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舞台裏側〜第七幕

裏側という名の別視点。

あの人視点なので、少し、不快に思われるかもしれません。

 ナタリー・シーリーは、ウィルクス・シーリーの直系の孫娘だ。近くの有力な商家の一族から婿をとり、何名もいるウィルクスの跡継ぎ候補の中でも群を抜いている自覚はあるし、自分の人生はなんて順風満帆なんだと思ってやまない。

 しかし、昨日変な学生がナタリーを訪ねて記念館へやってきた。ナタリーの母校の生徒で、こちらへ実地研修で来ており、課題についてナタリーに聞きたいことがあるのだという。名を確か、………なんとかフランと名乗っていた。フランという姓も、一回聞いてすぐに忘れたフルネームでさえ、全く聞いたことのないものだから、奨学金制度あたりで入学を果たした“一般人”だろう。ナタリーみたいに血統の良い良家の子女ではない。ナタリーみたいに血統の良い良家の子女ではない。そう頭の中で計算し、答えを弾き出したとたん、目の前の礼儀正しい女子生徒に対して“ちゃんとした”態度をとらなくていいじゃないかと結論づけた。自分のように選ばれた者じゃない、ただの平民。

―――だから、生意気な小娘には高圧的に接した。そうすることが、ナタリーにとっての“当たり前”であったし、どうせ最低限の仮面だけかぶって接するだけの価値しかないからそれで良いと判断したからだ。媚びへつらう必要なんかないから、あとの態度は適当のつもりだった。

 なのに。

『―――エリザは、介抱して出会ってません』

 生意気な小娘が、ナタリーに口答えをする。シーリーの家の考えを否定する。シーリーに伝わる、“シーリーに都合よく解された”表向きの悲恋話を否定し、“本当の”悲恋話を知っているかのように。“偽り”を“真実”とするナタリーたちシーリーを批判するかのように。

 この時点では、まだナタリーは“生意気な小娘”のいうことだからと、耳に入っても右から左へと聞き流していた。

『エリザは、こことは違う場所でロランと出会ったそうです。けして介抱して云々ではない出会い方で』

―――しかし、小娘はそう続けたのだ。内心で目をみはったナタリーを尻目に、小娘の発言は続いていく。

『それに、この場所はロランがエリザの供養のために建てたって聞きました』

―――何がいいたいのだと、ナタリーはひたと小娘を見据えた。小娘、何のつもりだと。“嘘”ばかり口にするんじゃないと。ナタリーは表情を崩さずに、小娘を見据え続ける。

『本当にロランがエリザのために建てるのなら、こんな思い出にまったく関係ない場所にたてないんじゃないですか。それに、二人を結んだあの布も、こんな扱い方をしない―――金儲けのために勝手に創作したんでしょうけど』

―――小娘が、ついに喧嘩を売ってきたと、ナタリーは思った。勝てない相手に、勝てると思って挑んでくる、自分の持つ力量もわきまえていないバカ丸出しな態度……ナタリーにはそう見えた。だから、こう返した。

『あなたは、あたくしに文句をいいに来たの?』

 あなたのいってることは何の意味があるのだと、言外に匂わして。

 すると、小娘は屈せずに前を見て立ち向かってきた。しかも、明らかに―――怒りをのせて。

『あたしは、解釈が違う“悲恋物語”を知りに来ただけです。それを伺いたいと来ただけです。でも』

 なぜか、その怒りを感じた瞬間、ナタリーは“恐れ”を感じた。瞬きするほんの短い間だけだが、たしかにナタリーを“怖がらせた”。そのことを、ナタリーは認めたくはなかった。何で、自分がこんな生意気な娘を恐れなくてはいけないのだ、と。

『あんたらがしてることは、エリザ(あたし)に対する冒涜よ。死んでるひと(あたし)の骨まで使って商売して、エリザ(あたし)を本当に供養してるとはいえないわ。ロランが本当にしたいこととは違うでしょ?これはただのお話、エリザの悲恋をもとにしただけじゃないの』

 先程より怒りのこもったあからさまな“批判”に、ナタリーは母校へ抗議することを決めた。こんなに“態度の悪い”生徒をのさばらせておけば、母校の評判が悪くなる。ひいてはナタリーの評判も下がることに繋がるのだから。出る杭は打たねばならない。

 そう決心することで、無意識に溜飲を下げていたナタリーに、またもや小娘が発言をした。


『―――そのうち化けてでるんじゃないの?エリザじゃなくて、ロランがね』


―――その言葉に、ナタリーは絶句した。この小娘、何を知っている?シーリーの隠している“真実”を知っているのか?なら、そのままにしておくことはできない。

「フェルス」

 ナタリーはすぐさまに、側に影のように控えていた秘書へ命令を飛ばす。

「あの小娘が何者かを調べなさい、そして追っ手をつけて、あたくしにすべて漏らさず報告なさい」

 是、という返事が聞こえ、周囲から気配が消えたことを確認すると、ナタリーはだん!と机を叩いた。屈辱に手が震える。何なんだ、あの小娘は―――






―――こうして、ひとつの歯車が動き出す。からからと回り始め、確実に物語の流れを動かしていく。

 この歯車の行き先ははたして吉と出るか、凶と出るか―――……それを目撃するのは皆さま方のみ。

 さぁ、物語のいく先はいかに…………


ナタリーさんはこう思っていました。最低な人ですね。展開上、必要なのでいれましたが、作者この人あまり好きではありません。

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