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幕間〜ロランの居場所

ついに、彼が出ます。




 大陸西部に位置するノイシュアボルト王国には、北部に避暑地として名の知られたメーリア湖を擁するメーレンランド地方がある。昔より風光明媚で夏は涼しい山地であり、夏には多くの避暑を目的とした客が多いのだが、ここ十数年で“悲恋”を題材にした観光を売りとしていた。

―――それは、およそ200年前、当時の領主の息子ロラン・シーリーと地元農家の娘エリザが、身分違いの恋から心中未遂をした悲恋話だ。エリザは命を失ったが、ロランは死にきれず、終生エリザの供養をして生きたという話。悔いを残したエリザは夜な夜な現れたり、祈れば同じように恋に苦しむ娘に力を貸してくれるという―――縁結びの話が出ており、それがここ十数年で新たに観光収入源となっているらしい。

「だが」

―――そのように書かれた報告書を読んで、ファリウスは報告書を机へ叩きつけた。

「違う、違う………なんだこのでたらめは?」

 ノイシュアボルトの第2王子でもある彼は、その赤く輝く頭髪をくしゃくしゃとかきむしって、報告書をもう一度見た。信のおける腹心の部下からの報告書だ。しかし、内容がとてつもなく信じ難かった。

「ノイゼス、ここに記載されていることは本当なんだな?」

 ファリウスが側に控えるノイゼスに声をかければ、やはり是と返ってくる。

「エリザが縁結びの神みたいと化し、墓はあばかれて分骨され記念碑みたいになっていると。しかも観光収入源と化していると……やらせ商法もいいところだ」 ファリウスは、ため息をついて片手で顔を覆ってさらにため息をついた。

―――ファリウスは、これが“偽りのお話”をもとにしたやらせ商法だと知っていた。もっといえば、脚色される前の話も知っていた。

「ノイゼス、準備はできているな」

 側に控えるノイゼスが是と答える。

「俺は、この地で行われる詐欺商法をすべて終わらせる」

―――ファリウスは、シーリー一族が行う商売を詐欺と言い切った。

「昔の俺の子孫とはいえ、許せん悪行だ」

 彼はそういって、前を向いた………そこには壁にかけられた、一枚の絵。赤毛のくるくるとした巻き毛とよく似た色の瞳が印象的な色白の少女が、満面の笑みを浮かべている大きな油絵だった。

「―――エリザ、君の汚名は俺が灌ぐ」

―――ファリウス・ロラン・ノイシュアボルト。彼は生まれたときに、立ち会った神官長より、この御子は前の世の記憶を持つ、と判断された。前の世の記憶を持つ定めから、と神官により前の世の名前を洗礼名とするべしと王に進言した。王子は、やはり長じて言葉を話せるようになるや、“自分はロランだ”と名乗りをあげた。そして、生まれてより洗礼名のなかった第2王子の洗礼名はロランとなった。王子は、前の世の人格を持ったまま生まれ、故に聡く故に賢しかった。

 王子が生まれた頃、困惑した王により神に問うた神官に託宣がくだった。父たる王は、前例のない事柄に戸惑いながらも、“息子の魂に刻まれた運命を全うさせよ”との神からの託宣に従い、息子に前の世の運命をを果たすようにといいながら育てた。王子もそうすると答えた。

―――ファリウスの、運命、それは……エリザを迎えにいくこと。




―――エリザであるテルザが待っていたロランは、きちんと探していたのだ。神より、相手も生まれ変わり、腕に結んだハンカチのアザを持っていると。






―――当人が知りよしもない場所で、歯車はきちんとまわるべくしてまわっていたのである。




―――ロランであるファリウスが動き出したのは、エリザであるテルザがナタリーを訪問する前日。そして、エリザであるテルザがナタリーを訪問した日の夕方、湖畔近くの教会に“秘密裏に”ファリウスが滞在するために到着した。……それは奇しくも、トイランの目撃した岸を通り、石碑へと続く道がすぐにある場所だった。




―――こうして、運命が動き出す。


ようやく出ました。彼と、前話のナタリーと、そしてエリザがどうなるか

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