあげく、一般国民の裁判を踏みとどまるように“訴えた人”を説得するのか、それがわからない。

『確か…………』

 テッサが思い出すように顎に指を当て、首をかしげて天井を見た。

『ゲイルズ先生によるとー……』

 トイランが神官長に説得をされて訴えを退けた、そのことをテッサはゲイルズ教諭から直接聞かされたらしい。何でテッサかといえば、仕事が忙しい教諭方は病院まで行けないから、見舞いにいくテッサに伝言を頼んだということらしい。

 そして、ゲイルズ教諭は学院にて教鞭をとるかたわら、王都の主神殿で行われる神誓裁判で、弁護士の長を勤めている現役。

 ならば、神官長に会うこともあるのだろう。会うということは、話す機会もある―――例えば、かなり“無理な”訴えの相談話とかを。

 そう、それこそトイランの無茶苦茶な訴えとかを。

―――あくまで、それはあたしの推測。 だから――ゲイルズ教諭に聞けばよかったんだけど忙しかったから――あたしは、神官長にダメもとで会いにいくことにした。



 はい、回想終了!

 神官長にアポイントメント?

 ないわよ、もちろん。とれるわけがないわよ。相手が誰だと思うのよ。

 学院に在籍する生徒としては、ダメなんだろうけどね?

そりゃあ、学院では社会に出たとき“先方に会う場合はこちらからアポイントメントをとる”と教わったけど。―――正攻法ですべてが解決する訳じゃあないのよ。それはエリザ+テルザなあたしの特殊な経験則から判断したのよ………時には臨機応変にってね!




「姉ちゃん………マジで?」 オーリーが不安げにこちらを見る。テッサも同じく―――あんたたち、いつのまにそんなに仲良くなったのよ。息ぴったしじゃあないの。

「オオマジよっ!」

 あたしは、小声で返す。あんたも小声でしゃべりなさいよ………、マジで。

 ため息をつきたくなったあたしはどうにか耐えて、改めて前を向いた。

 今あたしたちがいるのは、“一般立ち入り許可区域”で、“一般立ち入り禁止区域”の手前。ようするに、ここしか入ってはいけない、一般に開放されていてる場所と、ここから先は入ってはならないという場所の境目にいる。

 今はちょうど、こちらに都合よく周囲に人はいない。何故なら、一日に何度か行われる厳かな“お祈り”の時間だから。皆さんそちらに行ってんのよ。とくに今のお昼時の―――太陽がお空の一番てっぺんに来る時間のお祈りは、他のお祈りより重要視されて、長い。

 お祈りは先程開始された。長い、空白の時間。

「―――いくわよ」

 さぁ、聞かせてちょうだい、あなたの真意を―――神官長。

 あたしは変な運命かなんかで、もう一度“先の世のまま、新たな人生を”生きることになった変わり種。

 だから、他の人たちより信仰心薄目だからね、覚悟してよね!

エリザ+テルザなので、信仰心薄目です。罰当たりです、はい。

続きは来週に。

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