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第三話『旅支度』

(……ちょっと贅沢だったかな?)

いくら軍資金があるとはいえ、個室にしたのは冒険者らしからぬ行動だったかもしれない。

これでは観光客と思われても仕方が無いかも……。

そもそも冒険者が贅沢をするなど、余程の事が無ければあり得ない話だ。

大陸にいた頃は、飲み食いにお金をかけても宿は大部屋だった。

『冒険者は、いつ何時非常事態に遭遇するかわからない。

そのため、常に連携が取れる様、出来る限り行動を共にする事が望ましい』

国の訓練施設で学んだ『冒険者の心得』の一つを思い出した。

そうだった。個室に泊まったら、いざという時に対処できない。

(……マスターが観光客と思ったのも仕方無いわね……)

私は反省した。

いくら平和な島とはいえ、危機感を忘れるなんて冒険者失格だ……。

(……そろそろ、お昼かな?)

私は魔術書を閉じ、身支度して下へ降りた。だ一階の酒場にはコンスタンスしかいなかった。

一人しかいないのにカウンターではなく、テーブルに座って昼食をとっている。

彼女は無愛想なマスターを避けて、テーブルに移動したのだろう。

(……無愛想って言うより無表情?黙られると、見た目も見た目だし怖いのよね……)

おそらく、マスターは私達を観光客としか見ていない。

何故なら私達に対する態度にそれが現れているから。

はっきり言ってしまえば対応が適当なのだ。

……冒険者としてこれほどの屈辱はない。

(……見てなさいよぉ。いつかその態度、後悔させてあげるわ!)

確かに、名の知られない冒険者が舐められるのは仕方が無い事だ。それでも私はマスターの態度に腹が立った。何故なら、見た目で判断した違いないから。

私は、大陸にいた頃から見た目で損をしてきた。それは冒険者として接してもらえない、というある意味致命的なものだった。

その劣等感が、私を苛立たせた。

(……絶対、有名になってマスターを驚かせてやるわよ!)

私はいつもより早めに昼食をすませると、コンスタンスを連れて酒場を出た。外に出ると街は行き交う人々で賑わっていた。

もちろん、その中には冒険者もいる。

しかし、酒場での一件があったので、今さらスカウトする気にもなれなかった。なのでおとなしく薬屋へ向かった……。

薬屋“メイデンの店”には、様々な種類の薬草が置いてあった。

さすがに港町と言われるだけあって、ライマー島全土から薬草を仕入れているのだろう。

ここなら各地の情報にも詳しいと思った私は、情報収集もついでにしてしまおうと店主に声をかけた……。

「……する事が無くなったわね。コンスタンスはどこか行きたい所ある?」

買い出しと情報収集を終えた私とコンスタンスは、近くの料理屋で優雅な一時を過ごしていた。私の類稀な美貌に心奪われた薬屋の店主が、薬草を半額で売ってくれたからお金に余裕ができたのだ。この時間に酒場に戻ったところで、する事がないしドムの様に修行をするといっても、魔術師である私とコンスタンスに出来る事は魔術書を読むくらいしかできない。

「……マギー、“夜の領域”にあるルターズまでは、十日もあれば着くのよね?」

「そうよ」

「……十日間、前線ドム一人で大丈夫かな?私達を一人で守るのは大変よね……」

このコンスタンスの不安は私も思った。だが、大陸にいた時からドムは頼りがいのある戦士だった。

そのせいか、いかに初めての土地あってもドムなら守りきる、そんな安心感も私は同時に持っていた。

「……正直わからないけど、あれでもドムはそこそこ頼りになるじゃない?まぁ、資金に余裕はあるから無理せず宿を利用すれば大丈夫よ、きっと」

薬屋の店主によれば、盗賊の類は滅多に出ないという。

街道沿いに旅すれば危険な目に遭う事はないはず。ライマー島は種族による領域がはっきりしている。

だから、街道から外れない限りは比較的安全に旅ができるそうだ。

もちろん、運が悪ければ襲われてしまうが……。

「……コンスタンス、ごめんね……私がお尋ね者にさえならなければ、こんな不安な旅をしなくてもいいのにね……」

本来なら、コンスタンスはライマー島に来る必要がなかった。

それなのに旅は道連れ、とだけ言って彼女は一緒に来てくれた。

それだけに、できるだけ彼女を危険な目に遭わせたくない。

「……このままだと暗い話になっちゃうわね?でも無理はしないで。いくら親友でも、嫌になったら大陸に帰ってもいいからね?」

冒険者は、時に非情にならなければならない。いくら親友が相手でも。

「私、マギーと一緒に冒険したいの。大切な仲間ですもの。だから、私は帰らないわ」

コンスタンスの言葉が心に染みる。

(……仲間、か。ドムもコンスタンスも、人が良すぎるわよ、まったく)

私は、不覚にも泣きそうになった。二人とも、冒険者のくせに情が深い。だからこそ、信頼できるのかもしれない。

冒険者にとって、やっぱり『仲間こそが宝』なのだと、改めて知る事ができた。

私には信頼できる仲間がちゃんといる。そう思うと、明日からの冒険にも希望が持てた。

たとえ戦士のドムに魔術師のコンスタンス、同じく魔術師の私というパーティーでも、二人とはもう長い付き合いだ。

それだけに、他の冒険者パーティーに負けないだけの連携は取れるだろう。

厳しい航海を乗り越えてきたんだ、それだけの自信はある。


(……きっと、大丈夫よ。何度も危機を乗り越えてきたんだから……)

確かに未知なる冒険に不安は拭いきれない。でも、それはいつだって同じだ。

不安のない冒険なんてない。だから、ドムだって剣の修行をして己を鍛え上げている。

そうやって自分の気持ちを強くして冒険に臨むのだ。

「……私を信頼してくれる様に、ドムの事も信頼してるでしょ?」

コンスタンスは頷く。

それは当たり前の事だ。そうでなければパーティーを組んだりはしない。

「もちろん信頼しているわ……そうだったわ、ドムはいつも盾になってくれたのよね……」

おそらく不安にばかり目がいってしまったのだろう。

コンスタンスは少し恥ずかしそうにうつむいた。

「……いけないわ。不安な気持ちで仲間を疑うなんて……マギー、ごめんなさい。もう大丈夫よ」

どうやら気持ちが吹っ切れた様だ。これで明日からの冒険に何の支障もなくなった。

……明日から、いよいよ私達の冒険が始まる。

ライマー島で初めての冒険。それはきっと大陸とは違う旅になるだろう。

だから、今夜は旅立ちに向けて景気良くいこう。

今夜だけは、ドムの深酒にも目を瞑って楽しく騒ごうと思う。

いよいよ、次回から冒険に出るマギー達。ようやく冒険に出れる……でも、ちょっと長かったなぁ(反省)それにしてもマギーはエルフらしくない。人間社会で育ってきた影響でしょうか?こんなマギー達ですが、今後とも温かく見守って下さい(笑)長い後書きでしたけど、読んで下さってありがとう!

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