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第七話『偶然の出会い』


「リリト様、信じられませんわ!何故“妖魔の森”なんですか?しかも迷子!」

アリスは抗議の声をあげる。

それもそのはず、街道をまっすぐ行けばいいものをリリトが近道を探そう、と“妖魔の森”に入り込んだのだ。

しかも道に迷い、今朝ようやくケールに到着したのだった。

これではアリスが怒るのも無理はない。大事な任務で来ているのに、寄り道で支障をきたすわけにはいかないのだ。

「……わらわが悪かった……だからそんなに怒るでない、しっかり任務は果たすから許してたもれ?」

アリスは反省の色をまったく見せないリリトを見て溜め息をついた。

(……リリト様に監視が付く理由が、なんとなくわかった気がする……)

アリスは、リンデン大陸の商人ギルドからの依頼を受けたリリトの監視役として、ナム・ラマ聖王国の命を受けてリリトの任務に同行していた。

その任務とは『盗みだされた“魔法の杖”の奪取』と『“魔法の杖”を盗んだ商人ダイトナ・ローエンの処刑』、それと『要人の救出』である。

ダイトナ・ローエンはアルカーマ共和国出身の大商人で、十年前に終結した“統一戦争”の際に多くの難民を他の大陸に売った奴隷商人だった。

しかも魔法の品や盗品を不法に輸出し、莫大な利益を上げ私利私欲の限りを尽くしていた極悪人である。

極秘の調査によりダイトナ・ローエンの不法行為が明らかになった時には、すでに一族を捨ててライマー島に逃亡していた。

商人ギルドはその失態を払拭するため、そして商人達への“見せしめ”のためにリリトに依頼をしたのだった。

(……いくら見せしめのためとはいえ、リリト様に依頼するとは……商人ギルドも大げさ過ぎるわ……)

アリスはこの任務に多少の疑問を持っていた。

しかし、達人と称されるリリトの腕前を間近で見られるという事もあり、余計な詮索はしないでいた……。

 

中央都市ケールに着いたリリト達は、宿で部屋を借りて情報収集する事になった。護衛で同行していたネロは、ケールまでの護衛の依頼を果たしたのでリリト達と別れ、食堂で食事をとっている。

しばらくはケールに滞在してからライマー島を回るという。

アリスは任務が監視だけだったので、武器の携帯をしていなかった。

そのため“妖魔の森”で思わぬ危険に遭遇したので、念のため護身用の武器を買いに装備関連の商店に出掛けている。

リリトは『雅な時間を堪能する』と言って、お茶のある店を求めて商店街を歩き回っていた……。

 

商店街の表通りにある“トラン・テア”は、異国の装飾を店内に施した少し異色の店だった。

気分転換で一息つけようとその店に入った私は、一人になりたかった事もあり店の離れの小さな個室で休む事にした。

部屋の中はテーブルもイスもなく、草を加工した敷物が敷かれているだけだった。

(……なんだかこの感じ、落ち着ける雰囲気ね……)

ここに来て正解だったかもしれない。この部屋の造りは、静けさを感じさせてくれる。

私はそんな事を思いながら、店員に出された飲み物を口にした。

(……に、苦い……)

これは、今までにない味だった。少しずつしか飲めないが、まずくはない。

最近は、考える事があり過ぎてゆっくりする暇もなかった。

私はせっかくの機会なので、お茶を飲み静けさを堪能する事にした。

ゆったりとした時間に目を閉じ、その不思議な雰囲気に身を委ねる……。

 

「……ほぉ、ずいぶんと美しいおなごじゃのぉ……」

うっかり眠っていた私は、女性の声で目を覚ました。

女性は異国情緒溢れる服を着ている。

しかし、不思議とこの部屋の雰囲気によく似合っていた。

「……くつろぎの邪魔をしてすまぬな。わらわも雅な時間を堪能しようと思い、知らずに来てしまった。許されよ」

女性は変な言い回しで話しかけてきた。

異国の者だろうか?見た目からしてライマー島の者ではなさそうだ。

「……わらわの言葉が気になるのかえ?顔に出ておるぞ?これは国の方言じゃ、気にするでない」

疑問に思った事を先に言われてしまった。なかなか鋭い女だ……。

「“和の心”を知る者よ、わらわはリリト・スティグマイヤーと申す。それにしてもお主、本当に美しいのぉ……」

女性はリリトと名乗り、私の容姿を褒めて座った。

「私はマーガレット・メロウスイート……旅人よ」

目の前の彼女は、私をまじまじと見つめる。

「旅人とな?この街は長いのかえ?」

「……三日前からいますけど」

彼女はうんうん頷く。よくわからない人だ。

「……そうか。では、少しは街の事は知っておろうな?わらわは人を探しにこの街へ来たのじゃが、ダイトナ・ローエンという商人は知らぬかえ?」

「!!!!!!」

なんたる偶然!彼女はローエンを追って来たのか?

