幕間〜過去、その時
過去のひとつ。
―――あたし達がいる場所は、断崖といえなくもない場所。建物二階建てくらいの高さの崖っぷちで、下には波が打ち寄せてる。見たことのない海はこんな感じの場所がたくさんあるって行商人がいってたけど、本当なのかなって思う。海は果てが見えないほど限りなく広くて、たくさんのいのちが生まれる場所だとも聞いた………この下は湖だけど、海みたいにたくさんのいのちが生きてるとあたしは思う。大小様々な魚たち、湖底に生える水草たち。魚だけでなくて、ちいさな海老とか、亀だっている。果ては見えるけど、あたしたちには大きな世界。
「エリザ」
あたしの手首と自分の手首を器用にハンカチで結ぶロランがこちらを見る。悲しそうな、でもあたしを安心させるために力強くあろうと笑う顔。あたしの、愛しい人。身分が違うけど、惹かれてやまなかったあたしたち。けれど、身分は越えれなかった。駆け落ちも阻止されて、こうして今一緒いれるけど、いつ見つけ出されるかはわからない。だから、
「エリザ。君とずっと一緒だ」
―――ロランは、あたしを自由のきく片方の腕で抱き込んで。あたしも彼に寄り添って。
「ロラン。あたしもよ」
―――そして、その時が近づいて。
「エリザ、僕は来世できっと必ず君を幸せにすると誓うよ」
―――ロランは決意に満ちた熱い眼差しで、あたしをいぬく。
「ロラン………!」
―――感極まったあたしは、すぐ迎えるその時が怖くな食っていくのを感じた。
「必ず君をすぐに探しだすから、それまで待っていてほしい」
「えぇ、待つわ。必ず、待つから………来てね、あたしのところへ」
そして、最後の抱擁をかわして、後ろからざわめき声を聞いたあたしたちは………
「いざ、次の世で幸せを―――」
―――あたしたちは、湖へ身を投げた。いのち溢れる湖へ。このあと、あたしは落ちていく途中に、強い風にあてられ気を失って……エリザの生を終えた。
あの頃のエリザ、まだ素直でした。