私は驚きを隠せなかった。彼女も察したのだろう、私の顔を真剣に見ていた。

「……知っておるのじゃな?」

彼女は低い声で話しかけてきた。

その声には、さっきまでの雰囲気とは違った威圧感があった。

「……お主、ローエンを追って来たのか?それとも、仲間かえ?」

私は凄い重圧を感じていた。彼女はかなりの手錬だ、私の直感がそう告げる。

(……正直に言っても大丈夫そうね……)

話の流れからして、彼女はローエンの敵の様だ。

もしかしたら、彼女は力を貸してくれるかもしれない。

「……ローエンを追って来たわ。彼は私達の敵よ」

私は彼女の反応を見る。彼女がローエンの敵なら、有力な情報を与えてくれるだろう。

もし違った場合は、私の命が危ういが……。

「お主、正直者じゃな?……普通なら、少しは誤魔化すぞよ?」

彼女は呆れた様に言うと私に笑顔を見せた。

おそらく、私の言葉を信じてくれたのだろう。

「……わらわはリンデンから奴を追って来た。故あって訳は言えぬが、お主の味方と言えよう」

彼女もローエン追って来ている。

しかもリンデン大陸から追跡しているって事は、ローエンはお尋ね者なのだろうか?

彼女の奇抜な格好を見ると、かなり特殊な理由で追跡していると思われた。

それなら、彼女にローエンの事を聞いてみよう。

「……ローエンってルーン=マナスの人?」

「いや、アルカーマの出身じゃ。……お主、もしや魔法使いか?」

私は頷く。

「……そうよ。私達、ローエンを追って来たんだけど、戦士が一人しかいなくて……魔法が通じるかわからないから、手を打つ事ができないのよ……」

彼女は驚いた表情で私に言った。

「……無謀じゃな。お主、二人で攻める気だったのかや?いくらなんでも死にに行く様なものじゃ……見てはおれぬな。わらわは三日後の夜にローエンを討つ予定じゃが、その時まで待てぬかえ?」

そう言うと、彼女は着物の袖をひらひらさせながら私の反応を待った。

彼女は、答えは決まっているだろう?と言いたげな表情で私を見ている。

……利害は一致している。相手の情報も持っている。断る理由はなかった。

「わかったわ、共に戦いましょう。それで戦う時はどうすればいい?」

彼女が加わっても四人だ。

しかし、コンスタンスはミッシェルに気をまわすと思うから、正直言って今回は戦力としてはあてにできない。

冷たいけど、私情を挟んでは満足に戦う事など無理だと思う。

よって戦力は私とドム、そして彼女。

彼女に仲間がいるなら、戦略も立てやすいのだが……。

「言うまでもない。無論、正面から行くぞえ」

「……えっ?」

私は唖然とした。

私達には無謀と言っておいて、自分は正面から行くというのか?

「……わらわが正面から斬り込み、敵を引き付ける。お主らは隙を見て後から乗り込めば良い」

……すごい自信だ。

正面から行くと言うからには戦士の様だが、それほどまでに己の腕に自信があるのか?

確かにかなりの強さを秘めている様ではあるが、ローエンのいるアトラの屋敷には多くの護衛がいるはず。

わざわざリンデン大陸から追跡するくらいだから、それくらいの芸当は可能だとでも言うのか?

しかし、元々彼女は単独で斬り込むつもりだったはず。

それなら、信じてもいいのかもしれない。

疑問は残るが、ドムもいる事だし彼女の言う通りにしてみようと思う。

……話は決まった。

ドム達にも報告しなければならない。私は、彼女を連れて酒場へ行く事にした。

 

私達にとって、この偶然は大きい。話の流れでここまで来てのこの偶然。

コンスタンスの事もあり、偶然の出会いというものの与える影響力が、その人生をも変える事を私は知った。

だから、この偶然を生かさなければ、これからの冒険にも影響を与えると私は思うのだった……。

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